【オトナの社会科見学】往年の名車が物語る、スバルのユニークなモノ作り精神とは?
&GP / 2016年10月10日 18時30分
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【オトナの社会科見学】往年の名車が物語る、スバルのユニークなモノ作り精神とは?
「自動車の進化とは、なんなのか?」。
いささか大袈裟ではありますが、1967年式のスバル「1000」のステアリングホイールを握って走りながら、そんなことを思いました。
スバル1000とはいうまでもなく、“テントウムシ”ことスバル「360」に代わる、1960年代のスバルの主力車種。
リアに356ccの2気筒エンジンを積んだ、リアエンジン/後輪駆動のRRレイアウトを採用するスバル360から一転、フロントに977ccの水平対向4気筒エンジンを搭載して前輪を駆動する、FFレイアウトを採りました。
■エンジニアが心血を注いで開発したスバル「1000」
試乗したスバル1000の、よく整備された“フラット4”は、シュルシュルと軽やかに回り、そのスムーズさは小排気量のV6を想起させました(自分比)。
最高出力55馬力、最大トルク7.8kg-mと非力ながら、端正な4ドアボディを軽々と走らせます。何しろ、車重は680kgしかありません。“自らを動かす”自動車にとって、「“軽さ”はすべてに優先する大正義」ということを、再確認させてくれました。
もちろん、現代のクルマのように(過剰な)豪華装備を求められたわけでもなく、衝突安全性能や環境性能も、要求度合いが最新のクルマと比べて(相対的に)はるかに低い時代のモデルですから、手放しで「旧車スゲェェェ!」とはいえないのですが、こと「ドライブの楽しさ」に関しては、半世紀前のクルマでも、現行車にいささかも劣るところはありません。
スバル1000は、現在まで連綿と続くスバル車の基礎を築いた故・百瀬晋六氏が、心血を注いで完成させたクルマです。まず、FF車に不可欠な“等速ジョイント”を実用化させたのが、大きなトピック。後には常識になる、大衆車FF化の先鞭を付けました。
サスペンションは4輪独立式。フロントブレーキは、タイヤ側ではなく、エンジン側に備える“インボードタイプ”(!)でした。重いモノを、大きく動く車軸の先ではなく、根本に付けた方が「路面の凹凸に素早く反応できる」と考えたわけです。
理想主義的な設計を採るスバル1000ですが、そのキモは、フロントに縦置きに配置された水平対向エンジン。スバルの技術者の人たちは、以下のように考えました。
室内空間をできるだけ広く取るために、前輪駆動化は必須。しかし、直列4気筒を縦置きに配置すると、エンジンルームが前後に長くなり過ぎる(トヨタの初代「コルサ」はコレでした)。横置きにすると、ドライブシャフトの長さが左右で異なるので、ステアリングフィールに悪影響を与えたり、振動が出たりしやすい(現在の一般的なFF車では、こうした悪癖はほぼ改善されました)。
そこで、左右対称で、縦置きに配置しても前後長を抑えられる水平対向エンジンに、白羽の矢が。百瀬技師のこだわりである「デフは車体中央に」「自然なドライビングポジションが取れること」「エンジンの高さを抑えること」といった点も、“ボクサーエンジン”の採用によって解決されたのです。
1966年に登場したスバル1000は、何もデビュー時だけが画期的だったわけではなく、まさに、その後のスバル車を決定づけるオリジンとなったのでした。
■スバルの水平対向エンジンは誕生から半世紀!
さて、スバル1000で採用されたフラット4は、“EA型”と呼ばれる第1世代。
当時としては破格の、オールアルミ製ユニットです! 続く主力モデル「レオーネ」にも引き継がれ、ターボ化や、ヘッドメカニズムのOHVからOHC化、といった大きな変更を受けながら、約410万基が生産されました。
第2世代の“EJ型”エンジンは、1989年に登場した「レガシィ」に初搭載されました。
2世代目レガシィから採用された“2ステージターボ”(ふたつのタービンの大きさを“大”“小”に分け、レスポンスを良くした)に感銘を受けた人も、多いのではないでしょうか。
WRC(世界ラリー選手権)をはじめ、スバルのラリー活動が華やかだった時代に開発されたエンジンですから、タフでスポーティ。これまでに760万基が生産され、主役の座を“FA型”“FB型”に譲った後も、同社きっての武闘派モデル「WRX STI」には、いまだにEJ20ユニットが使われています。
現在では、2010年に登場した“FA型”と“FB型”がスバルの4気筒ラインナップを担います。
後者は“直噴+ターボ”仕様で、パフォーマンスと環境性能の両立を狙った、まさにイマドキのエンジンです。
一方のFAユニットは「BRZ」用に開発された自然吸気式のエンジン。共同開発したトヨタのエンジニアたちに、「水平対向エンジンの利点を知らしめるため、徹底的に低重心化した」といいます。
ベースとなったFBユニットと比較して、高さでマイナス65mm、搭載位置でマイナス60mmを果たしました。トヨタ「86」や、BRZのオーナーの方々は、ボンネットを開けてエンジンをチェックするたびに、あまりの搭載位置の低さゆえ、開発中に腰痛に悩まされたエンジニアの方々の苦労に想いを馳せてくださいな。
■歴史の“あだ花”と済ませるには惜しい「アルシオーネ」と「SVX」
スバルの水平対向エンジンには、6気筒もあります。幸運にも、ごく短時間ですが、今回、過去の“フラット6”搭載車に乗ることができました。
絵に描いたようなエッジシェイプが特徴の「アルシオーネ」は、1985年のデビュー。
当初4気筒で登場したものの、発売直後から膨れ始めたバブルに乗って、2.7リッター6気筒を追加することに。なお、このクルマの内外装については、いいたいことが多々ありますが、今回は割愛いたします。
最高出力150馬力、最大トルク21.5kg-mの“フラット6”は、ドローンとした回転フィールの、少々“時代がかったエンジン”といった感じ(試乗車は1989年式)。なんというか、クルマを構成する個々の要素が、今ひとつかみ合っていない印象を受けました。ブランドイメージのステップアップを図る当時のスバルの悪戦苦闘がそのままカタチになったかのような、そんなところも含めて、どうにも憎めないスタイリッシュクーペです。
もう1台の6気筒モデルは「アルシオーネSVX」。試乗車はデビューイヤーの1991年式で、レザーとアルカンタラ内装の凝った仕様。これまた内外装の詳細については涙をのんで割愛し、3.3リッター6気筒エンジンの感想を。
240馬力、31.5kg-mのアウトプットは、決して目をむくスペックではありませんが、穏やかでスムーズ。ひと言でいって“大人のエンジン”ですね。ブランドのイメージを牽引するスペシャルモデルとして見ると、当たり前ですが、初代アルシオーネよりひと皮もふた皮も剥けた完成度。アルシオーネの系譜がココで途絶えてしまったのがまことに残念です。
かつて、このクルマの試乗記で「結局、400万円のスバル車を買う人はそうそういない」というフレーズを読んだ記憶があり、当時は「まあ、そうだよなぁ」と納得しました。でも、今だったらどうでしょう? スバル車ヒストリーの“あだ花”と済ませてしまうには、あまりに惜しいクルマです。
■その他の貴重なスバル車もすべて味わい深い
ほかにも、今回は珍しいスバル車に乗せていただけたので、ひと言ずつレポートを。
スバル360は、356ccの空冷直列2気筒(2サイクル)をリアに積んだ“国民車”。驚いたのは、リアシートが実用的な広さを確保してあること。座面高こそ低めですが、身長165cm、足短め、なワタシの場合、特に背中をかがめることなく、普通に座れました。シャーシの上には、卵の殻のような外皮だけ、という成り立ちゆえの居住性なのですね。
これまたよく整備された2気筒直列エンジンは、プルプルと回り、415kg(!)のボディを元気よく走らせます。もし交通量が少なめの地域に住んでいるならば「愛玩用(!?)に1台欲しい!」と感じたほど。
なんとなく、ワゴン(エステートバン)のイメージが強いレオーネですが、実は1971年の初代デビュー時は、2ドアモデルだけのラインナップなのでした。
今回用意された「レオーネクーペ RX」は、弾丸ミラー、黒の鉄チンホイールと、なかなか男らしい見かけ。キルティング風の黒のビニールレザーも、当時のスポーティカーの定番です。
4気筒の水平対向エンジンは、1.4リッターに拡大され、93馬力の最高出力と11.0kg-mの最大トルクを発生しますが、排ガス、燃費、衝突安全、そして、装備の充実といった重荷を背負い、60年代のスバル1000の頃のような軽快さは影をひそめています。ハンドルもめちゃくちゃ重く、久しぶりに“手アンダー”なんて言葉を思い出しました。動態保存されたレオーネクーペは、自動車苦難の時代の生き証人ですね。
間もなく、新世代のプラットフォームを採用した新型「インプレッサ」が発売され、2017年には、1917年の中島飛行機(スバルの前身)設立以来、100周年という節目を迎えるスバル。それを機に社名も、富士重工業株式会社から、株式会社SUBARU(英字!)へと変わります。
真面目一辺倒で、その実力にブランドイメージが付いてこないきらいがありましたが、過去の製品は、何よりも饒舌にスバルのユニークさを物語ります。スバリストだけに独占させておくのは、もったいない! そんなことを考えながら旧車ドライブを満喫した1日でした。
(文&写真/ダン・アオキ)
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