パワーはフェラーリ譲り!「ステルヴィオ クアドリフォリオ」は官能性がケタ違い
&GP / 2020年5月24日 19時0分
パワーはフェラーリ譲り!「ステルヴィオ クアドリフォリオ」は官能性がケタ違い
世界中に熱狂的なファンが存在することで知られるアルファロメオ。過去、販売不振やさまざまな問題で幾度となく不遇の時代を経験しながら、その度に鮮やかな復活を遂げてきたイタリアの名門です。
その歴代モデルは、刺激的な走りと個性的なルックスを兼備しているのが特徴。中でも、最新にして最強の1台が、伝統の“四つ葉のクローバー”を意味するネーミングを掲げた「ステルヴィオ クアドリフォリオ」です。果たして、アルファロメオ初のSUVに500馬力オーバーの強心臓を搭載したこのモデルは、どんな魅力を備えているのか? モータージャーナリストの岡崎五朗さんが解説します。
■イタリア屈指の峠の名を戴く“走れるSUV”
クルマ好きの友人から「昔のアルファロメオはフェラーリよりもすごいメーカーだったんだぞ」といわれたところで、ピンとくる人は少ないはずだ。でも、かの有名な自動車王ヘンリー・フォードが「アルファロメオを見る度に私は帽子を取り一礼する」といったのは事実だし、戦前のモータースポーツで数々の輝かしい歴史を残したのも事実。珠玉のごとき名車も数多く生み出した。そうそう、エンツォ・フェラーリを輩出したのもアルファロメオだ。
しかし、過去の遺産だけで食っていけるほどブランドビジネスは甘くない。伝統を保ちつつも常に前進して新しい魅力を生み出さないと、ブランド価値はどんどんすり減っていくからだ。ロゴを刺繍したトイレ用スリッパを売ってしまうようなブランドの服やバッグなんて、誰も欲しくなくなるのと同じである。
“美とスピード=官能性”を、よりエキセントリックに追求するフェラーリとのすみ分け問題、それに起因するマーケティングの混乱、クオリティの問題、ストライキ、開発費不足などが重なった1970年代から80年代後半は、アルファロメオにとって暗黒時代だった。しかし、アルファロメオは甦った。「164」、「155」、「156」、「147」、「GTV」、「スパイダー」、「ブレラ」、「ミト」、「ジュリエッタ」…といったモデルの投入によって、“フェラーリよりはるかに安価でありながら官能性を追求したイタリアンブランド”として存在感を高めるとともに、課題だった信頼性も大きく改善していったのである。
そんな状況の中で登場したのが、最新モデルの「ステルヴィオ」だ。SUVでありながら、イタリア屈指のワインディングロードとして知られるステルヴィオ峠にちなんだネーミングを与えられているのがミソ。実際、ステルヴィオは見ても乗っても、“美とスピード”のカタマリのようなSUVであり、特に、フェラーリゆかりの高性能エンジンを搭載したトップグレード「クアドリフォリオ」は、その印象がさらに色濃い。
伝統の楯型グリルとシャープなヘッドライトが生み出す精悍な顔つき、強く傾斜したリアウインドウ、スピード感のあるサイドウインドウグラフィック(形状)が伝えてくるのは、停止した状態でもグッグッと前に進もうとしているかのような意思だ。加えて、FR車ベースだからこそできた長いノーズと極端に短いフロントオーバーハングの組み合わせが、優れた運動神経の持ち主であることを予感させる。この辺りは、立ち姿を見ただけで普通の人とアスリートとの違いが分かるのと同じである。止まっていてもそうなのだから、走り出すとさらに躍動感が高まる。ガレージに停めた状態で眺めるのも悪くないが、ステルヴィオが一番カッコ良く見えるのは走っている時だ。
その上でクアドリフォリオは、専用の前後バンパーやサイドスカート、高性能エンジンからの熱を逃がすダクトを備えたカーボン製ボンネット、20インチアルミホイール、左右4本出しマフラーなどを追加。
ノーマル系モデルとの差別化が図られ、美とスピードに圧倒的な迫力をもプラスしている。
■スポーツカーに匹敵するクイックなハンドリング
SUVにスポーツカー級の運動性能を求める人はいないだろうが、ステルヴィオ クアドリフォリオはそれが可能な数少ない1台だ。中でも特徴的なのが、クイックなステアリング特性。ステアリングをわずかに切り込んだだけでノーズがクイッと即座に反応する。最初に乗った時は「おおっ!」と驚くに違いない。それくらい、SUVとしては異例のクイック感である。
それもそのはず、ステアリングギヤレシオはスポーツカーに匹敵する12.1対1に設定されている。普通のクルマは18対1くらい、ややスポーティなクルマでも15対1程度であることを考えると、いかにクイック(=ステアリングを少し切っただけで前輪が大きく切れる)であるかが分かるだろう。
重心の高いSUVでこれほどクイックにすると、グラリとくるロールや挙動の乱れといったネガが心配になるのだが、そこをきっちり作り込んでいるのはさすがだ。アルファロメオは伝統的に、クイックなステアリングレシオを採用するブランドで、それがファンにとってはアルファらしさのひとつであり、同時に彼らに多くの経験値を与えている。
具体的に書けば、切り始めの指半本分の領域からクルマが正確かつスムーズに動くため、クイックさが神経質さに結びついていない。もし切り始めが渋かったり反応が薄かったりして、そこから一気に曲がり始める特性だったら、常に緊張を強いられることになっていただろう。
ワインディングロードに持ち込んでも神経質さは感じない。クアドリフォリオの脚は相応に締め上げられ、街中を淡々と走らせる限りは明確な硬さを感じるが、ステージを峠に移してペースを上げていくと、印象が一変する。それなりにロールはするものの、恐怖感につながるようなグラリとくるものではなく、四隅に配した太いタイヤをグンと踏ん張らせながらジワリと傾くのみ。むしろこの程度のロールはあった方が、クルマから伝わってくる情報が増えて運転しやすくなる。500馬力オーバーを支配下に置くため、クアドリフォリオはさすがに硬めの設定になってはいるが、ノーマル系なら乗り心地もかなり上等だ。
もう1点、走りの質を高めているのが、リアの追従性だ。前述したように、フロントの反応はとても速い。しかし、クルマは4輪を使って曲がるわけで、リアが付いてこなければチグハグな動きになってしまう。その点、ステルヴィオのリアは絶妙の仕上がりだ。クイックに反応するフロントに遅れなく追従しつつも、いいところで粘って安定感を保つ。特に高速コーナーでは、リアがしっかりと手綱を握っているかのごとき安心感がある。スムーズな切り始め、適度なロール、前後の絶妙なバランスの3点が、SUVとしては異例にクイックなステアリング特性を、恐怖感ではなく楽しさに昇華させているというわけだ。
■フェラーリV8と共通項が多い珠玉のV6ターボ
ステルヴィオ クアドリフォリオに搭載されるエンジンは、2.9リッターのV6ツインターボ(510馬力/61.2kgf-m)。「フェラーリ出身のエンジニアがチューニングを手掛けた」とされる強心臓で、481.9ccという1気筒当たりの排気量や86.6×82mmというボア×ストロークは、フェラーリのV8エンジンと同一だ。
ステアリングスポークに備わる赤いスタート&ストップボタンを押すと、弾けるような音を伴いながらV6ターボが目を覚ます。低回転域からツインターボの過給による強烈な加速力が立ち上がるが、足回りの絶妙なセッティングもあって、不思議と恐怖感はない。そこからさらにアクセルペダルを踏むと、高回転域まで一気に吹け上がり、静止状態から100km/hまでわずか3.8秒(メーカー公表値)で到達する。その間の回転フィールは、まさに快感。ドライバーに「もっと回せ、もっと回せ」とエンジンが語りかけてくる。超高性能エンジンならではの官能性をしっかりと味わわせてくれるこの特性は、まさにアルファロメオの面目躍如といったところだ。
ステルヴィオは、高いブランド力に加え、素晴らしいデザインや官能的な走りなど、アルファロメオでしか味わえない魅力を濃密に詰め込んだSUVだ。中でもクアドリフォリオは、スポーティというレベルを超え、スポーツカー顔負けの刺激をも味わわせてくれる。昨今、各メーカーがこぞってスポーティなSUVを投入してきている中、官能性を貪欲なまでに追求したモデルとして、他に代えがたい特別な1台だと思う。
<SPECIFICATIONS>
☆クアドリフォリオ
ボディサイズ:L4700×W1955×H1680mm
車両重量:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:2891cc V型6気筒 DOHC ツインターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:510馬力/6500回転
最大トルク:61.2kgf-m/2500回転
価格:1189万円
文/岡崎五朗
岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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