プロトタイプがついに登場!「フェアレディZ」はいつの時代も日産の救世主だ☆岡崎五朗の眼

&GP / 2020年10月24日 19時0分

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プロトタイプがついに登場!「フェアレディZ」はいつの時代も日産の救世主だ☆岡崎五朗の眼

新たなリストラ計画“NISSAN NEXT”の下、復活へ向けて急ピッチで歩みを進める日産自動車が、ついに次期「フェアレディZ」のプロトタイプを公開しました。

初代モデルを想起させるロングノーズ/ショートデッキのフォルムや、V6ツインターボエンジン+MTのパワートレーンなど、スポーツカーならではの“お作法”を踏まえた次期モデルの魅力と存在価値を、モータージャーナリストの岡崎五朗さんが検証します。

■日産はスポーツカーを見捨てていなかった

「このクルマはコンセプトカーではなく、ほぼこのままのデザインで発売します」。9月16日に行われた発表会の席上、日産自動車の内田 誠社長はこう語った。と同時に、自身初の愛車がZだったことを明かし、Zファンのひとりとして新型を発表できるのは誇りであるとも語った。

まずは日産のこの大いなる決断に拍手を贈りたい。商売のことだけを考えたらスポーツカー開発は割に合わない時代だ。メルセデス・ベンツは「SLC」の生産を中止し、アウディは次期型「TTクーペ」「TTロードスター」の開発を凍結。BMWも「Z4」の開発を諦めかけていたところ、トヨタから「スープラ」との共同開発を持ちかけられ首の皮1枚つながった。同じ開発資金を投じるなら、販売台数が見込めないスポーツカーなんかを作るよりもSUVを作った方がもうかる確率は高いに決まっている。

にもかかわらず、なぜ日産は次期Zの開発を決断したのだろう? 日産の厳しい経営環境を考えれば、なおさら決断の背景を知りたくなる。それについて、内田社長はこう答えた。「Zは私たち日産のDNAなのです」。この答えは明確なようで実は一切何も語っていない。誤解なきようにいっておくと、決して批判しているわけじゃない。それどころか、むしろ僕が求めていた答えそのものである。

利益を期待できない活動を行う時、自動車メーカーに限らず各企業はさまざまな理由を考える。その最たるものがモータースポーツで、ブランドイメージ向上のためとか、自社の技術アピールのためとか、エンジニア育成のためとか、ありとあらゆる理由をつけて口うるさい株主を納得させる。最も有名なのが故・本田宗一郎氏の「F1は走る実験室」というセリフだ。モータースポーツは道楽なんかじゃなく、より性能の高いクルマを作るための活動。つまり参戦費は市販車のための技術開発費なのですよ、という理屈だ。

問題は、何か理由をいった時点でKPI(重要業績評価指標)の対象になってしまうこと。例えば、ブランドイメージ向上のために参戦しますといったら、勝てない時期が続けば当然批判にさらされることになり、行き着く先は撤退である。

それに対し、DNAは持って生まれたもの。肌の色や瞳の色のように、こればかりは親から受け継いだものだから変えようがない。ましてや理由を聞かれても答えようがないし、批判の対象にもならず、またしてもいけない。つまり、内田社長の「DNA」という言葉が意味するのは、Zの開発は日産の本能的な行動であるからして理由は説明できないということだ。いい換えれば、例え収益的に苦しくとも日産はスポーツカーを見捨てないのだ、という宣言と受け取れる。もちろん、企業である以上、採算度外視のビジネスは株主に対する裏切り行為になる。利益を生む、あるいは最低でも大損をしないだけの手当ては必要だ。

■価格競争力はライバルを上回る!?

そんな観点から見ていくと、フェアレディZプロトタイプはかなり手堅い手法で作られていることが分かる。現段階で公開されている情報は以下の通り。エンジンはV6ターボ、トランスミッションは6速MT、全長4382mm、全幅1850mm、全高1310mm。現行モデルと比べると122mm長く、5mmワイドで5mm低い。ホイールベースは公式には発表されていないが、個別取材で現行モデルと同じ2550mmだということが判明している。

また、日産のナンバー2で商品開発部門のトップを務めるアシュワニ・グプタ氏の「現行モデルもシャーシの競争力はそこそこある。古さを感じさせるのは主にパワートレーン」という発言からも、莫大な資金がかかるプラットフォーム(シャーシの基本骨格)は新たには開発せず、現行モデルから引き継いでいると考えるのが自然だ。もちろん、そっくりそのまま同じというわけではなく、ボディを含めた全体の剛性アップやサスペンションの再調整といった若返り策は入念に施されるだろう。

一方、エンジンは「スカイライン」が積んでいる2種類の3リッターV6ターボ(304馬力/405馬力)がベースになるだろう。トランスミッションも6速MTに加え、スカイラインと同じ7速AT、もしくは次世代の9速ATが採用されるはず。このように“ありもの”を利用することによって開発費を上手に圧縮しているのがZプロトの特徴だ。

パフォーマンスを徹底追求する「GT-R」に対し、アフォーダブル(手頃に入手できること)であることがZの伝統。前述のグプタ氏が「価格競争力はシボレー『カマロ』やフォード『マスタング』といったライバルを上回るだろう」と述べていることからも、次期Zが手の届くスポーツカーになるのは間違いない。現行モデルが397万9800円〜ということを考えると、性能や装備の上乗せ分を加味して400万円台中盤スタートと予想しておく。

■パワートレーンは大幅なアップデートを希望

さて、ここから書くのは解説でも予想でもなく要望だ。まず、フェアレディZプロトタイプのデザインはそうとう魅力的だと思う。ひと目でZであることが分かる一方、ひと目で新型であることも分かる。歴代Zのオマージュが適度に散りばめられているのもいい。Zにはファンが多いため、プロトタイプが発表された直後には賛否両論渦巻いたが、僕の周りの自動車マスコミ関係者の間では徐々に歓迎の意を表す人の割合が増えてきている。特に、実車を見た人が口々にいうのが「写真より実車の方がずっとカッコいい」という感想。写真では表現できない面の表情がとてもいいらしい。残念ながら僕はまだ見られていないが、写真でも十分カッコいいと思っているだけに、実車を見たらかなり惹かれるだろうなと思う。

走りはどうだろう。グプタ氏がいうように、プラットフォームの能力は現行モデルも決して悪くない。確かに現行モデルは12年前のデビューだけに、アップデート、特に快適性面でのテコ入れは必要だが、もともと備えている優れた前後重量配分や低重心の恩恵によって、現状でもハンドリング性能には光るものがある。空冷時代のポルシェ「911」が長きにわたって同じ基本構造を維持しながら性能に磨きをかけていったように、現行モデルをベースにしつつも最新の知見を入れ込むことで、現代のスポーツカーとして十分な性能を与えることは可能なはずだ。

希望としては、ハンドリングを必要以上にクイックにするなど変に尖らせることなく、思い通りに操れるバランスのとれた動きを目指して欲しい。開発責任者である田村宏志氏の「ダンスパートナーのようなクルマにしたい」という発言から読み取れば、きっと僕が望んでいるような方向性になると期待している。

大幅アップデートが必要なのはパワートレーンだ。現行モデルが積む3.7リッターV6も十分なパワー(336馬力)を発生しているが、スポーツカー用エンジンとして物足りないのはフィーリング。回転はザラついているし、サウンドにも色気がない。回せば回すほどアドレナリンが湧き出してくるようなフィーリングとサウンドをぜひ作り出して欲しいところだ。

■次期Zは新生日産の“切り込み隊長”

自動車メーカーにとって一番悲しいのは、社員たちが「自社商品に乗りたいクルマがない」と嘆くこと。社員でさえ欲しがらないクルマをどうしてユーザーが欲しがるというのか。目先の利益ばかりを優先して魅力的な商品を投入してこなかった日産は今そんな状態にある。そんな中、発表されたZプロトには、日産が忘れ去っていたハートが感じられる。5代目のZ33型を復活させた初期の頃はともかく、晩期のカルロス・ゴーン氏は日産自動車というアセットをカネ儲けのためだけに利用した。もちろん利益の追求は企業の宿命だが、ゴーン氏が忘れていたのは自動車メーカーの利益の出どころだ。自動車メーカーの利益がユーザーの支払う車両代金から生まれる以上、ユーザーのハートを軽視すればしっぺ返しを食うのは当然である。

そういう意味で、Zプロトの意義は新しいスポーツカーの登場にとどまらない。内田社長率いる新経営陣が日産の在り方を見つめ直し、自分たちが欲しいクルマ、引いてはユーザーが「いいね!」と感じてくれるクルマを通してブランドの再構築を図ろうと決断した証がZなのだ。おそらく、次期Zが日産に莫大な利益をもたらすことはないだろう。数を見込めないスポーツカーなのだからそこは仕方ない。けれど、僕は間違いなくZプロトを見てワクワクしたし、今後の日産には期待できそうだなとも感じた。そして、多くの人が僕と同じような印象を抱いたとすれば、Zプロトはその役割を十分に果たしたといえる。

世の中には目先の利益だけでは計れない価値がある。今後の日産に求められているのは、次期Zによって高められたブランド価値を、より多くの販売台数が見込める商品へと活かしていくこと。そう、次期Zはクルマ好きから支持されるブランドへと生まれ変わろうとしている新生日産の“切り込み隊長”なのである。

文/岡崎五朗

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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