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SUVじゃ満足できない人に!BMW「3シリーズツーリング」で再考するワゴンの真価

&GP / 2020年8月29日 19時0分

SUVじゃ満足できない人に!BMW「3シリーズツーリング」で再考するワゴンの真価

SUVじゃ満足できない人に!BMW「3シリーズツーリング」で再考するワゴンの真価

SUVブームが右肩上がりの盛り上がりを見せる中、かつて隆盛を誇ったステーションワゴンの人気が下火になっている。しかし、実際に“使い”比べてみると、SUVでは満たされないことを、ステーションワゴンは満たしてくれるケースも多い。

今回はそんなステーションワゴンの真価を、BMWの「3シリーズツーリング」をテキストに再考する。

■走行安定性と荷室の使い勝手で選べばワゴンになる

ステーションワゴンの魅力とは何か? その答えを世界で最も知っているのはアウトバーンだろう。

アウトバーンとはご存じのとおり、ドイツ国内に張り巡らされた高速道路のネットワークだが、現地で走るたびに感じるのがステーションワゴンの多さだ。今、日本や北米マーケットでは人気が下火となっているジャンルにもかかわらず、今でもドイツでは驚くほどその姿を見掛ける。

現地でステーションワゴンが好まれる理由は、意外とシンプル。ドイツの人々は夏になると、クルマにたくさんの荷物を積み込んでバカンスへと出掛けるが、その量はルームミラー越しに後方が見えなくなるほど膨大。セダンのトランクではとてもスペースが足りないのだ。

もうひとつの理由は、ステーションワゴンは高速安定性に優れているため。アウトバーンには一部に制限速度のない区間があり、速いクルマは200km/hほどで、3車線のうちの中央車線を走るクルマでも、多くが130km/hほどで走行している。おまけに渋滞に遭遇すると、いきなり急激なブレーキングを求められるなど、クルマのアラが出やすい。そのため、現地の人々は必然的に、超高速領域における走行安定性を愛車に求めるのだ。

そんな環境下では、いくら室内が広くてもミニバンでは心もとない。超ハイスピードでの巡行性能を重視するドライバーが選ぶのは、やはり、セダンと同様の走行性能を備えながら、多くの荷物を積載できるステーションワゴンになる。

ここまで読んで「SUVじゃダメなの?」と思う人もいるかもしれない。確かにイマドキの高性能SUVは、走行安定性もハイレベルだ。しかし、SUVでありながらアウトバーンでの超高速巡行をバリバリこなせるBMW「X5」やポルシェ「カイエン」がデビューしたのは、わずか20年ほど前の話であり、高性能SUVのラインナップが拡充してきたのも、ここ10年ほどのこと。そのため現地には、「SUVなんて…」と敬遠する保守的な層がまだまだ多いのだ。

また一般的に、ステーションワゴンはSUVに比べ、ラゲッジスペースの実用性に優れるという実情もある。

ボディサイズの近いクルマどうしを比べると、荷室の容量こそSUVの方が大きいケースがあるが、SUVは床面積ではなく、荷室の高さで容量を稼いでいるクルマが多い。そのため、荷室フロアの広いワゴンの方が実際の使い勝手は優れていると、現地の人々は評価しているのだ。

■ボンネット下にはスポーツカーと同じエンジンを用意

そうした背景もあって、メルセデス・ベンツやBMW、そしてアウディといったドイツのプレミアムブランドは、上級のDセグメント/Eセグメントのセダンをベースとしたツーリングワゴンを必ずラインナップしている。

今回紹介するBMWの「3シリーズツーリング」も、そんなポジショニングの1台だ。その名の通り、BMWの定番セダンである「3シリーズ」をベースとしたステーションワゴンで、最新モデルが日本で発表されたのは2019年の秋のこと。ワゴン作りのセオリーにのっとり、車体の前半をセダンと共有しながら、後方を専用設計としている。

3シリーズツーリングを前にしてまず目を惹くのは、ダイナミックという言葉を具現したかのようなエクステリアデザインだ。適度にエッジを効かせてシャープな印象を放ちながら、前後のフェンダーを躍動的に張り出させるなど、いかにも走りが良さそうな雰囲気が伝わってくる。また、全長(4715mm)と全幅(1825mm)はセダンと同様で、同時に開発が進められたこともあり、ステーションワゴンとなってもデザインに違和感がないのはいうまでもない。

コックピットの眺めもセダンと同じで、各種操作系がドライバーを中心に配置された、BMWらしい走りに集中できるレイアウトとなる。

ドライバーズシートは大ぶりで、ドライバーのカラダをしっかり支えてくれる一方、リアシート周りは同乗者がくつろぎながら移動できるだけのスペースを確保している。

ボンネットの下に収まるパワーユニットは、2種類の2リッター直列4気筒ガソリンターボ(「320i」用の184馬力と「330i」用の258馬力)と、3リッターの直列6気筒ガソリンターボ(「M340i」用の387馬力)、そして、2リッターの直列4気筒ディーゼルターボ(「320d」用の190馬力)が用意される。駆動方式はFRを基本とするが、6気筒ガソリンターボとディーゼルターボ車には“xDrive”と呼ばれるフルタイム4WDを組み合わせている。

ちなみにセダンとは異なり、現時点では2リッターの直列4気筒ガソリンターボを積むベーシックモデル「318i」(156馬力)や、プラグインハイブリッド仕様の「330e」(エンジン184馬力/モーター113馬力)は設定されていない。前者は日本市場向けの商品戦略の考えから、後者はバッテリー搭載スペースを始めとするパッケージングの都合によるものだ。

改めてラインナップを見直すと、ステーションワゴンでありながら、ハイパフォーマンスな6気筒ターボエンジンが用意されているところが、なんともドイツ車らしい。しかもこのユニットは、リアルスポーツカーであるトヨタ「スープラ」のトップモデルと同じものというから、その高性能ぶりは容易に想像できる。

その気持ちのいい回転フィールと、高回転域で炸裂するかのようなパワー感は、さすがはBMW! とヒザを打ちたくなる出来栄え。そうしたパワーをしっかり受け止めるボディやサスペンションの完成度も、さすがのひと言だ。まさに「M340i xDrive ツーリング」は、ステーションワゴンの姿をしたスポーツカーといえるだろう。

一方、販売の主力となる4気筒ガソリンターボも、スープラのエントリーグレードに積まれているのと同じエンジンといえば、実力の高さがうかがえるはず。アクセル操作に対して気持ちよく反応し、高回転域まで気持ち良く回るなど、4気筒とは思えないほどフィーリングがいい。ベーシック仕様の320iツーリングと、高出力仕様の330iツーリングが設定されるが、街中を走る限り、動力性能の差はほとんど感じない。とはいえ、高回転域では後者の方がパワーの盛り上がりを感じられるため、走りを重視するなら330iツーリングを選びたいところだ。

最後にディーゼルターボ仕様は、なんといっても低回転域でのトルクが厚くて乗りやすい。しかも、燃費の良さや燃料単価に起因するランニングコストの安さは魅力的だ。年間の走行距離がかさむ人には、ディーゼルターボがイチオシだ。

■走りで選ぶならステーションワゴンでもBMW

最後に、ライバルであるメルセデス・ベンツ「Cクラス ステーションワゴン」やアウディ「A4アバント」と比べての、3シリーズツーリングのアドバンテージについて触れておこう。

まず、ステーションワゴンである以上、外せないのはラゲッジスペースの使い勝手。もちろん、広さ自体も重要だが、実はそれぞれの個性が現れるのは、荷室に関わる細かな機能なのだ。

その点、3シリーズツーリングはリアゲート全体が開くのに加え、リアのウインドウ部だけを開けられる構造を採用している。これは、BMWのステーションワゴンに受け継がれる伝統の機能で、気軽に開閉できるのが美点だ。バッグなどの小物を出し入れする際にはとても重宝するし、一度使うと、リアゲートだけではわずらわしく感じることもある。この機能を備えるのは、3台の中では3シリーズツーリングだけだ。

また3シリーズツーリングは、運転支援機能の充実ぶりも魅力的だ。例えば、前進してきた道をクルマがたどり、自動で50mまでバックしてくれる“リバースアシスト”は、狭い道で対向車とすれ違えなくなった時などに威力を発揮。さらに、BMWが日本で販売されるクルマで初めて実現した高速道路での“ハンズオフ”機能は、ハンドルから手を離した状態でも、車線に沿うようハンドル操作を制御してくれる(ただし、自動運転ではないため、ドライバーは前方を注視し、すぐに操作を行える状態にしておく必要がある)。使用できるシーンに制約はあるものの、これもライバルにはない大きなアドバンテージといえるだろう。

そして何より、3シリーズツーリングには運転する歓びがあふれている。ワゴン化による重量増などに起因するネガは全く感じられず、セダンと同様、ハンドルを切るとスッとシャープに向きを変える。この感覚のためだけにBMWを選んだとしても、後悔はないだろう。また、官能的な6気筒エンジン、爽快な4気筒ガソリンエンジンなど、パワーユニットのフィーリングはライバルを凌駕。フットワークはどのグレードを選んでも軽快だから、走りにこだわる向きには、ステーションワゴンでもやはりBMWがオススメだ。

日本でも、3シリーズを始めとするドイツ・プレミアムブランドのDセグメントやEセグメントでは、ステーションワゴンを愛用している人が多い。週末や長期の休日に、高速道路を使って郊外のリゾートへ出掛けるシーンがよく似合うこれらのモデルが選ばれるのは、やはり、走りも実用性もハイレベルで、ツウな選択肢だからだろう。つまるところ、ドイツで愛されているのと同じ理由なのである。

ちなみにBMWは、近い将来、超高性能エンジンを搭載した3シリーズツーリング=「M3ツーリング」を発売するとアナウンスしている。日本への導入は未定ながら、高性能ワゴンの魅力を余すところなく味わえるモデルとなるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆320d xDrive ツーリング Mスポーツ
ボディサイズ:L4715×W1825×H1475mm
車重:1750kg
駆動方式:4WD
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:190馬力/4000回転
最大トルク:40.8kgf-m/1750〜2500回転
価格:666万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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