スズキ「ワゴンRスマイル」はちょうどいい全高とスライドドアで新ジャンルを築くか
&GP / 2021年10月5日 7時0分
スズキ「ワゴンRスマイル」はちょうどいい全高とスライドドアで新ジャンルを築くか
スズキから、今や鉄板の装備であるリアスライドドアを備えながら、1695mmというちょうどいい全高を採用したブランニューモデル「ワゴンRスマイル」が登場した。
スライドドアを備えた車高の高い“スーパーハイトワゴン”が昨今の軽自動車のトレンドだが、車高がそれより約10cm低いワゴンRスマイルは、どんな美点を備えているのだろうか?
■ハイトワゴン以上スーパーハイトワゴン以下の絶妙な全高
今、軽乗用車の人気はスライドドア装着車に集中している。その販売比率は、2020年には軽自動車全体の50%を超えたというのだから驚くほかない。
中でも人気の中心はスーパーハイトワゴン。ホンダ「N-BOX」やスズキ「スペーシア」、ダイハツ「タント」などが属すカテゴリーで、左右のリアにスライドドアを組み合わせるとともに、天井が高くて室内が広いのも特徴だ。
そんな状況下にある軽自動車界に、スズキが放った新しい矢がワゴンRスマイルだ。「ワゴンR」のバリエーションのひとつという位置づけだが、ワゴンRの歴史上初めてスライドドアを組み合わせたのが大きなトピックである。
そんなワゴンRスマイルは、パッケージング面に注目すべき点がある。それは背の高さだ。ワゴンRスマイルの全高は1695mmで、ワゴンR標準車の1650mmより高いものの、スーパーハイトワゴンのスペーシア(1785mm)よりはかなり低い。この全高によって新ジャンルを開拓しようというわけだ。
■スライドドアの恩恵で後席への乗り降りがラク
そんなワゴンRスマイルで興味深いのが車体設計だ。ネーミングにワゴンRと入っているから「スライドドアを組み合わせても車体骨格はワゴンRと共通かな?」と思いきや、実はそうではなく、ベースはスーパーハイトワゴンのスペーシアだったのだ。つまりワゴンRスマイルは、「車高を95mm低くしたスペーシア」といっていい。
そのため、600mmというスライドドアの開口幅や、345mmというリアドアのステップ地上高などはスペーシアのそれに準じている。ステップとフロアとの段差がなく、後席の乗り降りがしやすいのも然りである。
もちろん直接比べれば、スペーシアの方が後席の乗り降りはラクだ。しかし、ワゴンRスマイル単体で見る限り、スペーシアより車高が約10cm低くなったことで乗り降りしづらくなったという印象は受けなかった。
いずれにせよ、スライドドアの採用でワゴンR標準車と比べれば明らかに乗り降りしやすいし、隣のクルマとの間隔が狭い駐車場などでも、接触を気にすることなくドアを全開にできる。これはスライドドア装着車ならではのメリットだ。「スライドドア装着車が欲しいけれど、極端に車高の高いクルマはいらない…」。ワゴンRスマイルは、そんな人たちにぴったりのモデルである。
では、気になる室内の広さはどうか? 運転席に座ってみると、確かにスペーシアより頭上空間のゆとりが小さい。しかしそれは“過剰”と思えるほどに天井が高いスペーシアと比べた場合の話であって、ワゴンR標準車など一般的な“ハイトワゴン”を比較対象にした場合、ワゴンRスマイルは十分広い。むしろ「これくらいの方が落ち着く」という人も少なくないはずだ。
ワゴンRスマイルのフロントシートは、ワゴンR標準車に比べて70mm高い着座位置やドライビングポジション、シートの構造などスペーシアとの共通点が多い。ワゴンR標準車と比べて着座位置が高い分だけ見晴らしがよく、運転感覚はミニバンのそれに近い。
一方のリアシートは、スペーシア用ではなくワゴンR標準車用をベースとする。そのためスペーシアより着座位置が低く、ワゴンRと同等となる。その分、スペーシアより低く座ることになるが、これにより頭上空間の広さを感じさせてくれる。
ちなみに、リアシートの居住性を左右する前後シート間の距離は、スペーシアやワゴンR標準車と同一。実際にリアシートに座ってみると、スーパーハイトワゴンと変わらない広さを実感できる。
■走りと燃費はスーパーハイトワゴンより良好
このように、あえて全高を低くしてきたワゴンRスマイルだが、スペーシアを始めとするスーパーハイトワゴンに対するアドバンテージとは何か?
第一は燃費性能だろう。自然吸気エンジンを搭載するスペーシアの前輪駆動車の燃費は、カタログ記載のWLTCモードで21.2〜22.2km/L。これに対してワゴンRスマイルは、同様の仕様で23.9〜25.1km/Lまで伸びる。これだけの差を生み出しているのは、エンジン自体の進化もさることながら、車両重量が軽いこと、そして、空気抵抗が小さいことといった要因も大きい。
もうひとつは、コーナリング時などにおけるクルマの挙動だ。ワゴンRスマイルはスーパーハイトワゴンに対して車高が低い分、当然ながら重心が低く、わずかな差とはいえハンドリングはより自然である。幹線道路や高速道路では横風の影響をより受けにくく、動きが落ち着いているように感じる。
高速道路といえば、巡行時の静粛性が高いことにも驚いた。高速巡航時は車内がうるさくなりがちな軽自動車ながら、前後席に座る乗員間で普通のトーンで会話できるのは立派である。
そんなワゴンRスマイルのウイークポイントを挙げるとすれば、ターボエンジンの設定がないこと、かもしれない。幹線道路へ入った直後に加速する場面や高速道路の本線へ合流する時などは、トルクの細さを痛感する。特に後者のシーンでは、車速を十分に乗せて安全に合流すべく、アクセル全開を求められるのだ。
街中を走る時は現状の自然吸気エンジンでも十分だが、郊外へ出かけたり高速道路を多く利用したりするのであれば、やはりターボエンジンが欲しくなる。機械的には搭載のハードルは高くないため、今後のバリエーション拡充に期待したいところだ。
さて、中身を見るとワゴンR標準車とは設計が全く異なるのに、ワゴンRスマイルはなぜワゴンRの名を冠したのだろうか?
その件について開発者に尋ねてみたところ、「これまでワゴンRを乗り継いでこられたお客さまの中には、ワゴンRという名前を信頼してくださっていて、ワゴンR以外への買い換えを躊躇されている方もいる。とはいえ『スライドドアは便利だ』という声も多いので、そういうニーズに応えたいと思いワゴンRスマイルを開発した」と応えてくれた。
つまりワゴンRスマイルは、これまでにない新たな価値を提案するブランニューモデルであると同時に、現ワゴンRユーザーの受け皿をも視野に入れたスズキにとって重要なモデルなのだ。
<SPECIFICATIONS>
☆ハイブリッドX(2WD)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1695mm
車重:870kg
駆動方式:FWD
エンジン:657cc 直列3気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49馬力/6500回転
エンジン最大トルク:5.9kg-m/5000回転
モーター最高出力:2.6馬力/1500回転
モーター最大トルク:4.1kg-m/100回転
価格:159万2800円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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