サーキット走行も爽快!新型「ヤリス」でさらに鮮明になったトヨタの本気
&GP / 2019年11月17日 19時0分
サーキット走行も爽快!新型「ヤリス」でさらに鮮明になったトヨタの本気
「トヨタ、どうしちゃったの!?」。そんな言葉が思わず口から漏れ出るくらい、サーキットでのプロトタイプの走りは想定外だった。
トヨタ自動車は2020年2月、新しいコンパクトカー「ヤリス」を発売する。新しい、といっても、正確には、これまで「ヴィッツ」と呼ばれていたモデルがフルモデルチェンジを機に、車名を変えるのだ。
実は、ヴィッツと呼ばれていたのは日本市場だけであり、日本以外のマーケットでは、これまでもヤリスを名乗っていた。つまり、今回のフルモデルチェンジを機に、日本での車名も世界統一のネーミングに合わせたのである。
■WRCでの知見を車体や足回りの開発に活かした
新型ヤリスのボディサイズは、全長3940mm、全幅1695mm、全高1500mmとアナウンスされている。昨今、クルマのフルモデルチェンジでは、ボディサイズの拡大が当たり前、という状況になっているが、新型ヤリスの全長は現行ヴィッツより5mm短く、大型化を避けている。それでいてホイールベースは、2550mmと実に40mmも延長。さらにルーフ高を30mm低くするとともに、乗員を低く座らせることで、約10mmの低重心化も実現した。結果、室内(特にリアシート)は狭くなったが、それよりも走行性能を高められるパッケージングを重視したのである。
それを示すように、新型ヤリスは開発キーワードのひとつに“ひとクラス上の走り”を掲げ、クラスを超えた走りの質を追求したという。
プラットフォームは完全新設計。“口の字”状に骨格を連結して固める“環状構造”をフロントの隔壁やリアゲート周り、そして、フロントのドア開口部周りに採用するなど、剛性アップを徹底することで、現行ヴィッツ比でねじり剛性は30%アップしている。優れた走りには強固なボディが不可欠だが、まずはそこからしっかりと作り込んできたのだ。ヤリスは世界を転戦しながら公道最速の座を争うWRC(世界ラリー選手権)に参戦し、2019年シーズンもドライバーズタイトルを獲得しているが、新型はそこでの知見を活かし、車体やサスペンションを磨き上げたという。
新型ヤリスに用意されるパワーユニットはいずれも3気筒で、1リッターと1.5リッターの自然吸気ガソリンエンジンと、1.5リッター3気筒にモーターを組み合わせたハイブリッド仕様の3タイプ。1リッター3気筒は現行ヴィッツに積まれるそれを大幅改良したものだが、1.5リッターエンジンやハイブリッドユニットは、完全なる新開発となる。
このように新型ヤリスへのフルモデルチェンジは、プラットフォームやパワーユニットなど、クルマのほぼすべてのメカニズムを刷新するという、かなり力の入ったものであることがうかがえる。
■新型ヤリスのフットワークは期待以上の完成度
新型ヤリスのテストドライブの舞台は、プロトタイプということもあって、公道ではなくミニサーキット。乗り心地など公道でしか分からないこともあるが、運動性能に関しては、限界領域での走りを試せる分だけ、サーキットでの試乗の方がクルマの特性を理解しやすい。
ここ数年、トヨタの新型車は動的性能が劇的にレベルアップ。しかも新型ヤリスは、開発陣が「走りに力を入れた」とアピールするくらいだから、それなりに良く走るだろうとは、乗る前から想像していた。それでもコースインすると、「トヨタ、どうしちゃったの!?」という冒頭の言葉が漏れ出るほど。走りの出来栄えが想像を超えていた。走り出してみると、なんとまあ期待以上の爽快感。とにかく操縦性が素晴らしいのだ。
クルマの試乗レポートでは、しばしば“素直なハンドリング”という表現を目にするが、それが意味するところは、ドライバーの思う通りの動きをクルマがしてくれるか否か、である。コーナリング時の車体の傾きが急激だったり、特定の領域になると曲がらなくなったり、逆にすぐに曲がり過ぎたりといった具合に、ドライバーの意図しない動き、つまり走っている時の“雑味”をいかになくせるかが、素直なハンドリング作りにおけるエンジニアの腕の見せどころといえる。
ヤリスの限界領域での走りで素晴らしいのは、そういった雑味を徹底的に排除していること。車体の挙動にブレがなく、ドライバーの予知しない、不快で不安な動きを伴わないから、運転していて楽しいのだ。
例えばPCのマウスは、電池切れ直前になるとマウス動きとモニター上のカーソルとの動きにバラツキが生じ、不快な“ギクシャク”が発生する。逆に、マウスの動きとカーソルの動きとがしっかりリンクし、微妙な動作まで思った通りにカーソルをコントロールできると気持ちいいはずだ。同様に、ドライバーの意図した通りにクルマが動けば、爽快感を覚える。新型ヤリスはそこを、上手に味つけしているのだ。この爽快な走りは、限界走行領域でも変形しにくい高剛性ボディと、それを前提に作られた、しなやかに動いて路面を捉えるサスペンションの賜物といえるだろう。
■MT仕様はいつまでも走っていたくなるほどの楽しさ
出来のいいフットワークと同様、新型ヤリスはパワーユニットの進化も見逃せない。
モーター出力が30%アップし、中間加速域のシステム出力は50%も向上したハイブリッド仕様は、モーターによるアシストが強まり、加速時の力強さが増している。しかし、それ以上に美点と感じたのは、アクセルペダル操作に対する反応が、とても自然になったこと。
現行ヴィッツのハイブリッド仕様は、アクセルペダルを踏んだ後の反応が鈍く、細かな速度コントロールが難しかった。しかし新型ヤリスは、ペダルを微調整しやすくなったのに加え、強く加速しようと多く踏み込んだ際にも、エンジン回転数が先に上昇した後に加速するという従来モデルの違和感がなくなり、速度の上昇とエンジン回転の上昇とがしっかりリンクするようになった。こうした不自然さの解消も、心地よい走りにつながっている。
ちなみにハイブリッド仕様は、現行ヴィッツのそれに比べて、約20%の燃費向上(欧州WLTCモード)をターゲットにしているという。現状、詳細な数値は公表されていないが、プロトタイプの時点でそのように公言するということは、かなりレベルが高いということだろう。
続いてドライブしたのは、1.5リッター自然吸気ガソリンエンジンに、CVTを組み合わせた仕様。トランスミッションのダイレクト感が増したのが好印象につながっていて、こちらも気持ちよくサーキットを走れた。
最後に乗ったのは、1.5リッター自然吸気ガソリンエンジンに、6速MTを組み合わせたモデル。新型ヤリスの美点である爽快なハンドリングと、パワーは控えめながら、それをMTでフルに引き出してのサーキット走行は、いつまでも走っていたくなるほどの楽しさ。スポーツグレードではない普通のコンパクトカーで、これほどまでに気持ちよく走れることに驚かされたし、そんなベーシックな仕様にも、走る楽しさが詰まっていることが印象的だった。
「やればできるじゃないか!」。新型ヤリスのプロトタイプをドライブして真っ先に感じたのは、クルマ作りに対するトヨタの大きな変化だった。今回はサーキットという限られた条件での試乗だったが、その分“トヨタの本気”が鮮明に感じられた。
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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