トヨタ「ヤリス」に向く人、ホンダ「フィット」に向く人の見分け方☆岡崎五朗の眼
&GP / 2020年4月26日 19時0分
トヨタ「ヤリス」に向く人、ホンダ「フィット」に向く人の見分け方☆岡崎五朗の眼
同じコンパクトカーのカテゴリーに属し、発売もほぼ同時期だったことから、比較の対象となりやすいトヨタ「ヤリス」とホンダ「フィット」。しかし、この2台をよくよく見ていくと、それぞれ立ち位置や目指す方向性が結構異なることに気づきます。
そこで今回は、モータージャーナリストの岡崎五朗さんに、2台の特徴・ポイント・美点などをチェックしてもらいつつ、それぞれどんな志向の人に向くクルマなのか、検証してもらいました。
■走りならヤリス、広さと使い勝手ならフィット
ヤリスとフィット。ほぼ同時期のデビュー。価格もサイズもほぼ同じ。カタログに記載されるハイブリッド仕様の燃費はヤリスの方がちょっと優秀だけど、30km/Lレベルでの多少の違いなど財布の中身にはほとんど影響しない。ならば、どちらを選ぶべきか?
常識的に考えれば“優秀な方を買う”のが正解ということになる。デザイン、加速性能、運転のしやすさ、乗り心地、静粛性、室内の広さ、安全性能などなど、ひとつひとつをチェックして優劣を付けて、判断する。その判断材料を皆さんにお届けするのが、メディアに掲載されるクルマ記事の役目でもある。
もちろん、デザインの好き嫌いで直感的に決める、という人もいるだろう。とはいえクルマは高額商品だから、購入に当たって失敗したくないと考える人も多い。例えば、ヤリスを気に入ったとしても、内心ではフィットの出来栄えが気になる、というのが人情だろう。自動車ディーラーに勤めている知人によると、昔ほどではないにせよ、ライバル車についてネットなどできちんと調べてから購入を決める人が多いそうだ。
そんな中でのヤリスとフィット。どちらが優秀か。ざっくりいえば、走り、曲がり、止まる性能はヤリス、広さと使い勝手はフィットの優勢となる。
新しいプラットフォームを採用したヤリスは、走り出した直後からボディのシッカリ感が伝わってくる。そのしっかりしたボディに組み合わされたサスペンションが、またいい仕事をしていて、適度な軽快感を感じさせつつ、タイヤが路面を捉えている感触をきちんと伝えてくる。
普通に走らせていても楽しいが、山道をちょっと速めのペースで走らせた時の楽しさと安心感は特筆もので、「曲がりたくないよー」と不満たらたら、それでも曲げようとするとヘソを曲げていた前身の「ヴィッツ」とは大違い。これまでこのクラスは、ヨーロッパ車が圧倒的に優秀だったが、きちんと走って、きちんと曲がって、きちんと止まるコンパクトカーが日本からついに登場したのは、とてもうれしいことだ。その代わり室内は、フロントシート優先のパッケージングを採る。
対するフィットも走りは悪くない。悪くないのだが、先代のプラットフォームをベースとしていることもあり、ヤリスと比べると走りの質は少しだけ劣る。普通の道を普通に走っている分には乗り心地もいいし、静粛性も高いし、特に、ハイブリッド仕様の電動走行フィールはとても新鮮だ。極細のフロントピラーによるパノラミックな視界も素晴らしい。
ところが荒れた路面では尖った振動を伝えてきたり、タイヤの収まりが甘くなってブルブルした振動を伝えてきたりする。クルマに対して目の肥えた人は、こういう部分にちょっとした物足りなさを感じるかもしれない。とはいえ、そういった部分を差し引いても、リアシートに座る人がより寛げるのはフィットだ。
シートの座り心地、絶対的な広さ、広さ感ともに圧勝だし、ホンダ独自の“センタータンクレイアウト”が生み出すユーティリティはすごい。
■ヤリスとフィットには乗る人の“気分”を変える力がある
上記のような評価を元に結論めいたことを書くなら、1〜2人で乗ることが多いなら運転の楽しいヤリスで、ファミリーカーとして使うなら広いフィットがオススメ、ということになる。
けれど、実はこの2台の評価は、これでおしまいじゃない。1〜2人で乗るとしてもフィットが向いている人もいるし、その逆もある。どういうことかといえば“気分”だ。不思議なもので、クルマにはオーナーや乗る人の気分を変える力がある。例えば同じ高級車でも、メルセデス・ベンツに乗れば落ち着いた気分になるし、BMWに乗ればアクセルを踏みたい気分になる。
ところがこれまでの日本車は、一部の高性能車を除けば、どれに乗っても同じような気分にしかさせてくれなかった。だから、広さや燃費やスタイルや性能で選ぶしかなかったわけだ。でも、ヤリスとフィットには、気分を変える力が備わっている。つまり、クルマを通して自分はどんな気持ちになりたいのか? そういう観点で選べるようなクルマになっているということだ。
ヤリスに乗ると、革靴から軽いスニーカーに履き替えたような気分になる。今まで何の気なしに曲がっていたカーブが“コーナー”に思えたり、そこで思い通りのラインを描くことを楽しく感じたり、ちょっとヤンチャに走らせてみたり。景色を眺めながらノンビリ走る機会が減って、運転を楽しむ時間がきっと増えると思う。
フィットは逆で、乗る人の気分を穏やかにする。靴に例えるならスリッポンといったところか。運転をあまり意識させないのが持ち味で、景色を見ながら、あるいは同乗者との会話を楽しみながら、リラックスして運転するようクルマから仕向けてくれる。
また、両車ともそんなキャラクターがデザインに色濃く反映されているのが面白いところだ。
さて、貴方はどちらを選ぶ? 工業製品としての優秀性という視点だけでなく、今の自分はどんな気分になりたいのかを選択基準に置けば、自ずと自分に合うクルマが見つかるはずだ。
<SPECIFICATIONS>
☆トヨタ ヤリス ハイブリッドG(2WD)
ボディサイズ:L3940×W1695×H1500mm
車重:1060kg
駆動方式:FF
エンジン:1490cc 直列3気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:91馬力/5500回転
エンジン最大トルク:12.2kgf-m/3800〜4800回転
モーター最高出力:80馬力
モーター最大トルク:14.4kgf-m
価格:213万円
<SPECIFICATIONS>
☆ホンダ フィット e:HEV HOME[ホーム](FF)
ボディサイズ:L3995×W1695×H1515mm
車重:1180kg
駆動方式:FF
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:98馬力/5600〜6400回転
エンジン最大トルク:13.0kgf-m/4500〜5000回転
モーター最高出力:109馬力/3500〜8000回転
モーター最大トルク:25.8kgf-m/0〜3000回転
価格:206万8000円
文/岡崎五朗
岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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