ホンダ「EM1 e:」に試乗して見えてきた電動バイクの可能性と普及の課題
&GP / 2023年8月27日 7時0分
ホンダ「EM1 e:」に試乗して見えてきた電動バイクの可能性と普及の課題
クルマに比べて電動化が遅れていたバイクですが、ここに来て国産メーカーからも電動モデルのリリースが続いています。なかでもホンダは、2025年までに10車種以上の電動バイクを導入することを発表しており、8月24日からは原付一種の電動スクーター「EM1 e:(イーエムワン イー)」を発売。その「EM1 e:」に試乗することができたので、その性能と可能性についてレポートします。
■ホンダとしては初の一般向け電動バイク
「EM1 e:」の特徴のひとつは、「Honda Mobile Power Pack e:」(以下、モバイルパワーパック)と呼ばれる交換式のバッテリーを動力用電源として採用していること。この「モバイルパワーパック」を採用することで、バッテリーを取り外して自宅に持ち込んで充電することができます。
これまでもホンダは電動バイクをリリースしてきましたが、従来の電動バイクはリース販売というかたちをとっていました。その理由は、使用済みバッテリーの回収や管理を自社で行うため。「EM1 e:」が一般ユーザー向けに販売されるようになったのは、使用済み「モバイルパワーパック」の回収とリユースのスキームを構築できたことが大きな要因です。
このスキームが構築できたことで、これまでリース販売に限定されていた同社の電動モデル「ベンリィe:」「ジャイロe:」「ジャイロキャノピーe:」の3車種も一般販売がスタートしました。
■補助金を使えばガソリン車並の価格で購入可能
「EM1 e:」の満充電での航続距離は53kmとされていますが、これは国土交通省の規定に沿って30km/hで一定走行した数値で、より実際の走行シーンに近いとされるWMTCクラス1の数値では、スタンダードモードで41.3km。電力消費を抑えるECONモードでは48kmとされています。
「モバイルパワーパック」の充電時間は、残量0から満充電まで約6時間。車両本体に「モバイルパワーパック」と専用充電器をセットにしたメーカー希望小売価格は29万9200円とされています。購入の際には国のCEV(Clean Energy Vehicle)補助金を利用することができ、これが2万3000円。東京都の場合は電動バイクの購入補助金があり、こちらは約3万6000円なので、都民の場合は約24万円で購入できます。
モーターはリアホイールと一体となったインホイールタイプ。定格出力は0.58kWで、最高出力は1.7kW(2.3PS)となっています。最大トルクは90Nmで、これは大型バイク並の数値です。
灯火類は全てLEDとされ、省電力に貢献。フロントライトにはリング状のデイタイムライトが装備され、ユニークなルックスを実現しています。ライダーが足を置くステップの部分はフラットで、バイクに慣れない人でも乗りやすそうです。
シートはかなり大きく、前後長も長いので、シートだけを見れば2人乗りもできそうなサイズ。これは、欧州ではタンデム走行可能なかたちで販売されているためで、よく見ると車体の側面にはタンデムステップが付いていたであろう跡もあります。電動バイクは出力の調整なども容易なので、このモデルの反響次第ではタンデム可能な原付二種クラスのリリースも期待できるかもしれません。
■初心者でもバイクの楽しさが味わえる
街中で試乗してみましたが、最大トルクが90Nmもあり、モーターは回転し始めから最大トルクを発揮できるため、発進加速はかなり力強い。
とはいえ、トルクの出方に唐突さはなく、初心者でも扱いやすい特性に制御されています。電動バイクの中には、発進トルクが強すぎて乗りにくいモデルや、スロットルでの速度調整がしにくいモデルも存在しますが、「EM1 e:」はその辺りが非常に良く調律されています。
原付一種の最高速度は道路交通法で30km/hとされていますが、そこまでの加速はスムーズ。ただ、それ以上の速度の伸びはガソリン車に比べるとやや劣ります。ホンダでは、「EM1 e:」を“電動アシスト自転車以上、ガソリンバイク未満”と位置づけているようで、これまでバイクに乗っていたユーザーの乗り換えよりも、これまでバイクに乗っていなかったユーザーを取り込んで裾野を広げていく考えのようです。クルマの普通免許で乗れる原付一種の区分としているのも、それが狙いでしょう。
ハンドリングは軽快で、結構小回りが効く印象。それでいて、車体は非常にしっかりしているのでコーナリング中の姿勢は安定していて、バイクらしい車体を傾けて走るハンドリングを味わうことができます。これまでバイクに乗ったことがない人が乗っても、バイクの楽しさを味わえるモデルと言えそうです。走行音がとても静かなので、周囲の音が聞こえるのは電動バイクらしいところです。
「EM1 e:」のようなバッテリー交換式の電動バイクに期待したいのは、充電済みのバッテリーと交換できるバッテリーステーションの普及です。こうしたステーションが整備されれば、わずかな時間でバッテリーを交換できるので、航続距離が限られていても使い勝手を向上させることができます。
ホンダは、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内2輪メーカーにENEOSを加えた5社による合弁で「Gachaco(ガチャコ)」という会社を設立し、バッテリーのシェアリング事業に取り組んでいます。シェアリングサービスで提供されるバッテリーは「EM1 e:」でも使うことが可能。ステーションが普及してくれば、電動バイクの利便性は一気に高まりそうです。
ちなみに、「EM1 e:」はバッテリーを含まない車両本体のみであれば、15万6200円で購入することが可能。別途「Gachaco」のサービスと契約する必要はありますが、ガソリン車と比べても格安で運用することができるようになるかもしれません。
東京都では、2035年に都内で販売される新車バイクを“非ガソリン化”することを目指していますが、バッテリーステーションの数が増えてからが本当の普及期の始まりとなりそうです。
>> ホンダ「EM1 e:」
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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