映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【4】ポンポン 小さき者達
&GP / 2016年11月21日 18時30分
映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【4】ポンポン 小さき者達
■まさかのぬいぐるみ
ぬいぐるみという物も随分古くから存在しているようで、どうやら起源は1880年でドイツだそうです。テディベアで有名なシュタイフが最初のようで、今回登場するポンポンと呼ばれる小さなぬいぐるみも、小さいクマのぬいぐるみを除いて全てシュタイフの製品です。
僕は、昔からぬいぐるみの趣味などはありませんでした。
男の子趣味バリバリで、カメラや時計などのメカニカルなものが好き。でも、古いものとか時計などの中でも、かわいらしいものもあり、たぶん他の男性に比べれば、そのテの中でも、かわいいものは好きだったけど、自分がまさか、ぬいぐるみを買うなどとは考えらえませんでした。
■きっかけ
そんな僕が、なぜ、このような小さい者たちに惹かれていったのでしょう?
事の始まりは、数年前まで付き合っていた彼女がきっかけでした。
彼女は、ぬいぐるみが好きだったので、何かプレゼントをしてあげようと、ネットやらヤフオクやらを覗いていたのです。
彼女へのプレゼントは、無事ヤフオクで入手して一件落着したのですが、ヤフオクを覗いているうちに、古いフランスの猿のぬいぐるみ(これは小さいものではない)を見つけてしまい、その魅力的な佇まいにすっかりやられてしまって自分が欲しくなってしまったのです。
40代後半になって、初めて自分のためにぬいぐるみを買ってしまいました。
その、全長23cmほどの100年ほど前の猿のぬいぐるみは、以来、うちの守り神として鬼門の方向に鎮座しています。僕が所有している大きなぬいぐるみはこれひとつだけで、おそらく最初で最後となるでしょう。他に欲しいとは思いませんでした。
しかし…ここからが問題だったのです。
■小さき者たち
僕は昔から、小さい物や小型の物に弱い(欲しがる)という習性があるようです。くわえて自転車旅がテーマの人でもあります。
大きいぬいぐるみは欲しいとは思いませんでしたが、今度は小さいマスコットのようなものが欲しくなってきたのです。たとえ大きいもので魅力的なものがあったとしても、そういうものをゴロゴロと部屋にたくさん置いておきたくない(恥ずかしい)という男心もありました。しかし小さいものなら隠し持っておける(笑)、場所も取らない、という卑屈な考えもありました。そして、自転車旅の道具は基本的に機能最優先ですが、それだけではなく、やはりホンワカした物を混ぜるのも、立派な機能のひとつだ、と思っていたのもあります。そういう考えで入手してしまったのが、写真の小さい旅クマでした。
実際、何の役にたたなくても、この旅クマは自転車旅に何度も連れて行き、テントの中でのんびりする時や、写真を撮る時など、アクセント兼モデルとして活躍してくれました。
■シュタイフのポンポンに行き着く
その楽しさにハマってエスカレートしていき、自転車旅などの理由がなくても好きになって欲しくなってしまい、だんだん小さい者たちが我が家の扉から入って来るようになってしまったのです。
そしてある日、シュタイフのポンポンシリーズを知ってしまいました。
このミニチュアシリーズも古くから作られているようで、'50年代ぐらいから'70年代後半ぐらいまで作られていたようです。残念ながら現在では作られていません。
一番小さいてんとう虫が全長2.5cmぐらい、大きいものでも6cmぐらいしかありません。種類も、リス、うさぎ、ネズミ、小鳥、カエル、ふくろう、猫、ペンギン、アヒルなど多種多様で、そのあまりのかわいらしさと造りの良さに、すっかり魅入られてしまい、一時的にヤフオクやネットなどで、十数匹ほど集めてしまいました。
男趣味バリバリだったはずの僕ですが、どうやら乙女の血も流れているようです。知人の女性友達に「オレは、ポンポンの男になる!!」とハマり具合を熱く告白して、あきれられたほどです。
■ポンポンというバランス装置
日本は特にそうですが、昔から人間は自然をマネします。
ぬいぐるみというのも、そういう天然の動物に対する畏敬の本能から生まれたものではないでしょうか? 特に東京のような都会にいてパソコンなどの生活が当たり前になると、その本能の欲求は一層、強まるように思います。
かくいう僕も、このポンポンたちを小さいお気に入りの缶に入れて、鞄に忍ばせ仕事場に持って行きます。そして、映像編集などで仕事場に泊まり込みに行った時など、夜中に誰もいなくなった時、コッソリと缶から出します。
そして、ひとり夜中にニヤニヤするのです。
これぞ「暮らしのアナログ」・・と思うのは僕だけでしょうか・・・?
(文・写真/平野勝之)
ひらのかつゆき/映画監督、作家
1964年生まれ。16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。18歳から自主映画制作を始める。20歳の時に長編8ミリ映画『狂った触覚』で1985年度ぴあフィルムフェスティバル」初入選以降、3年連続入選。AV監督としても話題作を手掛ける。代表的な映画監督作品として『監督失格』(2011)『青春100キロ』(2016)など。
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