ひと味違うセダンが欲しいなら!キャデラック「CT5」は走り上質でハイコスパ
&GP / 2021年6月2日 7時0分
ひと味違うセダンが欲しいなら!キャデラック「CT5」は走り上質でハイコスパ
GM(ゼネラルモーターズ)の高級車ブランド・キャデラックのミッドサイズセダン「CT5」が、先頃ついに上陸した。
今、アメリカ市場ではセダンが瀕死の状態にあるが、それでもキャデラックは魅力的なモデルをセダンカテゴリーへと投入。今回のCT5も、デザイン、質感、走りの出来栄えなど、全方位的に完成度が高い。
ドイツの高級セダンとはひと味違う個性を備えた、アメリカの高級セダンの魅力を深掘りする。
■強力なドイツ勢と同じ土俵に立てる高い完成度
実は今、アメリカの自動車ブランドから“セダン”が消えている。例えば、フォードやGMを代表するブランドのシボレーには、それぞれセダンは1モデルしかラインナップされていない。高級車ブランドも同様で、フォード傘下のリンカーンやGMが展開するビュイックには、北米市場向けのセダンはもはや存在していない。
そんなセダンへの逆風が吹き荒れる北米市場で、すべてのセダンのうちの3割に相当する2モデルを展開しているのがキャデラックだ。キャデラックはGMの最高峰であると同時に、アメリカを代表するラグジュアリーカーブランド。そして、クリントン政権だった1993年以降、ブッシュJr、オバマ、トランプ、そしてバイデンという各政権が、約30年間にわたってキャデラックを大統領専用車として導入していることからも、いかにアメリカ人にとって偉大なブランドであるかがうかがえる。
ギラギラとしたメッキで飾られた立派なルックスに、豪華絢爛なインテリア、そして、フカフカのシートとソフトなサスペンションに、大排気量で燃費の悪いエンジン…。キャデラックといえば、そうしたイメージを浮かべる人も多いはず。しかし、最近のキャデラックは全く違う。21世紀に入ってクルマ作りを大胆に変え、大幅なイメージチェンジを図っているのだ。
その柱となるポイントは3つある。まずはラインナップの変化だ。かつてのキャデラックは、セダンやクーペ、コンバーチブルなどを展開していたが、今はやはりSUVが中心。北米市場向けの車種構成を見ると、全6モデルのうち4モデルがSUVとなる。ふたつ目はモダンなデザイン。フロントに縦長のアクセントライトを組み合わせるなど、エッジを効かせたシャープなルックスで先進性をアピールする。そして最後に象徴的なのが、走りの完成度の高さだ。各モデルともスポーティさを前面に押し出し、中でもセダンは“スポーツカー開発の聖地”と呼ばれるドイツの超過酷なサーキット・ニュルブルクリンクでテストを行うなど、走行性能が鍛え上げられている。特に、走りのパフォーマンスを引き上げたハイスペックな「Vシリーズ」(後述)は、従来のキャデラックのイメージを完全に覆す。
そんなキャデラックが現在ラインナップするセダンは、Dセグメントに相当する「CT4」とEセグメントのCT5。さらに、アメリカや日本ではすでに販売終了となったが、中国市場にはFセグメントの「CT6」も存在する。CT4はメルセデス・ベンツの「Cクラス」やBMWの「3シリーズ」がライバルで、CT5は同様に「Eクラス」や「5シリーズ」、そしてCT6は同じく「Sクラス」や「7シリーズ」と同じセグメントに属す。つまるところアメリカ車ブランドながら、キャデラックのセダンは欧州のセグメント分類に準じたラインナップ構成なのだ。いい換えれば、ドイツのプレミアムブランドと同じ土俵で戦うことを意識したモデルといえる。
■流麗なルックスながらリアシートの居住性は秀逸
今回フォーカスするのは、現時点でキャデラック唯一の日本市場向けセダンとなるCT5だ。その実車を目の当たりにして、意外にカジュアルな雰囲気なのに驚いた。スーツでバリっと着飾った…というよりも、ジーンズにジャケットを羽織ったくらいのラフな印象。そう見える理由のひとつは、リアウインドウを大きく寝かせ、トランクリッドを短くしたクーペ風のスタイルだろう。
メルセデス・ベンツでいえば、Eクラスというよりも4ドアクーペの「CLS」に近い雰囲気で、「今の時代は形式張ったセダンではなくこっちだよ」とでもいいたげだ。ビジネスライクな雰囲気よりもパーソナル感を重視したモデルといっていい。
車内に乗り込むと、インテリアのクオリティの高さに感心させられる。インパネ中央に10インチのタッチパネルディスプレイを備えるほか、メーターにも12インチの液晶ディスプレイを採用するなど先進的。また、パネル表面の仕上げやスイッチ類の精度も、大らかだったかつてのアメ車とは異なり、緻密で欧州車に負けない質感を備えている。
加えて、最新のクルマらしくシフトセレクターは電子式で、「スポーツ」グレードには太めのハンドルにマグネシウム製のパドルシフトも組み込んでいる。確かにアメ車らしいギラついた雰囲気は希薄になり、個性が薄まってしまったのも事実だが、これもグローバルモデルを目指した結果なのだろう。
ちなみにCT5は左ハンドル車のみの設定で、好む人が一定数はいるものの、やはり日本で乗るにはウィークポイントとなり得るのは否めない。その一方で驚くのは、日本市場向けのナビゲーションをしっかりと組み込んでいること。地図データの大手であるゼンリンとGMジャパンが共同開発したクラウド型車載ナビを標準装備しており、ストリーミングなどで常に最新の地図データを使えるのは魅力的だ。
リアウインドウが大きく寝ていることもあり、リアシートの居住性が気になるところだが、結論からいえば問題なしだ。
足下が広くてゆったりしているし、頭上も見た目からは想像できないほどのスペースが確保されている。これならリアシートを使う頻度が高いユーザーも安心だ。
■洗練されたメカニズムで滑らかな走りを実現
かつてのキャデラックからは想像もつかないが、CT5のエンジンはガソリンを“ガブ飲みする”大排気量のマルチシリンダーではなく、2リッターの直列4気筒が搭載されている。そこにターボチャージャーを装着することで240馬力を発生。いわゆるダウンサイジングターボだが十分パワフルで、1500回転から35.6kgf-mという3.5リッター自然吸気ガソリンエンジンに相当する太いトルクを発生するから加速も力強い。
とはいえ、単に動力性能が十分で扱いやすいというだけに留まらないのがCT5のエンジンの魅力。アクセルペダルを踏み込むと、まるで6気筒エンジンのように「シュン!」と軽快に吹け上がり、その滑らかさと繊細さからは精度の高さを実感できる。この4気筒エンジンの出来栄えはかなり秀逸だ。
そんなエンジンに組み合わされるのは驚きの10速AT。例え高速道路でも、日本の制限速度内では10速ギヤまで使いきれないケースの方が多いと思われるが、滑らかにギヤがつながり、実燃費の向上にも貢献していることだろう。
一方、出来のいいエンジンと比べると、ハンドリングはシャープさやスポーティさといった個性こそ薄いものの、落ち着いた乗り味で乗り心地も良好。CT5の駆動方式は後輪駆動とそれをベースとする4WDだから、前輪側が内側へ切れ込んでいくようなキレのいいコーナリングも味わえる。
ちなみに4WD車の前後トルク配分は、ハンドリング重視の前後20:80から走行安定性を高める50:50まで、選んだ走行モードによって配分される。
■キャデラック史上最強の「Vシリーズ」の上陸を熱望!
CT5-V ブラックウイング
日本仕様のCT5には、「プラチナム」と「スポーツ」という2グレードが設定される。その名称からすると、前者が上級仕様で後者がスポーティ仕様かと思いきや、そうではない。560万円のプラチナムはベーシック仕様で、620万円のスポーツは各種装備の“全部載せ”状態と考えると分かりやすいだろう。
電動調整式のレザーシートやボーズ製のプレミアムオーディオなどは両グレードとも標準装備だが、スポーツには加えて、運転席と助手席のマッサージ機能やマグネシウム製のステアリングパドル、19インチタイヤ(プラチナムは18インチ)などが追加され、駆動方式も4WDとなる。にも関わらず、プラチナムの60万円高で収まるのだから、スポーツはかなりハイコスパだ。
そんなCT5で興味深いのは、アメリカ本国にはメルセデス・ベンツのAMGやBMWのMに匹敵するハイパフォーマンスモデルが用意されていることだ。それが、キャデラック史上最も強力な「CT5-V ブラックウイング」で、気になる心臓部は6.2リッターV8エンジンをスーパーチャージャーで武装。最高出力は驚きの668馬力で、最大トルクも91.1kgf-mと常識外れだ。またトランスミッションは、10速ATも設定されているものの標準設定はなんと6速MTというから、なんとも時代の流れに反している。
現時点で、CT5-Vブラックウイングが日本市場へ導入されるとのアナウンスはないが、仮に上陸を果たせば、キャデラック、そしてGMにとって強力なイメージリーダーとなるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆プラチナム
ボディサイズ:L4925×W1895×H1445mm
車両重量:1680kg
駆動方式:RWD
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:10速AT
最高出力:240馬力/5000回転
最大トルク:35.6kgf-m/1500〜4000回転
価格:560万円
<SPECIFICATIONS>
☆スポーツ
ボディサイズ:L4925×W1895×H1445mm
車両重量:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:10速AT
最高出力:240馬力/5000回転
最大トルク:35.6kgf-m/1500〜4000回転
価格:620万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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