官能的な走りを味わえる最後の1台!?レクサス「RC F」は時代に逆行する絶滅危惧種
&GP / 2020年1月28日 19時0分
官能的な走りを味わえる最後の1台!?レクサス「RC F」は時代に逆行する絶滅危惧種
役目を終える車両や廃線となる路線へと乗りに出掛ける鉄道ファンのように、消えゆくものを味わえるうちに味わっておくというのはオツなもの。クルマの世界において消えゆくものの代表といえば、純粋なエンジン車だろう。
今後、燃費や排出ガス、騒音面などの面で、ますます規制が厳しくなることを考えれば、急激に、とまではいかなくても、ジワジワとEV(電気自動車)が増えていくのは想像に難くない。そう遠くないうちに、EVやハイブリッドカーといったモーター付きのクルマが、これまで以上に大増殖するのは間違いない。エンジンだけを動力源とするクルマは、この先、劇的に減っていくだろう。
つまり、ピュアなエンジン車が好きなら、来るべきその日に備え、その気持ち良さを存分に味わっておかなければいけないーー。クルマ好きにとって今は、そんな時代なのだ。
■あのフェラーリでさえ燃費を意識してターボ化する時代
中でも、真っ先に消えゆく存在と予測されているのが、大排気量のNA(ノーマルアスピレーション=自然吸気)エンジンを積むスポーツカーだ。
このところ燃費向上を目的に、小排気量ターボエンジンを搭載するモデルが急激に増えていて、その波は洋の東西を問わず確実に広がっている。その理由は、ヨーロッパにおいて、2021年から基準を満たせないメーカーに対し、罰金を科すほど厳しい燃費規制が始まるからだ。
特に燃費性能が厳しいのは、大排気量のNAエンジン搭載車であり、それを廃止する動きは、もはや誰にも止められない。スポーツカーメーカーのポルシェですら、基本的には排気量をダウンサイジングしたターボエンジンを搭載しているし、官能性を重視して大排気量のNAエンジンにこだわってきたスーパーカーブランドのフェラーリでさえ、V8エンジンのターボ化を実施している。つまり、ターボのないハイパワーユニットは、もはや絶滅危惧種なのだ。
しかしここ日本には、「そんなの関係ねぇ!」とばかりに、大排気量のハイパワーNAエンジンにこだわるブランドがある。それがレクサスだ。ここに紹介する「RC F」は、高出力の大排気量NAエンジンを搭載。レクサスの小型クーペである「RC」をベースに、エンジンや足回りを鍛え上げ、ハイパフォーマンスなスポーツクーペに仕立てている。
ベースモデルとなったRCは、レクサスのコンパクトセダン「IS」のクーペバージョンと思われがちだが、冷却系のユニットなどには、ひと回り大きいセダン「GS」と同じものを使用。またシャーシ中央部には、剛性面で優れるかつての「IS C」のそれをドッキングするなど、走行性能を高めるための工夫が見て取れる。そんなRCをベースに、サーキットでの限界走行をも視野に入れて作られた、ハイエンドモデルのRC Fというわけだ。
■大排気量NAエンジンの魅力は官能性に尽きる!
RC Fの心臓部は、NAの5リッターV8エンジンで、最高出力は481馬力、最大トルクは54.6kgf-mを発生する。最高出力の発生回転数は7100回転で、ターボ全盛の今となっては常識外れの数値。また、予想通りとでもいおうか、燃費データはカタログ記載のWLTCモードで8.5km/Lと、この時代においては思わず二度見してしまうほどのスペックを掲げる。
環境面では厳しい大排気量のNAエンジンだが、その魅力はなんといっても官能性に尽きる。アクセルペダルを踏み込んだ瞬間、ググッと前へと押し出されるエネルギッシュな感覚は大排気量エンジンならではだし、高回転域までよどみなく吹け上がるサマは、全盛のターボエンジンでは決して味わえない。こうしたフィーリングと音こそが、あえて大排気量のNAエンジンを選びたくなる魔力なのだ。
ちなみに、RC Fに搭載される“2UR-GSE”型エンジンは、元はといえばフラッグシップセダン「LS500h」用に開発されたもの。つまり、ハイブリッドカー向けのエンジンであり、基本設計がスポーツユニット向けのそれとは異なる。しかし、排気量アップを始め、バルブタイミングや吸排気系をチューニングすることで、ハイブリッド用とは全く異なるユニットへと変貌を遂げている。
アクセルペダルを踏み込んだ際の、鼓動のようなビート感。そして、回転数とともに音域が高くなるエンジン音の響きは、まるで芸術作品のよう。EVやハイブリッドカーはもちろん、ハイパワーのターボエンジンでも味わえない特別な世界に、ドライバーを誘ってくれる。
あらためて世界を見渡すと、RC Fはすでに特別な存在となっている。メルセデス・ベンツの「Cクラスクーペ」やBMWの「M4」など、同サイズのクーペをベースとした超高性能モデルはいくつか存在するが、いずれも搭載されるのはターボエンジンとなっている。大排気量のNAエンジンにしかない官能性を味わえるのは、今やこのクラスではRC Fだけなのだ。
■開発陣の真摯な姿勢でさらなる進化を遂げた最新のRC F
そんなRC Fは2019年にアップデートされ、性能がさらに向上した。動力性能面では、エンジンの出力アップやレスポンス向上を図るとともに、デフギヤをローギヤ化することで、スポーツ走行時にアクセルで車両をコントロールできる領域を広げている。ちなみにローギヤ化すると、燃費は悪化するが、この辺りは燃費よりも走りを重視した、時代に逆行した策といえるだろう。
その上で最新のRC Fは、エンジンマウント、サスペンションのメンバーブッシュ、ステアリングラックの剛性までアップ。走行性能を高めるために、細部にわたって細かく手を入れてきたことがうかがえる。
それはエクステリアにおいても同様で、直進安定性に寄与するフロントフェンダー形状や、ダウンフォースが増すフロントスポイラー形状、そして、ホイールハウス内の空気の圧力をコントロールするエアアウトレットなどの採用で、空力性能を強化。それでいてボディは、従来比約20kgの軽量化を果たしたというのだから、開発陣の真摯な姿勢に頭が下がる思いだ。
さらに最新モデルには“パフォーマンスパッケージ”と呼ばれる超高性能仕様も設定された。カーボン製のエンジンフードやルーフ、チタン製マフラーの採用などで、標準仕様に対して約50kgもの軽量化を実現。
さらに、カーボンセラミックブレーキや固定式のカーボン製リアウイングを組み込むなど、まさに“公道走行も可能なサーキットスペシャル”といった趣に仕立てられている。
そんなパフォーマンスパッケージは、1040万円の標準仕様より390万円も高い1430万円! 驚きのプライスタグを掲げる上に、「大量生産できないので多くのオーダーには対応できない」という、超貴重なモデルなのだ。
ハイブリッドカーのラインナップ拡充により、欧州の燃費規制において事実上、世界一有利とされているトヨタだが、今後、厳しさを増す騒音規制などを考えると、RC Fのようなモデルをいつまで継続販売できるかは不透明。つまり、新車で買える時間は、この先、そう長くはないと思われる。しかし、ひとりのクルマ好きとして、RC Fは「一度所有してみたい」、「自分の手元に置いておきたい」と、心から思える魅力にあふれている。
<SPECIFICATIONS>
☆パフォーマンスパッケージ
ボディサイズ:L4710×W1845×H1390mm
車重:1720kg
駆動方式:FR
エンジン:4968cc V型8気筒 DOHC
トランスミッション:8速AT
最高出力:481馬力/7100回転
最大トルク:54.6kgf-m/4800回転
価格:1430万円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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