【オトナの社会科見学】懐かしのパソコンも!富士通FCCL体験会
&GP / 2017年3月4日 19時0分
【オトナの社会科見学】懐かしのパソコンも!富士通FCCL体験会
富士通のパソコン事業が「富士通クライアントコンピューティング株式会社(FCCL)」として2016年2月に分社化されて1周年を記念し、「FCCLの匠」と呼ばれるプレス向け体験会が開催された。FMVシリーズの生産を担う島根工場(島根富士通 本社工場)の見学ツアーも含まれるということで、“富士通っ子”の筆者はウキウキと参加させてもらうことにした。
富士通のパソコン製品が誕生したのは1981年5月のこと。2016年はFCCLが誕生したことに加えて、第1号パソコン「FM-8」生誕35周年を迎えたアニバーサリーイヤーだった。筆者は父が富士通に勤めていた(パソコン事業に従事したことはなかったが)こともあり、生まれて初めて自宅に来たパソコン(当時は「マイコン」と呼ばれていた)が「FUJITSU MICRO 8(FM-8)」だった。購入したのは後に「FM-7」(廉価版という位置付けながら、“ゲーム機”としての性能はこちらの方が上だった)が発売(1982年11月発売)される直前に購入したから、小学校6年生のころだったと思う。
NECの「PC-8801FH」(1986年発売)に浮気した(当時の父はショックを受けたらしい)こともあったが、世界で初めてCD-ROMドライブを搭載した「FM TOWNS」(1989年発売)、DOS/VマシンとなったFMVシリーズなども購入し、どっぷりとFMシリーズに浸かってきた筆者だ。これは行かないわけにはいかない。ということで、最新のパソコン工場はどのようになっているのか、たっぷりと見学させてもらうことにしよう。
■混在する製品をライン生産方式で組み立て
島根富士通の大きな特徴は、一人ひとりの工員が最後まで作り上げる「セル生産方式」ではなく、製品が次々に運ばれてくるベルトコンベアーの上で作業を行う「ライン生産方式」を採用している点だ。ベルトコンベアーには同じ製品だけが流れてくるのではなく、全く異なる製品が次々に流れてくる「混流生産」を採用しているとのこと。ノートパソコンだとかタブレットだとか、毎回違う製品がジリジリと流れてくる中で、確実に作り上げていくのはまさにプロの技だと感じる。
▲「見える化」は島根富士通のものづくりの大きな特徴
混流生産に加えて、IoT技術を用いた作業工程の「見える化」なども特徴とのこと。さらに人だけ、もしくはロボットだけ、というのではなく、人とロボットが協調して生産に取り組める自動化、さらには顧客のニーズに応じてデザインや搭載アプリなどのカスタマイズも行える点も特徴となっている。
▲島根富士通ではライン生産方式を採用している
▲タブレットが流れてきたかと思ったら、次はノートパソコン。毎回違う製品が流れてきた方が、作業者としては飽きなくていいかもしれない
作業場の脇にはラインの稼働状況を表示するモニターが置いてあり、作業計画に対する実績、作業の遅れなどのトラブルによって呼び出された回数、ラインが止まった回数、ラインが止まった時間まで表示されている。
▲ラインの横にある、作業状況を示すモニター
数字を見ると「ああ、こんなに止まるんだ」とつい考えてしまうが、そうではないらしい。ラインが全く止まらないということは、「もっと効率化できる“伸びしろ”がある」、逆に止まりすぎると「作業員に無理をさせすぎている」ということを示している。つまり「ある程度、止まるぐらいがちょうどいい」ということなのだそうだ。これが「カイゼン」の基本なのだなと感じた。
■半田が「自販機」から出てくる!
続いてはメインボードの製造工程を見ていこう。
▲最初のプリント基板
▲クリーム状の半田を印刷し……
▲部品をその上に実装する
▲炉で溶かし固めてできあがる
まず登場するのが「メタルマスク」だ。クリーム状の半田を、シルクスクリーンの要領で基板に載せていく。
▲こちらが「メタルマスク」
▲こちらがクリーム状の半田
興味深いのが、必要に応じて必要な分だけ半田クリームを取り出せる「販蔵君」だ。確実な先入れ先出し、安定的な低温保存、容易な在庫管理を可能にするため、冷蔵庫タイプの自販機をカスタマイズしたとのこと。料金ディスプレイのところに「Free(無料)」と表示されているのが印象的だった。
▲冷蔵庫タイプの自販機を改造した「販蔵君」
▲料金表示は「Free(無料)」。まあ、そりゃそうだろう
▲こちらが半田印刷機
▲こちらは「汎用マウンター」と呼ばれる部品実装機。大型部品やコネクターなどがリールに巻かれており、次々と実装していく
▲こちらは「高速マウンター」と呼ばれる部品実装機。小型部品を1秒あたり26個もの高速で実装できる。下のリールが、汎用マウンターに比べてはるかに細い
▲実装した基板を温めて半田付けする「リフロー炉」。半田の融点が217~220℃のため、220~270℃で温めて半田を溶かす
▲こちらは半田付け状態を画像処理によって高速に検査する自動外観検査機
▲こちらはオプションボードの取り付け工程。キビキビと働くロボットアームのキレのある動きがたまらない
■人とロボットが協調して作業を進める
人とロボットがお互いに協力しながら作業を進める工程というのもなかなか興味深い。
▲人とロボットが協調して作業を進める、「ポートリプリケーター」(ノートパソコン用の機能拡張ユニット)の作業工程
▲作業者の後ろにロボットがある
▲こちらのロボットでは板金の組み付けや基板のはめ込み、カバーの取り付けなどを行っている
こちらでは力覚センサーを用いることで人間と同じような力加減が可能になり、挿入誤差を自動補正することで約45%もの作業効率向上を実現したとのことだ。
また、ロボットを導入する前にはロボットアーム同士が干渉しないようにロボット動作の自動プログラミングを実施。事前にシミュレーションによって確認することで、ロボットの作成期間を約20%短縮できたとのことだった。
■工程の可視化やピッキングの効率を向上
続いて、「IoTによる工程の可視化」について見ていこう。
▲IoTによる修理工程の可視化
検査工程で不良が見つかった部品は修理工程に回される。こちらでは「IoTゲートウェイ」と「ビーコン(無線標識)」を用いて、どの不具合品がどの修理工程にいるのか、止まっていないかをディスプレイで見て確認できるようになっている。こちらはインテルの協力によって実現したとのことだ。
▲修理工程の進捗状況が一目で分かるようになっている
必要に応じて必要なマニュアル、付属CD、DVDなどの添付品を同梱する「ピッキングシステム」を見ていこう。こちらではRFID(ID情報を埋め込んだ無線通信タグ)を使うことで、製品ごとに異なる添付品を間違えずに同梱できるように工夫している。
▲作業者が腕に取り付けたRFIDリーダーにRFIDタグをかざす
▲するとどこに何を入れるのかという指示が出るので、それに合わせてピッキングする
特にエラーが生じやすい工程については、ネットワークカメラによる画像データと動作試験のログの相関を分析することで、障害発生の原因を追求するといったことも行われている。
▲一部工程の上に設置されているネットワークカメラ
▲カメラの映像データと試験ログを照らし合わせることで、障害発生の原因を突き止められるとのことだ
工場見学の最後として、カスタマイズ工程を紹介しよう。同社では購入者が好みに合わせて機器の構成をカスタマイズできる「カスタマイズモデル」を用意しているほか、企業などの大量導入時にさまざまな設定やアプリの個別導入、周辺機器の設定・接続、添付品のカスタマイズなどを行っている。
そのほか、特に注目したいのが「デザイン」だろう。シルクスクリーンやインクジェット印刷、レーザー刻印など、必要に応じたカスタマイズデザインも可能になっている。
▲カスタマイズ印刷が可能なインクジェットプリンター
▲インクジェットプリンターで印刷されたノートパソコンのカバー
▲レーザー刻印が施されたカバーやキーボードなど
■富士通っ子感涙の歴代パソコンも展示!
工場見学以外にも、富士通が推し進めている教育、家電連携などさまざまなソリューションのデモも行われたのだが、そのなかでも特に筆者が感銘を受けたのが歴代パソコンの展示だ。
まずは1981年に発売した富士通初のパソコンで、世界で初めて64ビットRAMを搭載したという「FUJITSU MICRO 8(FM-8)」。筆者が兄2人と一緒になって、生まれて初めて買ったパソコンだ。希望小売価格は21万8000円で、グラフィック解像度は640×200ドット、カラーはなんと8色……。
▲富士通初のパソコン「FUJITSU MICRO 8(FM-8)」
漢字を表示するためには別売の「漢字・非漢字ROM」が必要だったり、フロッピーディスクドライブが別売だったりと、今のパソコンと比べると信じられないほどの低スペック(まあ当然の話だが)だが、当時としては画期的な性能を誇っていたとのことだ。カセットテープを利用したデータレコーダーで、数分から数十分かけてプログラムなどのデータの読み書きをするなど、牧歌的な時代だったことを今でも思い出す。
しばらくは先述のように他社のパソコンに目移りしたりしたものの、次に舞い戻ったのが1989年(平成元年)発売の「FM TOWNS」だった。
▲1989年に発売された「FM TOWNS」
こちらは世界で初めてCD-ROMドライブを搭載したという画期的なもので、オプションでハードディスクの内蔵も可能。日本ソフトバンク(当時)が販売していたFM TOWNS専門誌「Oh! FM TOWNS」(それ以前は「Oh! FM」だった)なども販売されていた。また、今や企業システムなどで当たり前のように使われている「Linux OS」をFM TOWNSに導入する「Linux/TOWNS」がコミュニティーで話題になるなど、かなりマニア色が強くなっていったのだが、1993年にいわゆる「IBM PC/AT互換機」、つまりWindows機に移行して独自路線が終了したのだった。
▲富士通初のWindowsマシンが登場したのは1993年だった
▲富士通パソコン約35年の歴史
そんな個人的なノスタルジーに浸りながらで恐縮だが、最新のパソコン工場見学ツアー体験記を締めさせていただきたい。
>> 富士通
(取材・文/安蔵靖志)
あんぞうやすし/IT・家電ジャーナリスト、家電製品総合アドバイザー
ビジネス・IT系出版社で編集記者を務めた後、フリーランスに。総合情報サイト「日経トレンディネット」、「NIKKEI STYLE」などで執筆中。近著は「予算10万円以内! 本気で原音を楽しむハイレゾオーディオ」(秀和システム)。KBCラジオを中心に全国6放送局でネットしているラジオ番組『キャイ~ンの家電ソムリエ』にも出演中。
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