スバル「WRX」はココがスゴい!黒フェンダーが新鮮な新型は走りの洗練度がケタ外れ
&GP / 2021年11月29日 7時0分
スバル「WRX」はココがスゴい!黒フェンダーが新鮮な新型は走りの洗練度がケタ外れ
スバルのスポーツセダン「WRX」がフルモデルチェンジ。新型はなんといっても、SUVを想起させる黒いオーバーフェンダーが目を見張る。しかしコレ、単なる見た目のインパクト狙いではなく、洗練された走りを具現するために欠かせない重要なパーツだったのだ。
このように、新型には走行性能を高めるためのこだわりが満載。気になるその実力をサーキット走行で確かめた。
■黒いオーバーフェンダーは重要な空力デバイス
「そんなつもりは全くなかったので、世の中の反応に驚いているんですよ」と開発者。何の話かといえば、新しいWRXのタイヤ回りに装着されたオーバーフェンダーのことである。
新型の象徴ともいえるこのパーツは“クラッディング”とも呼ばれる無塗装の樹脂製で、一般的にはSUVで力強さを演出するために用いられるもの。高性能スポーツセダンに採用されるのは異例中の異例で、新型のスタイルが公開されてからクルマ好きの間で大きな話題を呼んだし、筆者も『&GP』の発表前レポートで「ワイルドで力強い雰囲気を作るための演出だろう」と予想した。
しかし、スバルの狙いは違った。開発チームいわく、狙いのひとつはスポーティ感の演出とのこと。ワイルドではなく、あくまでスポーティ。イメージしたのは、後づけのオーバーフェンダーのような大胆さだという。断じてSUVっぽい力強さではないのである。
実はスバルは、2017年の東京モーターショーに「VIZIVパフォーマンスコンセプト」という名のコンセプトカーを出展。今思えば、それは新型WRXを示唆するモデルだったのだが、何を隠そうVIZIVパフォーマンスコンセプトにも、タイヤ回りに黒いオーバーフェンダーが装着されていたのである。新型WRXはそのイメージを継承しているだけなのだが、だからこそ開発陣は「コンセプトカーでは好評だったのに、なぜ?」と世間の反応に驚いたという。
VIZIVパフォーマンスコンセプト
さらに興味深いのは、この黒い樹脂パーツが単なるデザインではないということ。実は走行性能を高めるための機能がしっかり備わっているのである。よく見ると、パーツ表面に細かい凹凸が設けられていて、“空力テクスチャー”と呼ばれるそれが空気の剥離を抑制。ボディに掛かる圧力の変化を抑え、操縦安定性を高めてくれるという。
デザインと機能の両面から意味のあるパーツだと聞けば、仮に最初は違和感を覚えても、多くの人が納得できるのではないだろうか。
■SGP採用とエンジンの排気量アップが新型のキモ
従来のWRX には、高性能で快適なスポーツセダン「WRX S4」と、ストイックに高次元の走りを追求した「WRX STI」がラインナップされていたが、今回デビューしたのは前者の方だ。「STIスポーツR」というグレードもあるため少しややこしいが、バリバリのスポーツセダンであるWRX STIではない。そのためトランスミッションは“スバルパフォーマンストランスミッション”と名づけられたCVTのみの設定で、今のところMTの用意はない(先代もMTはWRX STIのみの設定だった)。
そんな新型(と先代)が2世代以上前のWRXと異なるのは、「インプレッサ」の派生モデルではないということ。新型WRXに使われるプラットフォームは“SGP(スバルグローバルプラットフォーム)”なので基本は現行インプレッサに通じるが、新型WRXに使われるSGPはインプレッサのものより上級で、高性能モデル向けに補強が施されている。さらに、組み立て時に理想的な溶接を施せることから車体強化に貢献する“フルインナーフレーム構造”も採用。こうしたメカニズムは、走りの良さで高評価を得ているステーションワゴン「レヴォーグ」に通じるものがある。
さらに新型で注目すべきは、エンジンが2.4リッターに排気量アップされたこと。このエンジンは北米市場向けの「アウトバック」などにも搭載されているが、日本市場には新しいWRX S4(と同日発表されたレヴォーグの2.4リッター仕様)で初披露され、しかも2台にはより高出力なバージョンが搭載されている。
また新型WRX S4は、高速道路での渋滞時にハンドルから手を放しての運転が可能となるなど、最新のテクノロジーが投入されているのもトピックだ。コックピット回りも、12.3インチのフル液晶メーターや11.6インチという特大のタッチ式センターディスプレイを採用するなど、先進的な雰囲気に一変。
スポーツモデルとはいえ単に速いだけでなく、先進性においてもライバルに先んじて未来を先取りしている。
■コントロールしやすくドライバーの思い通りに走れる
気になる走りはどうか? 新しいWRXは、その点においてもしっかり進化している。
何より驚いたのは走りの洗練度だ。サーキットにおいて先代と比較する機会を得たが、サスペンション、パワートレーン、ハンドリングのすべてにおいて、従来モデルよりも格段に滑らか。かつ安定感あるフィーリングを獲得している。
例えば、サスペンションはしなやかに動き、路面からの入力をしっかりと吸収。そのため、路面の凹凸を乗り越えた際や、右コーナーから左コーナーへと切り返すような状況でも車体のブレが少なく、驚くほどの安定感を披露する。
さらにスゴいのが旋回時のライントレース性。例の空力テクスチャーも効いているのだろう、「路面に吸いつくような感覚とはこのことか!」と思い知らされた気分になる。それくらいクルマをコントロールしやすく、ドライバーの思い通りに走れるのだ。
パワートレーンは、エンジンが従来モデルの最高出力300馬力、最大トルク40.8kgf-mから、275馬力、38.2kgf-mへとスペックダウンしたことが気になる人もいるだろう。しかし新型は、排気量がアップした分、低回転域から素早くトルクが立ち上がることもあって速さは十分。気づけば相当スピードが乗っている。
またトランスミッションも、CVTとは思えないほどアクセル操作に対する駆動系のダイレクト感が強く、サーキット走行でも全く不満を感じない。ハンドリングの進化などと合わせ、サーキットでのラップタイムは従来同等といった印象だ。
■気になるSTIのデビューはいつ頃か?
走りの完成度が抜群の新型WRX S4をドライブし、余計に気になったのが、MTを搭載する高性能モデル、WRX STIのデビューはいつ頃か? ということ。
それについて開発陣に尋ねたところ、当然のように明確な回答はなく「環境対応や先進安全装備“アイサイト”への適応などもあり、いろいろと難しい」という声が聞かれた。「とにかく速さを!」という人は、きっとデビューするであろうWRX STIの登場に期待し、その日が来るのを待ちたいところだ。
一方、2ペダルの高性能スポーツセダンを狙っているのなら、新型WRX S4はかなり魅力的な選択肢といえるだろう。これだけ走りが熱くて楽しいのに、2ペダルのためリラックスしてのイージードライブも可能。その上、高速道路の渋滞時には手放し運転もできるのだから、注目せずにはいられない。
<SPECIFICATIONS>
☆STIスポーツR EX
ボディサイズ:L4670×W1825×H1465mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:2387cc 水平対向4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:275馬力/5600回転
最大トルク:38.2kgf-m/2000〜4800回転
<SPECIFICATIONS>
☆GT-H EX
ボディサイズ:L4670×W1825×H1465mm
車重:1590kg
駆動方式:4WD
エンジン:2387cc 水平対向4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:275馬力/5600回転
最大トルク:38.2kgf-m/2000〜4800回転
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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