【オトナの社会科見学】不良品ゼロ!アイシン精機の工場で日本のモノ作りの真髄を見た
&GP / 2016年12月15日 20時0分
【オトナの社会科見学】不良品ゼロ!アイシン精機の工場で日本のモノ作りの真髄を見た
便利になったものです。ミニバンに乗せてもらおうとしたら、リアのスライドドアが「ウィーン」と自動で開くのですから。
え、もはや当たり前? 確かに、今では軽自動車ですら電動スライドドアの採用が珍しくありませんからね…。
とはいえ、よくよく考えるまでもなく、それってとても贅沢なことだと思うのです。そんな便利を当たり前にした立役者が、実はアイシン精機だったってこと、ご存知でしたか?
アイシン精機といえば、日本の自動車産業を牽引する部品メーカー。贅沢も便利も当たり前にしてしまう、ニッポンのモノ作りの真髄を目の当たりにすべく、今回、アイシン精機の中枢へと潜入してきました。
■軽自動車の電動スライドドアは100%アイシン精機が作っていた!
軽自動車に電動スライドドア、実に贅沢ですよね。僕らが子供の頃なんて、ウインドウガラスだって手でクルクル上げ下げしていたのに…。
実は、街中を走るミニバンの電動スライドドアのメカニズムの多くは、アイシン精機製。ビックリしないでくださいよ、軽自動車に至っては、100%アイシン精機製、なのです。これには正直、ビックリしました。
大量に作ることでコストダウンを図れる。結果、軽自動車にも電動スライドドアを付けられる、という好循環が実現しているわけです。パッと見では見えないところで頑張って、クルマを快適にしたり進化させたりしている会社があるからこそ、こうした贅沢も可能になるんですね。
そもそもアイシン精機は、航空産業から自動車産業への転換期に生まれた愛知工業と新川工業が、1965年に合併して誕生した会社。「愛」と「新」でアイシン。50年以上の歴史を有します。
ユニークなのは、他社をどんどん買収して会社を成長させていくことが、経営成長のいわば勝ちパターンのひとつであるのに対し、アイシン精機は逆に、どんどん分社化の歴史をたどってきたこと。
この事業は独り立ちできるな、となったら別会社にし、グループ全体として発展してきたのです。今や、主要13社を含め、196社がグループ傘下にあるのだとか。
その中には、アイシン・エィ・ダブリュというオートマチックトランスミッションのトップメーカーもあります。駆動系、外装部品、ブレーキ、カーナビなど、手掛けているものも多彩で、使っているパーツの1/3以上がアイシングループ製、といったクルマも存在するほどなのです。
ちなみにアイシン精機グループでは、作ったパーツを単体でテストするのに飽き足らず、クルマに組み付けた状態でテストするために、北海道、愛知、北米・ミシガンにテストコースまで保有しているというのですから、これも驚きです。
■実はクルマだけじゃない、アイシングループのお品書き
そんなアイシングループが、これまでどんなものを作ってきたのか? また、作っているのか? その一部を展示する施設「コムセンター」を覗いてみました。
エントランスには、スケルトンボディのクルマが展示されています。いや、スケルトンではなく、アイシングループで作っているパーツを集めたもの。ほとんど、クルマが仕上がってしまいそうな構成パーツの多さです。
1階には、ヒストリーゾーンが広がります。と、そこへ、可愛い家庭用ミシンが運ばれてきたのに、たまたま遭遇。ブランド名は“TOYOTA”。ミシン本体に彫金が施されているなど、とてもエレガントな品物。1940年代の骨董品で、動態保存するためにレストアしていたものが、ちょうど完成して届いたのだとか。
アイシン精機は、歴史を大切にする会社なのだと感心していると、現れたのは、トヨタの初代「カローラ」と「スポーツ800」。こちらも動態保存の逸品。技術の伝承と、人材育成のために、社内でフルレストアしたというのです。クルマのことを知らなければ、クルマのパーツは作れない。そういった意気込みを感じさせます。
そんな意気込みを、クルマに対する情熱だけにとどめておくのは難しい。なのでコムセンターには「こんなものも作ってるの(作ってたの)?」というお宝が、たくさんあります。
まずはシャワートイレ。「え?」と驚くでしょう。そうなのです。お宅にあるシャワートイレは、もしかしたらアイシングループが手掛けるOEM製品である可能性があります。
まだまだあります。洗濯機に冷蔵庫、カラーテレビ、卓上ビリヤード、キャンピングカーユニット、そして、かつお・まぐろ自動一本釣機に足裏マッサージ機…。枚挙にいとまがないとは、このことを指すのですね。
さて、クルマのパーツを改めて振り返ると、電動スライドドアユニットを発見! 電動モーターやアーム類で構成されるそれは、当然、車種ごとに設計、最適化されて製造されているもの。
せっかくなので、電動スライドドアユニットの製造ラインを見せてもらおうと思ったのですが、普段、目に触れるものではないだけに、構成パーツを見ているだけではすごさが伝わりにくい。
そんな我々の尻込みを察してか、今回はアイシン精機が世界に誇るパーツのひとつ、サンルーフの製造ラインを拝見させてもらうことになりました。
■不良品ゼロ!?「良品100%」がモノづくりニッポンの底ヂカラ
アイシン精機の衣浦工場では、サンルーフを月に7万セット製造しています。一般的な電動タイプに加え、サンシェードが開くタイプや開閉機構のないパノラミックルーフなども含まれます。世界シェアでいえば17%。国内では約60%を誇ります。
その歴史は、1979年に供給したトヨタ「セリカ」向けのものから始まった、というのですから、まさにサンルーフのパイオニアといえます。ちなみに初号機は、手回し式のインナースライドタイプで、パネルはガラスではなく、鉄板でした。
さて、単なるルーフとあなどってはいけません。サンルーフひとつを構成するパーツ数は、約200点。しかも、重いものでは約40kgにもなる大物パーツです。
厳戒態勢の工場内部に入ります。どれくらい厳戒かといいますと、カメラマンの持っている一眼レフカメラのシリアルナンバーを控えられるくらい(汗)。かつて、クルマ、タイヤ、ホイール、ビール、コーラ、さまざまな工場に潜入しましたが(フェチなので)、取材時にここまで厳しかったのは、初めてかも。一気にテンション上がりました。
工場に入ると、ガラスパネルとそれを支えて収めるフレームが、ラインに並んでいます。第一のポイントは、ガラスと金属フレームの接着です。実はこれ、なかなかひと筋縄にはいかないのです。
というのも、異素材をくっつけるのは難しい上に、それがガラスと金属となると、難易度はさらに上昇。しかも、走行中にガラスが外れて飛んでしまった…なんてことは許されないわけですから。なので、ラインに並ぶガラスとフレームは、まるで高価な工芸品かのように扱われています。
思ったよりシンプルに見えたのは、ガラスを収めるフレームです。実はこのシンプルさこそ、アイシン精機のノウハウが蓄積したものだと学びました。
このフレームの大切な役割のひとつが、レインチャンネル。日本語でいう“雨どい”ですね。開口部から浸入してくる雨を確実に受け止めて、排水する。途中で絶対に漏れてはいけない。そのミッションを達成するために、フレームはどんどんシンプルになっていったのだとか。先ほど、パーツ点数は約200といいましたが、これでもどんどん減らしてきた結果なのです。
さて、そのガラスとフレームが合体。ロボットの巨大なアームが寸分の狂いもなく、正確にサンルーフを完成させるのです。お見事ですね。
長年培われてきたノウハウがあるだけに、製造工程そのものは美しくスマート。見学とはいっても、アッという間なのです。
しかし、ここからクライマックスが待っているとは思っていませんでした。
組み付けられた完成品が厳重に囲われたエリアに搬送されていきます。そこでは、完成したばかりのユニットを実際に稼働させ、ルーフを開閉します。
何をやっているのか? というと、正確に動くか否かのチェックと同時に、異音などが発生していないかどうかを確認しているのです。そのために、センサーを使うのはもちろん、特別なトレーニングを受けた担当者が、目を光らせ、耳を澄ませているのでした。
あくまで印象の話ですが、全製造プロセスのうち、ここに一番時間を費やしているかのよう。製造ラインのボトルネックにならないか、見ているこっちがヒヤヒヤするくらい。さすがに、こんな丹念な作業を全製品にやっていたら、とても月に7万個は作れません。
「すべてチェックしています」
え? 独り言が聞こえたのか、製造ライン担当者の方から衝撃のひと言。
部品メーカーは、大量生産が生命線。軽自動車に電動スライドドアを付けられるようになったのも、大量生産によるコストダウンの恩恵です。なので勝手ながら、厳重な品質管理も、大量生産らしい一部の抜き取り検査だと早合点していました。1万ユニットのうち、2〜3の不良品は織り込み済み…だと。
実は工業製品って、そのような総意がなければやってられません。今、誰もが持っているスマホだってそうですよ。半導体にだって歩留まり、という言葉が使われているくらいです。
「それでは話になりません。仮に不良品が100万個に1個だとしても、それを受け取ったお客さまにとっては、たったひとつのもの。それがすべて、100%なのですから」
ということは、仮に100万ユニット製造するとして、いくつまではなら不良品は許してもらえるのでしょうか?
「(静かに)ゼロです」
へ? 不良品ゼロ!?
「良品100%です」
マジですか! ニワカには信じがたい驚異の“全数良品”。改めてニッポンのモノ作りの底ヂカラを見せつけられた思いです。
Webや誌面などを飾る、魅力いっぱいのブランニューな新型車も、それを縁の下で支える自動車部品メーカーの驚くべき品質管理があってのこと、なのですね。勉強になりました!
(文/ブンタ 写真/江藤義典)
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