切れ味鋭いハンドリングがクルマ好きを魅了するアルファロメオ「ジュリア」
&GP / 2020年12月20日 19時0分
切れ味鋭いハンドリングがクルマ好きを魅了するアルファロメオ「ジュリア」
手頃なサイズのインポートセダンを買いたいと考えた時、誰もがイメージする定番といえば、メルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」、そしてアウディ「A4」の3台だろう。いずれもドイツのプレミアムブランドを代表するモデルで、日本車でいえばレクサス「IS」に相当する“Dセグメント”に属す小さめのセダンだ。
今回紹介するのは、ヨーロッパ生まれのDセグメントセダンでありながら、ドイツ御三家ほどメジャーではない“通”な選択肢。ひときわスポーティで飛びきりの個性を備えたアルファロメオ「ジュリア」だ。あえて“定番外し”という視点から、このクルマの魅力に迫ってみたい。
■前後50:50の重量配分を実現するFRスポーツセダン
アルファロメオの現行ジュリアは、2016年にデビューし、日本には2017年に上陸。一般的な認知度は決して高くはないが、クルマに詳しい人なら、かつてのビッグネームが復活したとして、そのデビューが大きな話題を集めたことを覚えていることだろう。
正確にいうと、かつての名車を現代へと甦らせたというよりも、新しいクルマに往年の名車の名前をつけた、といった方が正しい。20年ほど前に日本でも大ヒットを記録した「156」や、その後継モデルである「159」などの系譜を受け継ぐモデルと考えれば、その性格が分かることだろう。
しかしジュリアは、156や159とは大きく異なる。その最大のポイントは駆動方式で、前輪駆動だった156と159に対し、後輪駆動へとスイッチ。スポーツセダンにとって理想的な駆動方式と、前後50:50の重量配分とを実現している。このふたつの要素は、長きにわたって、あのBMWがこだわり続けてきたもの。これだけをとって見ても、ジュリアは走りを重視していることがうかがえる。
そもそも、このクラスの“3強”に挑むに当たって、新参者のジュリアがライバルと同じようなクルマ作りをしていたのでは、存在感を主張できずに埋もれてしまう。そこでジュリアは、ライバルとの明確な違いを主張すべく、スポーティという要素をひときわ磨き込んできたのである。
■460万円のエントリーグレードはコスパが高い
そんなジュリアが、先頃マイナーチェンジを受けた。ポイントは、装備のグレードアップと先進安全装備の充実、そして、買い得感の高い新グレードの追加という3点だ。
まず、装備のグレードアップに関して見逃せないのは、待望のカーナビが組み込まれたこと。実はジュリアには、これまでカーナビがビルトインされていなかったのだ。もちろん、スマホを接続することにより、車載モニターでAndroid AutoやApple CarPlayを経由してGoogle Mapなどの地図アプリを使えていたから、実質的に困ることはなかった。とはいえ、ライバル各車はカーナビがついていて当たり前の状況。そのため販売現場には「500万円のクルマなのにナビがないの? ライバルには標準でついているのに」なんて声が多く寄せられたことだろう。ひと昔前のイタリア車では想像もできなかったことだが、ついにそんな声とも無縁になったのだ。
加えて、車載モニターの画面がタッチパネル化されたのもトピック。ナビゲーションを始めとするインフォテイメント系が断然使いやすくなっている。もちろん、接続したスマホの各種機能も、タッチパネルで操作可能だ。
先進安全装備の充実に関しては、ステアリング制御の進化に注目。例えば、隣の車線の斜め後方を走るクルマの存在をドアミラー内のランプを点灯させて知らせてくれる“アクティブブラインドスポットアシスト”は、車線変更によって他車と接触しそうになると、ステアリング操作を補正して事故を防いでくれるよう進化。さらに、高速道路を走行中、前方を走るクルマに合わせて車速を自動調整してくれるACC(アダプティブクルーズコントロールシステム)には、車線の中央を維持するステアリング制御が組み込まれた。これらのおかげで、ロングクルージングでも疲れにくくなっている。
そして3つ目のトピックといえば、新グレード「2.0ターボ スプリント」が追加されたことだ。これは価格を抑えたベーシックグレードだが、キセノンヘッドライトや18インチのタイヤ&アルミホイール、レザーシート、フロントシートの電動調整機構、デュアルゾーン式オートエアコンなど、多彩な快適装備を標準で備えている。
今回のマイナーチェンジにおけるホットトピックである、ステアリング操作に介入してくれる安全装備や運転支援機能、そして、カーナビゲーションなどは非搭載(タッチパネル式ディスプレイはついている)だが、460万円という価格設定を目の当たりにすると、「まあいいか」という気分にさせられるほどコスパが高い。
■元気のいいエンジンがスポーティさを強調
新グレードである2.0ターボ スプリントで久しぶりに“生ジュリア”にふれてみて実感したのは、相変わらず個性的なクルマだな、ということ。昨今、BMWが「4シリーズ」に採用した“特大・縦長グリル”が大きな話題を集めているが、現行ジュリアのフロントグリルも、それに負けないくらい我が道を行っている。BMWより3年も前に押し出しの強いフロントグリルを採用していたのだから、正直、スゴいと思う。
そして室内に乗り込むと、まずは「おやっ?」と感じた。筆者の知っているジュリアとは様子が異なっていたのだ。最新モデルは、車載モニターのタッチパネル化に伴い、シフトレバー回りのセンターコンソールが少しスッキリしたが、加えて、コックピット回りの質感も全体的にアップしている。ちょっとした違いではあるものの、高級感は格段にアップ。Dセグメントに見合うだけのクオリティを手に入れている。
残念なのは、2.0ターボ スプリントにはジュリアのラインナップで唯一、カーナビが備わっていないこと。けれど個人的には、スマホを接続してナビアプリを使えれば問題ないため、全く不便を感じなかった。しかもマイナーチェンジ前のモデルは、スマホを接続すると画面表示が小さくなる(ディスプレイをフルに活用できていなかった)上に、センターコンソールのコントローラーでしか操作できなかったため、操作性にやや難があったものの、新型ではその辺りも解消されている。カーナビがつかない分、価格が安いと考えれば素直に納得できる(ただし、ACCはついていた方がうれしいので、次回の改良に期待したい)。
2.0ターボ スプリントに搭載されるエンジンは、2リッターのガソリンターボ。ジュリアのガソリン車としては最もローパワーな200馬力仕様だ。とはいえ、最大トルクは33.7kgf-mと太いので、動力性能への不満は一切なし。ちなみに200馬力といえば、リアルスポーツカーであるトヨタ「スープラ」のベーシックグレードを上回る数値だけに、十分な速さを味わわせてくれる。
この元気のいいエンジンこそが、ジュリアのスポーティさを強調する要素のひとつだ。ジュリアがターゲットとするBMWの3シリーズには、「318i」(489万円)というベーシックグレードが存在。ACCはもちろんのこと、渋滞時に手放し運転できるハンズオフ機能といった先進装備が備わるほか、カーナビも標準装備。とはいえ最高出力は、156馬力と(ジュリアに比べて)控えめだ。つまりジュリア 2.0ターボ スプリントは、装備面では多少見劣りするものの、エンジンパワーでは優るという分かりやすいキャラクターの持ち主。走り好きにはうれしい存在といえるだろう。
■BMWでさえ普通に感じる鋭いハンドリング
そんな最新型ジュリアの、走りにおける真骨頂といえば、なんといってもハンドリングだ。何がスゴいかといえば、驚異的にクイックなステアリングのギヤレシオで、ちょっとハンドルを切っただけでクルッと向きを変えるなど、クルマの動きがキレキレなのだ。俊敏性がかなり強調された味つけで、普通のセダンと乗り比べたら、まるでレーシングカートのよう。「ヨーが急激に立ち上がる」なんて専門用語を使わなくても、この反応の鋭さには誰もが驚くに違いない。
峠道を走っている時には「カミソリのようにシャープだな」と感じるし、車線変更の時なんてまるで瞬間移動するかのように真横にスッと移動する。これはライバルがマネしたくても簡単にはできない異次元の味つけ。時折、「BMWはスッと曲がる感覚がスゴい」なんて表現を目にするが、ジュリアはさらに輪を掛けて鋭く、BMWでさえ普通のクルマに感じられてしまうほどだ。
こうした演出は、ドライバーによっては“過剰”と捉えられるかもしれない。もちろんアルファロメオだって、そうした賛否両論が起こることなど百も承知だろう。けれど、常識破りの突き抜けたハンドリングフィールを提供してくれることは間違いなく、この感覚を気に入りさえいれば、それを味わうためだけにジュリアを選ぶ価値は十分にある。
過激なほど切れ味鋭いハンドリングで“好き者”を魅了する最新版のジュリア。脱・定番の魅力的な選択肢として放ってはおけない存在だ。
<SPECIFICATIONS>
☆2.0ターボ スプリント
ボディサイズ:L4645×W1865×H1435mm
車重:1590kg
駆動方式:RWD
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ターボ
最高出力:200馬力/4500回転
最大トルク:33.7kgf-m/1750回転
価格:460万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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