混戦必至!2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の気になる実力③:岡崎五朗の眼
&GP / 2019年12月4日 19時0分
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混戦必至!2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の気になる実力③:岡崎五朗の眼
いよいよ今度の金曜日、2019年12月6日に、2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー(以下、COTY)が決定します。
今回のノミネート車種は、2018年11月1日から2019年10月31日までに発表または発売され、年間500台以上の販売が見込まれる乗用車全35台。そのうち、選考委員の投票で選ばれた上位10台の“10ベストカー”が、最終選考へと勝ち残りました。
気になる2019-2020“10ベストカー”の実力とは? 目前に迫った最終選考を前に、選考委員を務めるモータージャーナリスト・岡崎五朗氏が、それぞれの魅力や気になる点について3夜連続で解説。最終回となる今回は、輸入車4台の真価に迫ります(※掲載順は2019-2020COTYのノミネート番号順)。
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混戦必至!2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の気になる実力②:岡崎五朗の眼
■走りの質の高さでライバルを凌駕するBMW「3シリーズセダン」
BMW「3シリーズセダン」
新しいBMW「3シリーズ」は、本当に出来のいいクルマだ。先進安全装備が充実し、高速道路での渋滞時に手放し運転を可能にする“ハンズ・オフ・アシスト”機能が導入され、環境問題にもしっかり対応。その上で、ボディを骨格から軽く作ることで重量増を抑え、BMWらしいドライビングプレジャーもしっかり残している。そういう意味で、本当にパーフェクトなモデルチェンジだったと思う。
しかし、昨今のマーケット状況を踏まえると、「だからどうした?」と見る人も多いのではないだろうか。高級車として王道の進化を遂げた新型3シリーズも、ストレートにいえばセダンの最進化型に過ぎない。かつて定番だったセダンやハッチバックは、今やニーズがシュリンク。新しモノ好きの人たちは、テスラを始めとするEV(電気自動車)やSUVなど、ほかとは違うスパイスの効いたクルマへと食指が動いている。そうした状況下、果たして新型3シリーズは、歴代モデルと同様の成功を収めることができるのか? ちょっと気がかりだ。
一方、天邪鬼の視点から見ると、SUVがこれほどまでにヒットしている昨今、逆張りでセダンに乗るのもカッコいいと思う。逆張りで乗るためには、セダンを選ぶ意義、なぜセダンに乗るかの理由が求められるが、セダンには、あらゆる点でバランスがとれている、という最大の武器がある。静粛性が高くて乗り心地に優れるという快適性の高さはもちろん、低い重心を生かし、サスペンションセッティングをスポーティに仕立てられるのもセダンならではの美点だ。
実際、新型3シリーズをドライブすると、ロードノイズがしっかり抑えられていて、雨の日のドライブでも、路面の雨水をタイヤが跳ね上げて生じるスプラッシュノイズが驚くほど小さいなど、抜群の静粛性を実感できる。乗り心地も快適で、路面の凹凸を乗り越えた際、ゴツゴツと不快な振動を伝えてくることもない。
ハンドリングフィールはナチュラルで、いい塩梅のセッティングに仕立てられている。かつて3シリーズは、ハンドルを切った時の車体の反応がクイック過ぎるなど、過剰にスポーティ感を演出していた時期があった。しかし、そこからの反動なのだろう、最新モデルではとても自然な乗り味で、まさにセダンの王道をいく味つけになっている。
中でも、世界に先駆けて日本市場に先行導入された「320i」は、穏やかでまろやかな乗り味の持ち主。程良いエンジンパワーや充実の装備内容、手の届きやすい価格設定など、非常にコストパフォーマンスに優れたグレードだと思う。
320iの4気筒エンジンは、アクセルペダルを深く踏み込んだ際、いきなりトルクがドカンと立ち上がるような性格でこそないが、バランスに優れ、高回転域まで回した際の音も、ザラついた印象がなくて気持ちがいい。このエンジンは今、世界で最も上質なユニットのひとつだと断言できる。
昨今の4気筒エンジン、特に日本車のエンジンは、燃費を意識するあまり効率重視の設計となり、回転フィールが味気ないものが増えている。しかも、軽く仕上げるためにエンジンブロックの軽量化を図った結果、設計上の強度の問題こそないものの、高回転域まで回していくと音が濁ったり、微振動が出たりする。その点、BMWの4気筒エンジンは、そうした回転フィールまでしっかり考慮して作られている印象だ。これなら、6気筒エンジンからのダウンサイザーも、満足できることだろう。
それでいて、6気筒エンジンを搭載する「M340i xDrive」に乗ると、「やっぱりBMWの6気筒はいいな」と実感させられるのが、3シリーズというクルマの面白さ。1台でこれほど多彩な顔を持つ上質なセダンは、ほかではちょっと見当たらない。
メルセデス・ベンツ「Cクラス」にアウディ「A4」、ボルボ「S60」やレクサス「ES」、そしてトヨタ「クラウン」など、新型3シリーズと同価格帯で買えるライバルにも、強力なモデルがそろっている。その中で、エンジンのスムーズな回転フィールや、滑らかな上質感の中にスポーティ感を封じ込めたかのような乗り味など、走りの質の高さにおいては、新型3シリーズはライバルを凌駕していると思う。
ジャガー「I-PACE」
テスラ以外の自動車メーカーでは初めて、EV専用のプラットフォームを採用したモデルがジャガー「I-PACE」。
メカや居住スペースの配置をEV用に最適化した上で、短いフロントノーズや長いホイールベースなど、EVならではの個性をエクステリアデザインに落とし込んだ点が新しい。デザイン面でのEVアピールに乏しいテスラに対し、I-PACEは加速の良さや優れた静粛性だけじゃなく、カタチの面からも従来のエンジン車との違いをアピールする。
ちなみにジャガーのデザインといえば、ロングノーズ/ショートデッキというのが、これまである種のお作法だったが、I-PACEではあえてそれを踏襲しなかった。EVでなければ成立しないI-PACEのフォルムは、ジャガーとして見れば異質だが、逆に新しさを感じさせる大きなポイントとなっている。
そんなI-PACEを初めてドライブしたのは、ポルトガルで行われた国際試乗会だった。現地の道路は舗装の状態が最悪で、路面はでこぼこ。そんな過酷な道を2日間、計500kmほどの距離を走り回ったのだが、I-PACEは乗るほどに、走りの良さを感じられるクルマだった。試乗会のプログラムには、一般路での試乗のほかに、途中、サーキットやオフロードコースもあったが、I-PACEはどんな路面でも、難なく走破してくれた。そうしたコース設定からは「自動車メーカーが作るクルマは、どんな道でもしっかり走れなければいけない」という、テスラに対する強いライバル心とともに、I-PACEの走りに対するジャガーの自信が感じられた。
今回、久しぶりにI-PACEをドライブしたが、その乗り味はまさしく、ジャガーのそれ。I-PACEの乗り味がジャガーらしく感じられる要因は、驚異的なボディ剛性の高さで、2シータースポーツカーの「Fタイプ クーペ」に匹敵する剛性を確保しているという。Fタイプに比べてホイールベースが長いのに、ボディのねじれ剛性が同等というのは、ボディを相当強固に作り込んできたことの証でもある。
そうした強固なボディが走りのベースにあるI-PACEは、日本の荒れた路面を走っても、乗り味に荒さは感じられない。普通のクルマで荒れた路面を走ると、当然、ガタガタという振動が伝わってきて、「路面が荒れているからしょうがないな」と思いがち。しかしI-PACEで同じ道を走ると、「実は路面が荒れていても、乗り心地というのはこんなに良くできるんだ」と驚かされる。
これぞまさに、昔から“猫足”と称されるジャガーならではのフットワークだ。サスペンションが突っ張ったり、硬かったりという印象はなく、しなやかだけどスポーティという独特の乗り味。スポーツには、力と力でぶつかりあう格闘技から優雅なアイススケートまで、多彩な競技があるが、ジャガーにとってのスポーティとは後者である。汗くさくなく、しなやかな動きやカラダのバランスの良さで勝負するかのような感覚が、I-PACEの走りからは伝わってくる。
■ジープ「ラングラー」は最強のライフスタイルカー
ジープ「ラングラー」
日本へ上陸する前、ジープ「ラングラー」の最強グレード「ルビコン」で、ジープのエンジニアたちがテストを繰り返す聖地・ルビコントレイルの極悪路を走る機会があった。そして、新型ラングラーのあまりの悪路走破性の高さに、心底驚いたのを覚えている。
そうした抜群の悪路走破性こそジープの核心だが、それをスポイルすることなく、新型はリアシートの居住性を高めたり、最小回転半径を小さくしたり、乗り心地を改善したり、燃費を向上させたりと、現代に合わせてきちんとモダナイズされている。普通の人なら、2台並べて子細に見比べない限り、先代モデルとの違いに気づかないほど見た目は変わっていないが、実はその中身は大幅に進化している。これぞまさに、キープコンセプト型モデルチェンジの王道といえるだろう。
運転席に乗り込んでみても、目の前に広がる景色は従来モデルから不変だ。確かに、インパネ中央にナビゲーションアプリなどを表示できる液晶モニターが備わるなど、新型のコクピットは現代的な要素を取り込んでいる。しかし、平面ガラスで作られた横長のフロントウインドウが垂直に切り立ち、その先にボンネットフードが伸び、ボンネットの両サイドにタイヤを囲むフロントフェンダーが張り出すという構成は、従来モデルと全く同じだ。この独特の世界観は、並のSUVではちょっと味わえない。
全天候型の“オールテレインタイヤ”を履く「サハラ」「スポーツ」の両グレードは、オンロード志向が強く、高速道路などでも安心してラクに走れる。従来モデルは、オールテレインタイヤを履くグレードでも、乗り心地が悪くてまっすぐ走らないなど、結構苦労させられた。しかし新型は、オンロードでの普段使いも快適にこなせるだけの乗り味を手に入れている。
一方、過酷なオフロードでの使用を想定し、トレッドパターンに大型のブロックを配した“マッド&テレインタイヤ”を履くルビコンは、「今の時代、これほど直進性の悪いクルマがほかにあるか!?」と思うくらい、まっすぐ走らせるのさえ難しい。耳に届くタイヤノイズも、現代のクルマとしてはあり得ないレベルだ。とはいえ、多少直進性が甘くても、専用の装備類で特別感を放つルビコンの方がカッコいい。そう思えるところが、このクルマの希有な部分だ。ラングラーに乗っているからといって、極悪路を走る機会なんてそうそうないが、そういうところでもラクに走破できるというストーリーが、人々の所有欲をくすぐる。
その乗り味からも分かる通り、ラングラーは移動の道具としてお勧めできるクルマではない。これは最強のライフスタイルカーだ。そういう意味で、オーナーにとっての愛車や相棒といった表現が、とてもマッチする。出来が良くなり洗練された現代のクルマは、つまらないという評価をしばしば目にするが、実はそうしたモデルに欠けているのは、ラングラーにあるようなストーリーではないだろうか。
日本人はクルマが好きではない、なんて見方もあるが、世界的に見て、公道のレーシングカーと呼ばれるポルシェ「911」の「GT3」や、VW「ゴルフ」のスポーツグレード「GTI」が、これほど売れている国も珍しい。同様に、ルビコンを始めとするラングラーも、日本が北米に次ぐ第2位の市場規模になっている。日本にはまだまだ、ファナティックな自動車ファンが存在する…新型ラングラーはそのことに、改めて気づかせてくれた。
メルセデス・ベンツ「Aクラス/Aクラスセダン」
「ハイ、メルセデス!」と話しかけるだけで、車内のさまざまな機能を操作できる“MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)”が話題を呼んだ新型「Aクラス」。
上陸直後にドライブしたハッチバックは、確かにスポーティな乗り味だったが、ロードノイズがうるさく、路面の段差を乗り越えた際の突き上げも、メルセデスとしては大きめ。コンフォート面では決して褒められるクルマではなかった。しかし、先頃上陸したセダンは、その辺りがずいぶん良くなっている。タイヤのパターンノイズこそ耳に届くが、キャビンとラゲッジスペースとがきちんと分かれていることもあり、リアから聞こえてくるノイズが大幅に小さくなった。しかも、乗り心地もしなやかさが増している。
メルセデス・ベンツといえば、世界で初めて実用ガソリン車を手掛けた古典的なメーカーであり、ブランドイメージもどこか硬いイメージがある。そんな老舗ブランドが、どこよりも早く、MBUXのような新しいインターフェースを実用化したのは驚きだ。他社、特に日本車メーカーは、このことに対してもっと刺激を受けるべきである。
オーディオひとつとって見ても、日本車メーカーは「ユーザーは“2DINサイズ”のオーディオを好む」という過去のマーケティングデータに縛られるあまり、自ら新たなチャレンジを阻んでいるように思う。マーケットリサーチを行う際、新しいものを提示することなく、従来のものに対して「何か不満はありますか?」と尋ねたところで、「別にないですよ」という判で押したような回答しか得られないのは明白だ。現状のマーケットリサーチは、内容自体に欠陥があるとしか思えない。あるいは、調査する際に、むしろ現状を変えたくないというバイアスが掛かっているのではないだろうか。
その点メルセデスは、Aクラスで初導入したMBUXを、モデルチェンジを機に他のモデルにも水平展開している。こうした迅速な動き、そして、常に新しいものを生み出そうという積極的な姿勢は、他メーカーも見習うべきだろう。
Aクラスのデザインは、誰が見てもメルセデスに見えるというところにキモがある。
ライバルのBMWは、フロントマスクの“キドニーグリル”と、“ホフマイスター・キンク”と呼ばれるリアピラー付け根の跳ね上げられたラインがデザイン上の特徴とされてきたが、昨今、多彩なボディラインナップを展開する中で、後者のないモデルも登場。一方で、最新モデルはキドニーグリルがどんどん大きくなるなど、まさにキドニーグリル頼みといった状況にある。
対して、Aクラスを始めとするメルセデス各車がメルセデスらしく見えるのは、過去のモデルが採用していたデザイン要素をきちんと消化した上で、新たなインプットを盛り込んでいるからだと思う。ボディパネルの面の張りや、ヘッドライトやテールランプの形状など、「これぞメルセデス!」という厳密なルールこそないものの、よくよく見ていくと、ディテールのデザインには継続性が見られる。全体的には「変わったな」と思わせながら、細部にはメルセデスならではのデザイン言語が息づいているのだ。
キドニーグリルのないBMWは、下手をするとBMWに見えない恐れがあるが、Aクラスを始めとするメルセデス各車は、フロントマスクを隠しても、やはりメルセデスらしく見えてしまう。こうした継続性を秘めている点が、メルセデスデザインのすごいところだと思う。<完>
(文責/&GP編集部)
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