ライバル不在!トヨタ純正カスタム仕様の「ハイラックス」は黒が効いてる
&GP / 2020年1月11日 19時0分
ライバル不在!トヨタ純正カスタム仕様の「ハイラックス」は黒が効いてる
トヨタのピックアップトラック「ハイラックス」には、誕生50周年を記念した「Z“ブラックラリーエディション”」というモデルがラインナップされている。
今回、その特別仕様車をドライブし、改めてピックアップトラックやハイラックスの魅力について考えてみた。
■現行ハイラックスは世界最大の市場で作られた“ガイシャ”
ハイラックスのZ“ブラックラリーエディション”を紹介する前に、まずはピックアップトラックについておさらいしておこう。
ピックアップトラックとは本来、小型トラック全般を示す言葉だったが、今では一般的に、ボンネット付きの小型トラックのことを指すようになった。かつては日本の街でも多く見かけたが、2000年代に入ってからは台数が減少。トヨタがハイラックスの国内販売を2004年に終了し、三菱自動車も「トライトン」の販売を2011年に中止するなど、新車で手に入れることができなくなったことが、その大きな要因だろう。
そもそも、なぜピックアップトラックは日本から消えてしまったのか? それは、ユーザーのニーズが変化したからにほかならない。ボンネットのない小型トラックに比べると、ピックアップトラックはボンネットが備わる分だけ、全長に対して荷台が小さくなってしまう。ボンネットを必要とするよほどの理由がなければ、より多くの荷物を詰める一般的なトラックが選ばれるのは当然の流れだ。また、北米市場などとは異なり、日本ではピックアップトラックを乗用車として乗るニーズが極めて少ないことも、ピックアップトラックの衰退に拍車をかけた。
そんな中でトヨタは、2017年にハイラックスの国内販売を13年ぶりに再開するという英断を下した。日本に導入される現行モデルは、歴代でカウントすれば8代目。日本での販売を休止していた間に車体は大型化し、現行ハイラックスの全長はなんと5mオーバーとなった。一般的な駐車枠には収まり切らないため、自宅の駐車場だけでなく外出先でも、駐車場探しに少々苦労する。
ちなみに、現行ハイラックスは東南アジアのタイで作られ、日本では輸入車というカタチで販売されている。かつて限定販売された三菱自動車のトライトンも、同様の手法を採っていた。なぜ自動車メーカーは、タイでピックアップトラックを生産しているのだろうか?
その答えは、タイが世界最大を誇る小型ピックアップトラックの市場だから。首都バンコクでこそ最近は見る機会が減ったものの、都市部を離れると、ピックアップトラックを見かける頻度の高さに驚かされる。トヨタだけでなく日産自動車や三菱自動車、そして、いすゞやフォードなども、タイに小型ピックアップトラックの生産拠点を設け、そこから世界各地へ輸出しているのだ。
■ロマンを求める人向けのZ“ブラックラリーエディション”
トヨタは国内導入の再開に当たって、ハイラックスというクルマはどんなユーザーに好まれるのか、しっかりチェックしてきたようだ。例えばそれは、グレード展開にも見て取れる。ベーシックグレードの「X」は、悪路に強いトラックを必要とする自治体へ納めることも視野に入れた仕様である一方、ピックアップトラックにロマンを求める人向けには、Z“ブラックラリーエディション”のような特別仕様車を用意する。
Z“ブラックラリーエディション”は、ブラックに塗られたアルミホイールやフロントグリル、バンパーなどを専用装備するほか、無骨さを強調するオーバーフェンダーを装着。
また、18インチにサイズアップされたタイヤは、サイド面に刻まれる文字を白く塗った“ホワイトレター”仕様といった具合に、ポイントを押さえたドレスアップが施されている。
しかも、メーカー純正カスタムカーと呼べるZ“ブラックラリーエディション”が、ベース車のわずか20万円アップで手に入るというのだから、魅力的というしかない。
ドアを開け車内に入ると、まるで乗用車であるかのような眺めに、かつてのハイラックスとの違いを実感。記憶にあるかつてのハイラックスとは異なり、インパネの仕立てにチープ感はなく、後ろを振り返らなければセダンと錯覚しそうなほどだ。
また、日本仕様はすべてのグレードが、広いリアシートとリアドアを備えた“ダブルキャブ”仕様で、後席の背もたれが立っているのが気になるものの、ファミリーカーとしても十分活用できる広さを確保している。
そのほか、自動ブレーキや追従式クルーズコントロールも標準装備されるなど、装備類も一般的な乗用車と比べてそん色ない。
このように、随所に進化を感じさせる現行ハイラックスだが、エンジンをかけた瞬間、乗用車との違いを実感する。パワートレーンは、2.4リッターのディーゼルターボに、6速ATと機械式4WDの組み合わせ。
エンジンは振動と音が大きめで、よくいえば荒々しく、平たくいえば快適ではない。走行フィールも、乗用車どころか昨今のSUVとも全く異なるもので、路面の段差を超えた際には、その衝撃をしっかり乗員へと伝えてくるし、操縦性は逆に、ダイレクトなフィーリングなど感じられない。ひと言でいってしまうと懐かしい乗り味で、かつてハイラックスに触れたことがある人なら「変わっていないな」と、まるで昔の友人に再会したかのような気分にさせられるはずだ。
■独特の雰囲気はハイラックス以外に味わえない
乗用車として見れば、性能面でハンデを負っている現行ハイラックスだが、忘れられない昔の恋人のように、強く惹きつける魅力があるのもまた事実。ふと気がつくと、いっしょに過ごしたい衝動に駆られてしまうのだ。それはなぜか?
まず考えられるのは、唯一無二の存在であること。日本市場においては、ハイラックスに競合車は存在せず、しかも、ラダーフレームにコンベンショナルな4WDシステムを組み合わせるという昔ながらのクルマ作りには、ビシッと太い筋が通っている。しかも、前後直結やローギヤを備えた強靭な機械式4WDシステムが生み出す悪路走破性は、「ランドクルーザー」のそれを継承したもの。そんな、ほかのクルマとは違うなんとも強烈な存在感が、クルマ好きを惹きつけてやまないのだ。
そして今回、数日間を共に暮らして感じたのは、現行ハイラックスがとてもクルマらしいクルマだということ。自動化や電子制御といった類いは最小限で、トランスミッションこそATながら、運転操作はまるで機械と対話しているかのよう。単に、ドライバーの要求をクルマが受け入れるだけでなく、ドライバーとメカニズムとが協調しながら走らせているという感覚があり、ドライブしていて実に楽しいのだ。
ハイラックスは、快適性や効率を求める一般のユーザーには無縁の存在だ。しかも、ピックアップトラックは荷物車扱いだから、毎年、車検を受けなければいけないし、1ナンバー登録なので高速道路の料金も高い。それでも、この独特の雰囲気は、日本においてはハイラックス以外に味わえない。なんともいえない魅力と、クルマ好きを虜にするロマンが詰まっているのだ。
<SPECIFICATIONS>
☆Z“ブラックラリーエディション”
ボディサイズ:L5320×W1885×H1800mm
車重:2090kg
駆動方式:FR/パートタイム4WD
エンジン:2393cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:150馬力/3400回転
最大トルク:40.8kgf-m/1600〜2000回転
価格:403万4800円
(文&写真/工藤貴宏)
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