【カメラレビュー】街を歩きたくなるカメラ 富士フイルム「X70」
&GP / 2016年2月23日 20時0分
【カメラレビュー】街を歩きたくなるカメラ 富士フイルム「X70」
なぜ、カメラを手に入れるのか?
ラテアートから子どもの運動会まで、というのが「カメラを買うならとりあえずは一眼レフを」と買い求める人たちの心情を象徴していると聞いたことがある。小さいものと遠くにあって動くもの。マクロと望遠ズームがその役割であり、一眼レフならそのどちらにも対応できるだろうと考えるのは間違っていない。
でもそんなものは撮れなくたっていいから、カメラをスマートに持ち歩き、日常にあるものを軽快に撮りたいと考える人たちもいる。大袈裟なカメラバッグや、うるさいシャッター音を嫌い、小さくてデザインの美しいカメラを求める。
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小さくて、よく写るカメラ「Xシリーズ」
そういった人たちに、プレミアムコンパクトというカテゴリーを用意したのが、富士フイルムのXシリーズだった。それまでデジタルカメラは画質とサイズが比例していて、高画質で撮りたかったら大きなカメラを使う必要があり、カメラを小さくすれば画質を犠牲にしなければならなかった。そこに小さくて画質の良いカメラを送り込んだのだ。
X100S
2011年に発売されたX100に始まり、さらにセンサーサイズを小さくしてボディをコンパクトにしたX10、その後継機であるX20、そして現在ではX30という機種がある。
X30
X100のほうもX100S、X100Tと三世代目まで進化した。直線を基調としているクラシカルでカメラ然としたデザインで、インテリア誌などで撮影小物に使われることも多く、デジタルカメラのなかに確固たる地位を築いた。
さて、X100はAPS-Cセンサーを採用していて、X30は2/3型センサーなので、6倍くらい大きさに違いがある。
小さなセンサーの弊害といったらまずは高感度に弱いことだ。高感度は数値化しやすくカメラの性能を示す指標となっていて、ひとつのトレンドを形成している。無理をして小さなセンサーでズームするなら、大きなセンサーで撮ってクロップ(画面の一部分を切り抜くこと)しても同じではないかと考えたとしても不思議はない。
新しい“小さな高級機”「X70」
X70という機種がリリースされた。
フルサイズ換算で28mm固定レンズ、ファインダーはなく、X100よりさらに小さい。富士フイルムのXシリーズとしては初めてタッチパネルを採用したチルト液晶が搭載された。
手にしたときに、見た目以上にずっしりとした重みと金属の質感が手に伝わってくるのに驚く。このクラスのカメラだと、使いやすさを優先してダイヤルやボタン類に花の絵などが配されているものが多くあるが、無駄な表示やボタンがいっさいなく、非常にシンプルで美しい。
レンズの焦点距離とセンサーサイズが同じで、ライバルと目されているリコーGRIIが約250gなのに対してX70は340gほどある。チルト液晶の分を差し引いても、小型軽量を競うクラスとしては差が大きい。小さくしようと努力した箇所はあちこちに散見されるが、無理をして軽量化を図らなかったのではないかと思える。
それは持つ喜びと操作する楽しさがXシリーズの大きなコンセプトとなっているからだ。非常にクリック感が良い絞りリングが付いていて、デザインでもアクセントになっている羽根がその操作をアシストする。
さらにマニュアルフォーカス用のピントリングまであるのは驚きだ。これだけ薄いレンズ部分にそれらを組み入れるのは容易ではなかったに違いない。
カメラは写真を撮るために仕方なく手にする道具ではない。むしろそれを扱っている時間を楽しむためのものだ。写真を撮ろうとすることで、日常のものをよく観察するようになり、発見や出会いが増えていく。操作のひとつひとつが心地よければ、さらにその時間を楽しむことができる。
どこまでもシャープ、どこまでもクリアな写り
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写りはとても優秀で、印刷なら雑誌の見開き、プリントならA0(ポスターの大きさ)くらいまでは余裕で、つまりはプロの仕事に使えるレベルの画質を得られる。
このカメラに付いている28mmというレンズは、見えているものすべてを! と考えるとわかりやすい。逆に言えば散漫になってしまいがちで、ポイントとなる部分に寄って大きく写るようにするなど工夫をしないと、退屈な写真になりがちだ。
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もうひとつ気にかけておくと良いことがあり、カメラを雑に構えて傾けてしまわないこと。直線がまっすぐになっているだけでも、写真に軸ができてキリッとした緊張感が生まれる。
富士フイルムのカメラには、フィルムシミュレーションという機能が付いていて、フィルムを変えるように色合いを変えることができる。一般的なカメラだと標準、鮮やか、ナチュラル・・・といった名称になっていることが多いが、プロビア、ベルビア、アスティアといったフィルムの名前が付いていて、より複雑で繊細な違いを楽しめる。
さらにそれをベースに自分好みにカスタムして、それを7つまで登録しておける。セミオーダーのようなものだ。パソコンによるRAW現像をしなくても、そのままのデータで美しい画像が得られるのも特長となっている。とくに人の肌の再現は最強と言っていい。
旅に出たくなるカメラ「X70」
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X70を手に入れたら、いちばん楽しいのは小旅行だ。世界遺産を訪れたり何泊もするような旅ではなくとも、散歩だって旅行のように楽しめる。慣れた街でも新鮮に見え、いつも歩いている路地に美しさを感じることができる。
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例えば春の鎌倉などは良く合うだろう。広い空や海は広角レンズとの相性は抜群だ。食事に入ったレストランやカフェなど、店内の様子もすっきり収まる。デジタルコンバーターと呼ぶズーム機能を利用すれば、小物のアップも自在に撮れる。移動が多くなってもカメラが小さく軽いおかげで負担にならない。
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蔵前や清澄白河など、話題になっていても訪れたことがなかった街を、この機会に散歩してみるのも楽しい。ただ店を順に回るだけでなく、カメラがあるだけで何倍も濃密に街と関わることができる。撮影という行為によって、写真だけでなく、身体に記憶されるからだろう。X70と過ごす時間の楽しさ、X70を通して見る世界の美しさを、ぜひ体験してもらいたい。
【富士フイルム X70】
2016年2月18日発売
実勢価格:8万7000円前後
センサー:23.6×15.6mm(APS-c x-Trans CMOSll)
有効画素数:1630万
レンズ:18.5mmF2.8(35mm判換算28mm)
液晶:3.0型チルト式TFTカラー液晶モニター(104万ドット)
デジタルテレコンバーター:35mm判換算35mm相当、50mm相当
サイズ:W112.5×H64.4×D44.4mm、約340g(バッテリー、メモリーカード含む)
(文・写真/内田ユキオ)
うちだゆきお/写真家
1966年、新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。タレントなどの撮影のかたわら、スナップに定評がある。
執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。現在は写真教室の講師も務める。自称「最後の文系写真家」。データや性能だけではないカメラの魅力にこだわりを持つ。
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