【日産 ノート e-POWER試乗】違和感なしに乗れる“マイ・ファースト・EV”への最適解
&GP / 2016年11月18日 20時0分
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【日産 ノート e-POWER試乗】違和感なしに乗れる“マイ・ファースト・EV”への最適解
新しい日産「ノート e-POWER」は、同社最新の電気自動車(EV)です。といっても、外部からの給電でバッテリーを充電する仕組みは持ちません。
フロントに搭載されたガソリンエンジンで発電機を動かす…。つまり、自ら電気を作ってバッテリーを充電、その電気でモーターを回して走るのです。
■e-POWERはシリーズハイブリッド、ではない!?
e-POWERのパワーユニットは、1.2リッターの直列3気筒エンジン(79馬力/10.5kg-m)と発電機、駆動モーター(109馬力/25.9kg-m)とインバーターを組み合わせたもの。ガソリンエンジンはもっぱら発電に従事し、クルマの駆動は、電気モーターが全面的に請け負います。
ガソリンエンジンは、回転を上下させるより、一定回転で回り続ける方が効率がいい。そこで、必要に応じ、できるだけ無駄のない回転数で発電機を稼働させ、前席下に置かれた小型のリチウムイオンバッテリーを充電します。
このバッテリーは、いわばバッファー的な役割も負っています。e-POWERの駆動モーターは、バッテリーに蓄電された電気で動きますから、多少、クルマの速度が変わっても、その都度、ガソリンエンジンが回転数を変える必要はない。つまり、高効率を維持できるわけです。
…と、ここまで読んで「なーんだ“シリーズ式ハイブリッド”じゃないか」と看破した、クルマ好きの方もいらっしゃるでしょう。e-POWERは「つまり、ノート ハイブリッドでしょ?」と。
「違います」と、日産の開発陣は応えます。「e-POWERは、新しい電動パワートレインなのです」と。
説明しましょう。ハイブリッド競争に乗り遅れた…(失礼!)日産は、より先を見据え、電気自動車に注力しています。期待のピュアEV「リーフ」が市販されたのは、2012年のこと。
静かで、スムーズで、意外に力強く、何よりクリーン…と、EVはいいことづくめなのですが、航続距離が限られる。より突き詰めると、充電に時間がかかる、という欠点があります。もちろん、日産の技術者の皆さんも、そんなことは重々承知。リーフの開発と並行して、解決策を模索してきました。
<解決策01>
基本的にEVとして使用する。ただし、緊急用の小型発電機を積んで、バッテリー残量がいよいよピンチになったら、これを稼働させる → いわゆる“レンジエクステンダー”方式ですね。日産は、2011年にはすでに、この方式の実用化のめどを立てていたといいます(市販化はされていません)。
<解決策02>
せっかく発電機を積んでいるのだから、重く高価なバッテリーを小さくて、必要に応じて小まめに発電機で充電する → この考えを具体したのが、今回のe-POWERです。
個人的には、<解決策03>として、有無をいわさぬ大容量バッテリーを積み込んで、1日の行動範囲をカバーする(テスラの高級EV路線が、コレに当たりますす)…もアリだと思うのですが、これは「EVを大衆の手が届く価格に抑えたい」という日産の基本ポリシーに反するようです。
ご参考までに、ハイブリッドカーからのアプローチを記します。モーターがエンジンを補助する“パラレル方式”(基本的には、エンジンがクルマを駆動します)、エンジンとモーターが協力し、時には個別でクルマを動かす“シリーズ・パラレル方式”、どちらにも、ハイブリッド用のバッテリーが積まれます。
せっかくシステムにバッテリーが含まれるのだから、バッテリーをもう少し大きくし、外から充電できるようにしたら「EVとしても使えるんじゃね?」。 → その考えを発展させたのが、最近流行りの(!?)“PHEV(プラグインハイブリッド)”です。上記の<解決策01>と、アプローチは異なれど、システムとしての考え方は重なりますね。
PHEVの方針を押し進めると、上記の<解決策02>、つまり、エンジンが発電機を回し、その電気を使ってモーターがクルマを走らせるシリーズ式ハイブリッドにたどり着きそうです。が、今のところ、そうはなっていません。エンジンによる発電効率の問題、車重が増加しがちなこと、一般的に電気モーターは高速走行が苦手、などの課題がまだまだあるようです。
では、アプローチは異なれど、システムとしては同じ仕組みを採るノート e-POWERの場合はどうでしょう!?
…スイマセン、ちょっと話題がズレましたが、e-POWERは、EVのネガを補完する仕組みを検討した過程で誕生したシステムであって、ガソリン車のノートをハイブリッドモデルにしたのではない、というのが、日産の主張です。姿カタチは似ていても、実は別物。一種の収斂進化の結果、といいたいのです。
日産としては、今ひとつ火が付かないEVの普及に、ノート e-POWERが弾みをつけてくれるのでは? と期待しています。あまりEVに目を向けてくれない、特に地方ユーザーの方々に「まずはEVを体験していただきたい」と日産のエンジニアは語ります。ピュアEVへの架け橋、愛車電動化への最初の一歩として、ノート e-POWERを機能させたい…。そう考えているのです。
■特別感が薄い運転感覚こそe-POWERの美点
さて、e-POWER搭載モデルが、新たにノートのラインナップに加わることで、同モデルは「e-POWER」と「“ピュア”ガソリン車」とに大別されるようになりました。
両車の差異化のため、e-POWERバージョンには、専用のボディカラーとして“プレミアムコロナオレンジ”が用意されます。そのほか、グリルにはブルーの縁取りがされ、e-POWERエンブレムが、左右フロントドアと、バッチゲートに付きます。
内装では、シフターがリーフ同様の丸い“電制シフト”になり、専用メーターには、速度計の脇に“エンジン←→バッテリー←→タイヤ”間のエネルギーの流れを示すインジケーターが付きます。いずれも新しい機能に沿った変更ですね。
ノート e-POWERのグレード構成は、本革巻きステアリングホイール、合皮のシートなどをおごった豪華版「メダリスト」(224万4240円)、ベーシックな「X」(195万9120円)、装備を簡素化してさらなる燃費向上を図った「S」(177万2280円)の3種類です。
駆動方式はすべてFF(前輪駆動)で、4WDはラインナップされません。ちなみに、事実上のライバルに当たるトヨタ「アクア」は、176万1382円〜210万0109円ですから、価格面ではなかなかいい勝負です。
今回の試乗車は「X」。ウレタン製のステアリングホイールを握って走り始めると、日産のエンジニアの方々には申し訳ないのですが、あたかもハイブリッドカーの「EVモード」でドライブしているかのよう。いや、ハイブリッドカーのEVモードを常態化したのが、ノート e-POWERの走り、ともいえますが…。
“電動ノート”に搭載されるモーターは、回り始めから、いきなり最大トルクの25.9kg-mを発生します。出足の良さは2リッターターボを上回り、走行中の加速の鋭さも印象的。ただ、全体に“ピュア”EVを運転する時の「特別な感じ」は薄い。
その原因は「車重にある」と思います。ノートe-POWERは、当初の思惑どおり、普通のEVよりずっと軽いのです。例えば、リーフ(30kWh)は車重1450〜1480kg。ノート e-POWERの車重は1170〜1220kgです。
リーフの場合、バッテリーという重量物を床下に敷き詰めた1.5トン弱の物体を、強力なトルクを発生するモーターで動かすのです。スムーズで俊敏だけど、どこか重厚。そこに、良くも悪くも「スペシャルな感じ」が生じるわけです。
一方、はるかに小さなバッテリーしか積まないノート e-POWERは、同車のガソリンモデルと比較しても、体格のいい大人2名を余分に載せた程度の重量増(140〜180kg)に収まっています。そのためドライブフィールは、(その出生の過程はともかく)ハイブリッドカーのEVモードに類似したものになります。
もっとも、ノート e-POWERの場合、運転感覚にスペシャル感がないのは「ガソリン車から乗り換えても違和感がない」として、むしろ歓迎されるべきことです。何しろ“マイ・ファースト・EV”として、これまでEVと縁がなかったユーザーに、お求めいただきたいクルマなのですから。
「違和感がない」といえば、前席下のバッテリー残量が減り、1.2リッターエンジンが発電機を回して充電を始めても、ドライブフィールが自然なのには感心しました。
試乗前には、エンジンは直接駆動に関係しないので、ドライバーの運転操作、クルマの加減速には「我、関せず」で、ひたすら効率のいい回転数のまま回り続けるのかと内心、期待(!?)していました。ところが、発電機を稼働中の1.2リッター直列3気筒は、ドライバーのアクセル操作にキチンと反応し、エンジン音の高まりを変化させるではありませんか!
これが、運転操作に関係なく、終始、一定の音量でエンジンがうなったままだったら、いかな防音・吸音素材を使って騒音を抑えたとしても、耳について仕方なかったでしょう。“効率”と“自然な運転感覚”のバランスをどう取るか? パーツは異なれど、CVTが登場した頃にも同じような議論が交わされました。ノート e-POWERは、なかなか上手な着地点を見つけたようです。
■実はe-POWERの原理は大昔から存在した
さて「ノート e-POWER、出生のヒミツ」の項で出てきた、シリーズ式ハイブリッドの課題点…、否! e-POWERシステムの特徴を確認してみましょう。
ガソリン版ノートと比較しての、車重の増加は前出のとおりです。ライバルのアクアを見てみると、ノートより小柄なボディ(全長でマイナス105mm、全高でマイナス65mm)ゆえ、車重は120〜140kgほど軽く(1050〜1090kg)、燃費(JC08モード)は、37.0km/L(豪華版のX アーバンは33.8km/L)。
ノート e-POWERの燃費は、メダリストとXが34.0km/L。“燃費スペシャル仕様”たるSは、アクアを上回る37.2km/Lを実現しています! カタログ上の数値とはいえ、頑張りましたね!!(ちなみに、ガソリン車のノート[FF]は、23.4〜26.2km/Lです)。
近年、「次世代のクルマの主流になるのでは?」との説が、にわかに現実味を帯びてきたEVですが、その歴史は、内燃機関と変わらぬ長さを持ちます(19世紀末から20世紀初頭にかけ、クルマの動力源として、ガソリン、電気、ガス、そして蒸気が覇を争っていました)。
電気自動車に発電機を積むという構想も、実現は早く、かのフェルディナント・ポルシェ博士は、1900年にローナー社から送り出したEV(インホイールモーター式!)を、後にシリーズハイブリッド化しています。また、1920年代には、アメリカで、オーエンマグネティック社が「スピードを結集した自動車」との宣伝文句で、シリーズハイブリッド車を売り出しています。
つまり、日産のe-POWERは“古い革袋に新しいワインを注いだ”システムといえます。エンジン、バッテリー技術の進歩に加え、1万分の1秒単位でモーターを制御できる高精度の制御技術が、新しい香りを放っているのです。システム単体の比較とはいきませんが、クルマ全体として、ノート e-POWERがトヨタの複雑なハイブリッドシステムを採用するアクアに比肩する結果を出したのは、注目に値します。
学術的にも大変興味深いノート e-POWERですが、惜しいことに、当面は国内専用モデルとなります。ハイブリッドシステムの、そして電気モーター駆動車の宿命である高速性能の限界と、1.2リッターエンジンによる充電力に課題が残るようです。
もちろん、100km/h巡航程度ではなんの問題もありません。それでも加減速を繰り返してガンガン走ると、電気を使うそばから充電しないと間に合わない“自転車操業”に陥るらしく、エンジンが忙しく回るようになります。
これは、ノート e-POWERに限った話ではありませんが、ご自宅からすぐに高速道路に乗って勤務地に向かう、といった使用パターンがメインの人は、燃費の面であまりメリットを享受できないかもしれません。
ただ、ドライブフィールを通じて「最新テクノロジー搭載のクルマに乗っている」喜びは味わえます。例えば、アクセル←→ブレーキといったペダルの踏み替え回数を減らし、疲労の蓄積を抑えられます。
ノート e-POWERの走行モードを「Sモード」または「ECOモード」にすると、減速エネルギーを電気に変換してバッテリーに戻す“回生機能”が強まります。アクセルペダルを戻すと、あたかも強めのエンジンブレーキがかかったようになるので、多少の減速ならブレーキを踏まないで済むのです。
アクセルペダルを踏む量が、加速のみならず、減速にも強く反映されるので、これまでのクルマの運転感覚とは、ちょっと異なるペダル操作が求められます。もし、ノート e-POWERを購入されたなら、時には「ノーマルモード」から走行モードを切り変えて、この先やってくる(であろう)EV時代に備え、今から慣れておきましょう!?
古典的なアイデアに新しい技術を載せて、世に送り出されたノート e-POWER。せっかくの新しい試みなのだから、「内外とも専用モデルにしたらよかったのに」と思わないでもありませんが、既存のコンポーネンツを活用してコストを抑え、日産の売れ筋グルマに搭載してきたところに、e-POWER普及に向けての意欲が感じられます。
大衆に揉まれることで、次なるブレイクスルーのヒントが見つかるかも。近い将来「そういえば、最初に買った電気自動車は、ノート e-POWERだったなぁ」と思い出す日が来るかもしれませんね。
<SPECIFICATIONS>
☆ノート e-POWER X
ボディサイズ:L4100×W1695×H1520mm
車重:1210kg
駆動方式:FF
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:79馬力/5400回転
エンジン最大トルク:10.5kg-m/3600〜5200回転
モーター最高出力:109馬力/3008〜10000回転
モーター最大トルク:25.9kg-m/0〜3008回転
価格:195万9120円
(文&写真/ダン・アオキ)
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