どこが同じで何が違う?「GR86」と「BRZ」はデザインや足回りの作り分けが絶妙
&GP / 2021年7月21日 7時0分
どこが同じで何が違う?「GR86」と「BRZ」はデザインや足回りの作り分けが絶妙
フルモデルチェンジでいよいよ第2世代へと生まれ変わるトヨタ「GR86」とスバル「BRZ」。前者は2021年秋、後者は2021年夏のデビューを予定している。
正式発表を前に、プロトタイプに触れながら開発者の話を聞くことができた。実車を子細にチェックすることで見えてきた2台の共通点と相違点を紹介する。
■双子でも見た目と性格が異なるGR86とBRZ
2021年秋のデビューを予定しているトヨタのGR86と、同年夏の正式発表を控えるスバルのBRZ。2台は基本的なメカニズムを共用する双子車の関係にある。
2台はトヨタとスバルによる共同開発車で、設計や生産はスバルが担当。とはいえGR86は単なるOEMモデルではなく、デザインや走行フィールに独自の味つけが施されている。双子とはいえ、見た目も性格も異なる間柄だ。
エクステリアは、スチールやアルミで構成される主要なボディパネル部は2台共通。異なるのはフロントマスクとディテールだ。
フロントは樹脂製バンパーの形状自体が異なり、併せてヘッドライトとウインカーがそれぞれ独自デザインとなる。GR86はシャープでスッキリとした顔つきである一方、BRZはエレガントで大人っぽい印象を受ける。
バンパーの開口部は、GR86が縦長、BRZはワイドで天地が短い。見比べるとナンバープレート取り付け位置の高さまで異なる(GR86の方が低い)が、それはバンパー開口部の形状と空気の流れを考慮した結果だという。
対してボディサイドは、ドアミラーカバーの色がGR86はブラックでBRZはボディ同色、18インチホイールの仕上げがGR86はマットブラックでBRZはダークグレーメタリックとなる。
ちなみにリア回りの違いは、エンブレムなどごくわずかだ。
インテリアでは、GR86だけに赤いフロアカーペットとドアトリムが用意されているのが目立つ。ただしこれは全グレードではなく、上級仕様だけの設定となるようだ。
一方、エンジン始動時のメーターパネル上の演出は、GR86とBRZでそれぞれ独自のものが用意される。ハンドルはGR86のみ6時の位置にGRのエンブレムが付き、スターターボタンのリングもGR86はシルバー、BRZはメッキと差別化されている。
■足回りの構造やエンジン制御を作り分け
とはいえ、こうした見た目の違いは2台の相違点の“ごく一部”に過ぎない。実は走りのフィーリングにおいてもGR86とBRZは差がつけられていて、むしろ作り分けに関してはこちらがメインとさえいえる。
そう聞くと「初代だって86とBRZは走り味が差別化されていた」という人もいるだろう。確かに初代も味つけは異なっていたが、その違いを生み出していたのはショックアブソーバーやコイルスプリング、パワーステアリング制御の違いくらい。一方で新型は、ハード/ソフト両面において変更箇所が拡大している。
例えば、サスペンション回りやステアリング系では、ショックアブソーバー、コイルスプリング、パワーステアリング制御が異なるのに加え、スタビライザーやフロントナックル、リアスタビライザーの取りつけ方法まで別物となる。
具体的にいえば、コイルスプリングは、フロントはBRZの方が硬く、リアはGR86の方が硬い。また、フロントタイヤを取りつけるハウジング(ナックル)は、BRZが新設計のアルミ製なのに対してGR86は鉄製となる。アルミ製の方が軽く、設計上の剛性はどちらも同じだというが、実際走ってみると鉄製の方がGRの求める乗り味を引き出せたからだという。ちなみに鉄製のナックルは、初代のそれを継承している。
またフロントのスタビライザーは、BRZが直径18.3mmの中空(鉄パイプのように中央が空洞)タイプを使用するのに対し、GR86は直径18mmの中実(内部に空洞がない)タイプを使う。対するリアも、BRZは直径14mm、GR86は直径15mmと太さが異なり、その取りつけ方法もBRZはボディ直づけ、GR86はリアのブラケットに取りつけと作り分けられている。
スタビライザーはクルマのロール(コーナリング時の左右方向の傾き)をコントロールするパーツのひとつだが、太さや径によるねじれ方の違いでクルマの挙動が変化する。これも実際に走行テストを繰り返し、それぞれが求める走り味に合わせたパーツを使用している。
加えて、トレーリングアームというリアサスペンションを構成する部品のブッシュを、BRZは新設計の高硬度タイプに変更しているのに対し、GR86は従来モデルのそれを引き継いでいる。
エンジンは、形式などの基本構造は同じだが、制御の特性が異なる。これも初代にはなかった新型ならではの作り分けで、“なまし制御”と呼ばれる、アクセルペダルを踏んだ時にエンジンが反応するまでの“ため”をGR86とBRZで差別化している。
この“ため”がなければ、特に低速走行時にギクシャクしてしまうが、ありすぎると逆にアクセルベダルを踏んだ時のダイレクト感が失われる。その絶妙なサジ加減を、トヨタとスバルとで変えているのだ。
またMT車に関しては、アクセル操作に対するエンジン回転数の上昇の仕方が異なっている。ある程度踏み込んでからは2台とも同じだが、少しだけ踏み込んだようなシーンでは、GR86の方が立ち上がりが鋭く、キビキビした印象を与える制御となっている。
■土壇場で設計変更を実施したGR86
このように、それぞれのターゲットに合わせて絶妙に作り分けられているGR86とBRZ。しかし今回、開発者に話を聞いて驚いたことがふたつあった。
ひとつ目は、当初、2台ともほぼ共通のエクステリアデザインにする方向で開発が進んでいたということ。そのプランによると、2台の見た目の違いはエンブレム程度だったという。しかし開発者たちも、内心「それはないだろう」と感じていたとのことで、実際に出来上がったGR86とBRZは、ご覧の通り顔つきがかなり異なる。
GR86とBRZの開発テーマのひとつに「手の届きやすい価格設定」というものがあるが、見た目を共通化すれば価格の引き下げにつながるだろうから確かに筋は通っているプランだ。しかし、もしエンブレムが違うだけの2台が登場していたら、ガッカリするファンもきっと多かったはずだ。
もうひとつの驚きは、開発末期まで走りの味つけが現在のように差別化されておらず、ハード/ソフト両面の相違点ももっと少なかったということ。しかし「GRはモータースポーツ直系のスポーツカーブランド。もっとGRらしい走り味に仕立てたい」というトヨタGRのマスタードライバーの鶴のひと声で、GR86はさらに独自の設計・セッティングを加えていくことになったという。
通常こうした作業は、発売の1年ほど前にはほぼ完了している。しかし、トヨタがGR86の走り味をさらに煮詰めることになったタイミングは2021年8月のことだった。そして、最終的な仕様が決定したのは、つい先日の2021年3月だったというから驚きだ。
そんな土壇場での設計・セッティング変更は、まさに異例中の異例である。今回、GR86の発売がBRZより遅れるのは、こうした理由があったためだ。逆にいえば、GR86は発売時期を遅らせてまで、とことん走りにこだわったモデルだと見ることもできる。
<SPECIFICATIONS>
☆プロトタイプ(6MT)※開発目標値
ボディサイズ:L4265×W1775×H1310mm
車重:1270kg
駆動方式:RWD
エンジン:2387cc 水平対向4気筒 DOHC
トランスミッション:6MT
最高出力:235馬力/7000回転
最大トルク:25.5kgf-m/3700回転
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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