86“KOUKI”進化の真価 トヨタ自動車 多田哲哉(3)空力が激変!“魔法”のアルミテープの謎を告白
&GP / 2016年10月14日 19時0分
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86“KOUKI”進化の真価 トヨタ自動車 多田哲哉(3)空力が激変!“魔法”のアルミテープの謎を告白
先のマイナーチェンジで、モータースポーツとの親和性を高めたトヨタ「86(ハチロク)」。そのために、大幅に進化させたひとつが空力特性です。
そんな86“KOUKI”(マイナーチェンジ後の後期型)の空力特性を向上させる部品として見逃せないのが、各部に貼られた“アルミテープ”。
このアルミテープは、プラスイオンを放電してボディ表面から空気が剥離することを防ぎ、結果として、空気の流れを整えているのだとか。
そんな新機軸の詳細を、86のチーフエンジニアであるトヨタ自動車の多田哲哉さんにうかがいました。
ニュル24時間耐久レースなどで試してデータを蓄積
--86“KOUKI”の空力性能をアップさせる装備について、カタログやリリースには記載がないので、改めてここで教えていただけますでしょうか。
多田:お聞きになりたいのは、アルミテープ、のことですね? その秘密をカタログやリリースに書いても、意味不明で皆さん、混乱するだけだと思い、あえて書いていないんです(苦笑)。
--それは、トヨタ独自の技術なのでしょうか? 特許などは取得されているのでしょうか?
多田:もちろん、トヨタが特許を取得している技術です。ただし、最近出てきたものではなく、昔からずっと研究を続けてきたものです。
前期型では空力性能を向上させるために、テールランプの脇やドアミラーの付け根に“エアロスタビライジングフィン”を設けました。あれは、カジキマグロの泳ぐ姿からヒントを得たものなんです。
そして、前期型を開発する時点で、すでにアルミテープのアイデアもテストしていました。なので、前期型にも採用するかどうか、ずいぶん悩んだ挙げ句、結局、採用を見送った経緯があります。
当時から、アルミテープの効果は十分把握していたのですが、特許を取るとなると当然、理論的な検証も必要になります。また、製品化に当たっては、不具合がないかどうかの検証も必要です。そのため、ニュルブルクリンク24時間耐久レースなどで何度か試してみて、データを蓄積してきたのです。
--アルミテープの効果に気づかれたきっかけは、なんだったのでしょうか?
多田:数年前、この技術を担当しているスタッフが私のところへ持ってきて、「アルミテープを貼ってみてください!」と大真面目にいったのです。でも最初は「そんな暇はないぞ!」といって突っ返した覚えがあります。でも、彼が粘り強く勧めてくるので、半信半疑で試してみたら「あれ? これ本当にアルミテープを貼っただけなの?」とビックリ。
「では、剥がしてみますか?」といわれて外してみたら、またまたビックリ…。最初は自分でも信じられませんでした。「体調が悪いのかな?」とさえ思いましたよ。でもそこから、いろいろなテストを繰り返し、理屈をきちんと聞くことで、その効果を実感することができたのです。
--具体的に、アルミテープは86“KOUKI”のどこに貼られているのでしょうか?
多田:ハンドルコラムの奥と、フロントガラスとウインドウガラスの横、ボディの一番下といった部分に貼っています。結果的に製品化につながったのはアルミテープみたいな形状ですが、いろんな応用が効くので、実はバリエーションがいっぱいあるんですよ。
そもそも86“KOUKI”は、ボディの空気の流れをものすごく考慮して設計しているので、例えば、とある場所に貼ると逆に効果が出すぎて、すごくナーバスな走行特性になるんですよ。ステアリングを切った瞬間のクルマの動きが過敏になり、回頭性が良くなりすぎてしまう。なので、どこに貼れば効果が得られるのか、実証を繰り返しましたね。
--それだけ、走行中のクルマというのは、空気という流体に引っ張られている、ということでしょうか?
多田:そのとおりですね。しかも、ものすごく。
例えば、自転車やバイクで30km/hくらいで走る時って、ものすごい風圧をカラダに受けるじゃないですか。クルマはそれ以上、50km/hや100km/hといったスピードでいつも走っているのですから、車体にかかる風圧はすさまじいものがあります。なので、アルミテープを使い、ほんのちょっとだけ空気の剥がれ方を変えてやるだけで、走行中の安定性や回頭性が変わるんです。
ボディ形状によっては、それがものすごくプラスになるクルマもあるし、すごくナーバスな走行特性になる場合もある。どういうクルマのどんな箇所にアルミテープを貼るといいのか、というのは、膨大なノウハウに裏打ちされた結果なんですね。
--86“KOUKI”に貼られているアルミテープは、特殊なものなのでしょうか。また、給電は必要なのでしょうか?
多田:給電は不要です。基本的には放電するだけですからね。なので、アルミテープそのものにノウハウがあるわけではありません。生産性やコスト、効果などいろんなことを考えて、たまたま今回はアルミテープを使っているだけ。皆さん「アルミテープに何か魔法があるんじゃないか?」といわれます。純正パーツのアルミテープには、実はいろいろとノウハウを盛り込んであるんですよ。
--前期型にアルミテープを貼るドライバーが増えそうですね。
多田:絶対にいらっしゃると思いますよ。でも、クルマは“全体最適”が必要であって、効果的な場所を見つけるためにはノウハウが必要です。“アタリ”の部分に貼れれば効果的ですが、“ハズレ”の部分に貼ってしまうと、かえって性能が落ちてしまうので注意していただきたいですね。貼ればいいってものではありませんから。
本当は、どちらかというと、もともと空力性能の低いクルマに貼った方が、効果を得やすいんです。例えばミニバンなどは、広い室内を確保するためにスポーツカーみたいなカタチにはできないので、空気抵抗が大きいですし、車体の回りを流れる空気も乱れがち。それを、アルミテープのような技術でコントロールしてあげると、大きな効果を得られずはずです。逆に86は、恩恵が少なめなんですよ。(Part.4に続く)
(文/ブンタ、写真/グラブ、増谷茂樹)
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