ライバルはほぼ皆無!トヨタ「カローラツーリング」MT仕様は密かにマニアック
&GP / 2020年5月10日 19時0分
ライバルはほぼ皆無!トヨタ「カローラツーリング」MT仕様は密かにマニアック
軽自動車を除く2019年度の新車販売ランキングで、堂々の1位に輝いたトヨタ「カローラ」。そんな人気モデルには、一般的に、かなり特殊とされる仕様が存在する。なんと、セダン、ステーションワゴンともに、MT(マニュアルトランスミッション)仕様が用意されているのだ。
今回はそんな“マニアックなカローラ”の魅力を検証する。試乗したのはステーションワゴン版である「カローラツーリング」のMT仕様だ。
■MT車で味わえる爽快感はスポーツで成功した時のそれに近い
今、日本で販売される新車の約98%は、CVTやDCT(デュアルクラッチ式トランスミッション)を含むAT(オートマチックトランスミッション)車が占めている。つまりMT車の販売比率は、わずか2%ほどに過ぎない。
MTとATとの最大の違いは、ドライバー自ら、クラッチペダルまで含めた変速操作を行うか否かだ。MT車はAT車に比べてペダルがひとつ多く、発進&停止時や変速時にクラッチペダルを操作しなければならない。さらに走行状況に応じ、クラッチ操作と同時にシフトレバーを動かし、シフトアップ/ダウンする必要もある。
それらはいずれも、AT車では不要であり、ハッキリいえば面倒な操作だ。でもクルマ好きにとっては、変速に感じられる“操っている感覚”がたまらない。コツをつかめないと走りがギクシャクする一方、ショックなくスムーズに変速できた時は、心が澄み渡るほど心地良いのだ。
それは、スポーツで成功をつかんだ時の爽快感に近い。例えば、先端に小さな“ヘッド”がついた棒を振り回し、小さなボールを飛ばしたり転がしたりするゴルフは、高度なテクニックが必要とされる。だからこそ、まっすぐ遠くへボールが飛ぶと気持ちいいし、プレーで成功をつかむには、絡み合ういくつもの要素をしっかりシンクロさせる必要がある。それぞれを連携させるのが難しいからこそ、思い通りの結果を得られた時の心地良さは格別。MT車をなめらかに運転できると心地いいのも、それと理屈は同じだ。
またMT車には、クルマとのダイレクト感を味わえるという美点もある。ATやCVTは構造上、どうしてもエンジン回転数と速度との関係が一定ではない。そのため加速時に、エンジン回転の上昇と速度の上昇との間に差異が生じ、それがドライバーにとっては違和感につながる。
その点、エンジンとタイヤが機械的に直結するMTは、回転上昇と速度上昇が完全に一定となるため、ドライバーのアクセル操作がダイレクトに加速へと反映される。これは、反応の素早いパソコンと、そうでないパソコンとの違いを思い浮かべると分かりやすい。操る人の意図を忠実に反映できる優秀な機械は、ユーザーのストレスを生まないのである。
■MT車だけに用意される1.2リッターターボという特権
昨2019年秋に登場した新型カローラのラインナップには、デビュー当初からMT仕様が用意されているが、実はこのモデル、かなり稀有な存在だといえる。なぜなら、MTに組み合わされる1.2リッターのターボエンジンにはAT(CVT)の設定がなく、MT専用のユニットとなっているからだ。
しかも、先行デビューしたハッチバックの「カローラスポーツ」には、同エンジンにCVTの設定があるにもかかわらず、だ。なんと思い切ったことを! と、カタログを見て驚いた。トヨタはとかく、保守的なメーカーと思われがちだが、時には思い切ったチャレンジをするメーカーなのである。
そんなカローラの日本における販売数は、今ではその7〜8割が、今回試乗したカローラツーリングが占めている。日本におけるカローラのスタンダードは、今やステーションワゴンといっても過言ではない。
売れ線となったカローラツーリングで注目すべきは、海外仕様よりもボディサイズが小さい、日本専用設計が採用されたこと。海外仕様と比べると、ホイールベースは60mm、全長は155mm短く、そして全幅は45mm狭い。こうした作り分けの理由は、日本の道路環境にフィットするサイズにこだわったからだ。
一方、先代に相当する「カローラフィールダー」と比べると、現行モデルは車体がひと回り大きくなり、構造的にも車格がひとつ上がっている。その分、使い勝手は大幅に向上していて、ステーションワゴンで気になるラゲッジスペースの容量は、リアシート使用時で392Lを確保している。
また荷室フロアには、高さを2段階に調整できる“デッキボード”を装備。上段にセットして後席の背もたれを倒すと、段差のないフラットな荷室フロアが生じるなど、使い勝手を高める工夫が多数盛り込まれている。
■不慣れな人でも扱いやすい最新のトランスミッション“iMT”
新しいカローラが採用するMTは、“iMT”と呼ばれる機構。変速時のエンジン回転数を自動で合わせてくれるため、シフトダウン時はギクシャクしにくいほか、発進時はエンジン回転を高めてエンストを防いでくれる。電子技術を活用し、MTに不慣れな人でもスムーズに扱えるよう工夫された、最新のMTといっていいだろう。
ギヤの段数は6段で、1速の脇(ドライバーにとって左前)にR(リバース)を置いたシフトポジション。1速とRを入れ間違えることがないよう、Rに入れる際にはシフトノブ下のリングを引き上げながら操作する。
走りを楽しめるMTかどうかを判断するには、シフトフィール、つまり、シフトチェンジの際の操作感が重要だが、この点においても、カローラのそれはかなり好印象だ。硬すぎず、スムーズな動きを阻害する引っ掛かりもなく、かといってグニャリとやらかくもない。適度にカッチリとしたフィーリングは絶妙である。
組み合わせられる1.2リッターのターボエンジンは、レギュラーガソリン仕様ということもあり、最高出力は116馬力と1.5リッター自然吸気エンジン相当でしかない。しかし、MTで限られたパワーを引き出しながら走る感覚は、かなり気持ちいい。昨今のターボエンジンらしく、スカッと高回転域まで回るユニットではないものの、低回転から太いトルクに乗って加速することを心掛ければ、十分扱いやすい。しかもパワフルすぎないから、時にはエンジンを回して走る歓びを気軽に味わえる。
とはいえ、操作の面倒なMT仕様だけに、このクルマを手に入れるのは、かなり狭き門といえるだろう。もちろん、家族の反対などあれば、手に入れることは難しい。“恵まれた人”だけが手にできるのが、カローラのMT仕様なのである。
しかも、今回の試乗車のように、ステーションワゴンでMTを選べるモデルは、今や日本ではカローラツーリングと「マツダ6」くらいというのが実情。それでもトヨタは、限られたMTファンのために、希有な選択肢を用意してくれたのだ。MT専用のエンジンといい、カローラツーリングのMT仕様は、実にマニアックなクルマなのだ。
<SPECIFICATIONS>
☆ツーリング W×B 1.2Lターボ
ボディサイズ:L4495×W1745×H1460mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1196cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速MT
最高出力:116馬力/5200〜5600回転
最大トルク:18.9kgf-m/1500〜4000回転
価格:245万8500円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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