速いぞ!カッコいいぞ!!新型「コルベット」はミッドシップ化で走りとデザインを改革
&GP / 2021年8月30日 7時0分
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速いぞ!カッコいいぞ!!新型「コルベット」はミッドシップ化で走りとデザインを改革
アメリカ車を代表するスポーツカーであり、モータースポーツ界でも華々しい活躍を収めているシボレー「コルベット」が8世代目へと進化。
そんな新型で最大のトピックは、エンジン搭載位置がミッドシップ化されたこと。これまでの“らしさ”を捨てた新型コルベットは、果たしてどんな魅力を備えているのだろうか?
■宿願だったミッドシップ化を果たした新型コルベット
初代の登場以来、60年を超える伝統を持つコルベット。そんなアメリカを代表する高性能スポーツカーが、2019年7月に第8世代となる“C8”にモデルチェンジした。2020年1月に日本仕様の概要が発表されると同時に予約受付がスタートし、2021年5月からデリバリーが始まって日本の道を走り始めた。
新型コルベットの最大のハイライトは、エンジン搭載位置の変更だ。歴代コルベットは長らく、高出力のV型8気筒OHVエンジンをフロントに搭載し、リアタイヤを駆動していた。前後重量配分を最適化するためにエンジンを前車軸より後方に搭載する、いわゆるフロントミッドシップで、そんな位置にエンジンを搭載したがために長くなったフロントノーズが、コルベットのアイコンにもなっていた。
しかし新型は、エンジンの搭載位置をフロントから乗員の後方へと変更した。すなわち(リア)ミッドシップである。トランスミッションはフロントエンジン時代もリアデフと一体化したトランスアクスル方式を採用していたので(やはり、前後重量配分適正化のため)、単純に、エンジンをキャビンの前から後方へと移したわけである。これにより、ドライバーの着座位置は従来型に対して約40cm前進。前後重量配分は、ある人物が理想としていた40:60になった。
その、ある人物とは、“コルベットの父”とも呼ばれるゾーラ・アーカス-ダントフだ。初代のマイナーチェンジからコルベットの開発に携わることになったダントフは、早くからミッドシップのポテンシャルに気づき、CERV(Chevrolet Engineering Research Vehicle)のコードネームを持つ実験車両を製作して技術研究を繰り返した。ミッドエンジンのCERVは、1959年のIから1993年のIVまで製作されたが、その間ついに、量産コルベットがミッドシップ化されることはなかった。
新型コルベットのカタログには、次の一文が記されている。
「ゾーラ・アーカス-ダントフに捧げる — ミッドエンジンの炎を灯し育てたオリジナル・コルベットのチーフエンジニアへ」
こうした背景を知らないと、「コルベット、急にどうしたの?」と、ロングノーズのアイコンを捨てた判断をいぶかしむ思いが先に立つが、実はコルベットの開発陣にとってミッドシップ化は60年来の宿願だったのである。
ただ、このストーリーの裏には、イメージ一新を図って新たなユーザーを呼び込もうとするシボレーと、同ブランドを展開するGM(ゼネラルモーターズ)の魂胆も透けて見える。ヒットしたクルマの常で、伝統を守ろうとするとその行為が縛りになり、商品が陳腐化していく。モデルチェンジした新型を買うのは旧世代のオーナーばかりになり、代を重ねるごとにユーザー層は高齢化していき、数は先細りになっていく。そんな状況を打破しようとする狙いも、新型コルベットのミッドシップ化には込められているように思う。
シボレーとGMの狙いはともかく、実物がド迫力なのは間違いない。画面や誌面で見るより、実物のインパクトの方がはるかに大きい。コルベットらしいか否かは別にして、「すごいクルマに違いない」ことはパッと見て伝わってくる。夏休みの観光客でにぎわうパーキングエリアでの視線の集まりようといったらなかったし、スマホで撮った写真を家族に見せた時の反応も感嘆詞の連続だった。
■右ハンドル仕様でも最適なドラポジをとれる
そんな新型コルベットだが、日本のユーザーにとってはエンジンの搭載位置変更以外にもハイライトがある。これまでのような左ハンドルではなく、右ハンドルとなったのだ。ただ、右ハンドル化で気になるのは、ペダル配置である。ホイールハウスとの干渉を避けるべく、ペダル全体が左側にオフセットするケースが輸入車では時折見られるが、新型コルベットの場合は自然に右足を伸ばした位置にオルガン式のアクセルペダルが存在する。左足を休ませておくスペースもきちんと確保されており(フットレストがある)、最適なドライビングポジションをとれる。
コクピットは先代の“C7”コルベットと同様、助手席側にスロープ状の壁が立っており、完全にドライバーを優先した環境が整えられている。C7と異なるのは、スロープの部分にエアコンの操作スイッチが一列に並んでいること。操作性はともかく、デザインの奇抜性は高い。
フロントウインドウ越しに見る路面が近く感じられるのは、ミッドシップ化の恩恵だ。急斜面のゲレンデを見下ろすような感覚である。それでいて身がすくむような不安を感じないのは、ボンネットフード左右の端が峰のように盛り上がり、適度な囲まれ感を演出しているからだろう。
新型のメーターパネルはフルデジタル化されている。センターコンソールの一等地にある走行モード切り替えダイヤルの操作と連動し、グラフィックが切り替わる。エンジンのスタート/ストップスイッチはクラスターの左下に配置。シフトセレクターはボタン式だ。
そのほか、コックピット中央の8インチタッチスクリーンにナビゲーションシステムが標準装備されたのも、日本のユーザーにとっては朗報に違いない。マップのグラフィックが1980年代のテレビゲーム風でレトロな感じがするのは、デジタル化が進んだコックピットとミスマッチな気もするが、便利なのは事実である。
■古典的ながら低重心化に有利なOHVエンジン
エンジンスタートスイッチを押すと、ドライバーの背後に位置する“LT2”型の6.2リッターV型8気筒OHVエンジンが大音量の重低音を発して目覚める。周囲に人がいると、ちょっと気恥ずかしいくらいだ。だが、デフォルトの「ツーリング」モードを選択し、周囲の流れに合わせて加速〜巡航している限り、エンジンは静かでおとなしく、さほど存在を主張してこない。
歴史的にOHVというエンジン形式は古く、その進化形として、バルブを駆動するカムシャフトをバルブの上方に配置したSOHCやDOHCが生まれた。高出力化を図る際の高回転化に向いているのは、バルブをほぼダイレクトに駆動し、かつ吸排気独立して駆動するDOHCだ。
しかし新型コルベットは、積年の宿願が叶ってミッドシップ化されたものの、エンジンは相変わらずプッシュロッドを介してバルブを駆動するOHVのままである。コルベットにとってはそれが、最適だからだ。
OHVが高回転化や高出力化に不向きなら、排気量を増やしておぎなえばいい。その回答が6.2リッターの大排気量である。それに、バルブの上に鉄の棒でできた重いカムシャフトが存在するDOHCよりも、バルブのはるか下、Vバンクの谷底部分にカムシャフトを配置するOHVの方が、低重心化という点でメリットがある。
しかもコルベットのOHVは、本格的なレーシングカーと同じドライサンプ方式を採用しており、より重心を低くするための設計が施されている。エンジン底部に必要なオイル溜まりをなくした分、ウエットサンプ方式に比べて数10mmはエンジンの搭載位置を低くできるのだ。このことからも、コルベットのOHVエンジンは走りを真剣に考えたユニットであることが分かる。
先代のトランスミッションは8速ATだったが、新型のそれは8速のデュアルクラッチ式ATに変わった。一般論でいえば、MTと同様に歯車の組み合わせで構成されたデュアルクラッチ式ATは、遊星歯車とクラッチ/ブレーキの締結要素で構成されるATに比べて伝達効率が高く、ダイレクト感に優れる。デュアルクラッチ式の弱点はATのようにトルクコンバーターを持たないことで、そのため発進〜微低速時にギクシャクした動きが出ることもある。今回の試乗では微低速領域を十分確かめる機会はなかったが、少なくとも、気になるような素振りは一切見せなかった。
100km/h走行時のエンジン回転数が8速で1300回転近辺であることからも、502馬力の最高出力と65.0kgf-mの最大トルクを発生するエンジンの懐の深さを感じる。そんな低いエンジン回転だから、高速巡航中の車内は平穏そのもの。しかもこのエンジンには気筒休止システムがついており、低負荷領域では4気筒を停止させ“V4”で走る。シリンダーを半分休ませても排気量が3.1リッターだと分かれば、フツーに走って当然といえば当然。しかし驚くべきは、V8←→V4の切り替えがスムーズなことで、メーターに表示されるV4の表示を確認しない限り、気筒休止が作動していることを乗り手に悟らせない。音の面でも振動の面でも、それほど洗練されている。
■高回転域は昇天するほどの気持ち良さ
新型コルベットが搭載する大排気量エンジンの真価を味わえるのは、3000回転を超える辺りから。イエローゾーンは5500回転、レッドゾーンは6000回転の設定で、数字だけで見れば物足りなさを感じるかもしれない。だが、5000回転も回れば昇天するほどの気持ち良さを味わえることは、体験してみれば分かる。
3000回転ともなると低いギヤを選んでいてもそこそこの速度域になるが、そこからアクセルペダルを踏み込んだ時の回転の上昇と、それとリンクした遠吠えのようなエンジンの咆哮、そして、ノドの奥で鳴っているかのようなゴロゴロ音とが重なり合い、気分が高まる。そのサウンドの高まりとリンクし、背中を蹴飛ばされたかのように新型コルベットは力強く加速する。病みつきになること間違いなしだ。
ドライブモードをツーリングから「スポーツ」、「レーストラック」に切り換えると、スポーツ→レーストラックの順にパワーステアリングとサスペンションのセッティングがハードになり、エンジン音はよりワイルドになって、積極的に低いギヤを選択する制御になる。サスペンションには磁性流体の制御によって減衰力を可変する“マグネティックセレクティブライドコントロール”が組み込まれていて、スポーツ→レーストラックの順にハードとなる。
サスペンションに関してだけいえば、高速道路を巡行する際はツーリングが適。高速道路より速度域が低い一般道の荒れた路面ではむしろ、スポーツの方がフラット感は高い。レーストラックは文字通りサーキット走行向けだが、一般道でこのモードを試すと、「これでサーキット走ったら、さぞかし気持ちいいだろうな」というムードを味わえる。その意味で、一般道でも使い道がありそうだ。
■ルーフレス時もしっかりした乗り味は不変
ショックアブソーバーのモードが切り替わると、切り替わったなりの効果をしっかり体感できるのは、入力を受け止める側のボディがしっかりしているからだ。部位によって製法と構造が異なるアルミ材を使い分けた骨格を採用するのは先代と同じだが、新型コルベットはミッドシップ化に伴って新設計するに当たり、大幅に剛性を向上させている。
取り外し可能なルーフを備えているのもコルベットの伝統で、ルーフはリアのトランク内に収納可能。しっかりした乗り味は、ルーフレス時も変わらない。ちなみにこの状態でも、手荷物程度ならフロントのラゲッジスペースに収納しておけるので使い勝手にも優れている。
新型コルベットは見かけ倒しのクルマでは決してない。走りの性能に真摯に向き合って開発されたことは、乗ればすぐに分かる。それが分かると、「2LT」グレードの1180万円というプライスタグは大バーゲンだし、「3LT」グレードの1400万円にしても同様だ。
2LTと3LTの違いは主に装備の違いで、エンジンのスペックを含めたパフォーマンスに差はない。スーパーな性能を備えているのにフレンドリーに付き合えるのも、新型コルベットの魅力である。
<SPECIFICATIONS>
☆3LT
ボディサイズ:L4630×W1940×H1220mm
車重:1670kg
駆動方式:MR
エンジン:6153cc V型8気筒 OHV
トランスミッション:8速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:502馬力/6450回転
最大トルク:65.0kgf-m/5150回転
価格:1400万円
文/世良耕太
世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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