これってアバルトじゃないの?フィアット「500Xスポーツ」は走りも爽快なSUV
&GP / 2020年10月19日 19時0分
これってアバルトじゃないの?フィアット「500Xスポーツ」は走りも爽快なSUV
フィアットのコンパクトクロスオーバーSUV「500X(チンクエチェントエックス)」に、新たなグレード「500Xスポーツ」が追加された。
スポーツと名乗るだけって見た目はやる気満々。人気モデル「500(チンクエチェント)」のスポーティ仕様を想起させる仕上がりだ。今回はそのデザインにおけるポイントや、走りの印象についてレポートする。
■アバルトのエッセンスを感じさせるルックス
ひと目見て明らかなように、フィアットの500Xは500の流れを汲むコンパクトSUVだ。コンパクトといっても、モチーフとなった500がスーパーコンパクトカーのため、500Xは随分たくましく見える。
事実、500のボディサイズが全長3570mm、全幅1625mm、全高1515mmなのに対し、500Xは全長4280mm、全幅1795mm、全高1610mmとかなり大きい。トヨタのコンパクトSUVと比べると、全長は「ヤリスクロス」(4180mm)と「C-HR」(4385mm)の中間に位置する。
そうしたボディサイズからも想像できるように、パッケージングにおける500と500Xの違いは歴然だ。500が前席優先のクルマといっても差し支えないのに対し、500Xはリアシートでもゆったり過ごせる。また、500Xのラゲッジスペース容量は350Lで、リアシートの背もたれを倒すと最大1000Lまで広がるなど、実用性は申し分ない。
500Xのルックスは、キュートな印象の500とは対照的にSUVの王道を行く。前後バンパーの下部には、バンパーガード風のデザイン処理が施されているし、ルーフにはキャリアを取り付けられるレールも備わる。未舗装路へガシガシ分け入っていくようなハードなイメージこそないが、500が漂わせるイメージとは大きくかけ離れているのは確かだ。
そんな500Xに対し、「実用性の高さは魅力だけど、いかにもSUV然としたルックスがなぁ」と残念がっていた向きに朗報だ。先頃、500Xに新グレード「500Xスポーツ」が追加されたのだ。うれしいことに、500をそのまま大きくしたような、いや、もっといえば、500をベースにスピードへの情熱を前面に押し出したアバルト「595」のエッセンスすら感じさせる、スポーティムード漂う仕立てとなっている。
カタログ掲載の全高こそ同じだが、500Xスポーツはベースとなった500Xよりもずっと低重心に見える。そう見える理由のひとつが、専用デザインのバンパーだ。500Xスポーツのフロントバンパーからはバンパーガード風の処理が消え、下部はボディ同色となり、さらに前方へと張り出している。左右コーナーにあるエアインテーク風の処理は、アバルト595のそれをモチーフにしているのは明らかだ。
また、ルーフレールを取り去ったため、500Xスポーツはルーフラインがすっきりして見える。サイドシルをボディ同色にしたのと相まって、グッと低重心のフォルムになった。500Xより2インチ大きい19インチアルミホイールも、視覚的な低重心感を強調する要素といえるだろう。
一方、リアバンパーからはバンパーガード風の処理が消え、代わりにディフューザー風の処理が施されている。500Xの場合、テールパイプはバンパーの陰に隠れて見えないが、500Xスポーツではクロームメッキ処理された2本出しのテールパイプが、優れたパフォーマンスを誇示するように顔をのぞかせている。
500Xスポーツだけのスペシャルな演出はほかにも。例えば、ドアミラーやドアハンドル、リアゲートのガーニッシュなどにはダークグレーのアクセントカラーが用いられていて(ホイールのカラーとも呼応している)、スポーティな一段とムードを高めている。「同じ500Xなのにこうも違うのか」と、感嘆するほどの変わりようだ。
こうしたスポーティな仕立てはインテリアも同様。ステアリングホイールの表皮はアルカンターラとレザーのコンビネーションで、レッドのステッチが入っている。小ぶりなメーターフードもレッドのステッチが入ったアルカンターラで覆われ、アバルト595で最もホットなモデル「595コンペティツィオーネ」を想起させる処理となる。
さらにエクステリアと同様、インテリアにもダークグレーのアクセントカラーが随所に用いられていて、基本的にはモノトーン。そのため、レッドのステッチが目に鮮やかで、気分が上がるインテリアとなっている。
■スポーツ専用にチューニングされた足回り
500Xスポーツのパワートレーンは、ベースとなった500Xと同一。最高出力151馬力、最大トルク27.5kgf-mを発生する1.3リッターの直4ターボに、デュアルクラッチ式の6速ATを組み合わせる。動力性能的には必要にして十分で、活発に走りたい時には乗り手の欲求を満足させるだけの応答性と加速感を提供してくれる。
一方、エンジン回転計の針をメーターの半分より上のゾーンに張り付かせるようにして走ると、動きもサウンドもがぜんイキイキとしてきて、エンジンの持つポテンシャルをフルに引き出して走る醍醐味を味わえる。自分の意思でエンジンの美味しいところを使いたい場合は、ハンドル裏に備わるパドルを操作するといい。
サスペンションに組み込まれたコイルスプリングとショックアブソーバーは、500Xスポーツ専用にチューニングされたもの。パワーステアリングも同様だが、こちらは500Xスポーツのキャラクターと、ベースモデル比で2インチアップとなる19インチのタイヤ&ホイールを考慮した仕様変更だろう。
エクステリアとインテリアの随所にアバルト595系のモチーフが引用された500Xスポーツだが、乗り味は見た目から受ける印象ほどハードではない。かといって「見かけ倒しかよ!」と落胆するほどヤワでもなく、普段使いでストレスを感じさせないだけの快適性を担保しながら、ドライバーがその気になった時は、その気持ちに応えてくれるだけのしっかりした足腰を兼ね備えている。500Xスポーツはそのバランスが絶妙なのだ。
500Xと500Xスポーツとでは、同じシリーズのクルマとは思えないほどキャラクターが異なる。目的地は同じ山であっても、森や川辺に向かいたくなる500Xに対し、ワインディングロードで走りを楽しみたいのが500Xスポーツだ。森を歩くウエアと、エクササイズ用のそれが違うように、エクステリアやインテリアの仕立てが、この2台はそれぞれ異なっている。もちろん500Xスポーツは、アスリート指向のルックスなのだが、コンパクトSUVの本質を忘れることなく、乗員がゆったりくつろげるだけの快適性を失っていないところが美点といえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆スポーツ
ボディサイズ:L4295×W1795×H1610mm
車重:1440kg
駆動方式:FF
エンジン:1331cc 直列4気筒 SOHC ターボ
最高出力:151馬力/5500回転
最大トルク:27.5kgf-m/1850回転
価格:344万円
文/世良耕太
世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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