【試乗】ペダル踏み間違い事故が86%減少!マツダの安全追求はまずドラポジから
&GP / 2017年5月7日 20時0分
【試乗】ペダル踏み間違い事故が86%減少!マツダの安全追求はまずドラポジから
自社が持つ自動車テクノロジー群を“SKYACTIV(スカイアクティブ)”と名付け、見事! 技術力の高さをアピールすることに成功したマツダですが、今度は“i-ACTIVSENSE(アイ・アクティブセンス)”と呼ぶ自社の先進安全技術のアピールを始めました。
これまでも、マツダはエンジン、トランスミッション、サスペンションなど、新しい技術がひとつの車種に搭載されるたび、ほどなくして同じ技術をモデル間で横展開し、ほぼすべての車種に採用してきました。先進安全技術についても同様に、最量販モデルたる「デミオ」を皮切りに、「アクセラ」、「アテンザ」、「CX-3」、そして「CX-5」まで、順次、標準装備していく予定です。
では、先進安全技術i-ACTIVSENSEとは、具体的にどのようなものか? 先頃、体験取材会が開催されましたので、その模様をレポートしたいと思います。
2017年度に標準装備化が図られるのは、事故の防止と被害軽減を狙った“衝突被害軽減ブレーキ”、AT車のペダル踏み間違いによる事故を抑制する“AT誤発進抑制制御”、走行中に死角から他車が接近すると警告する“BSM(ブラインド・スポット・モニタリング)”、そして、駐車場からバックで出ようとした際に、近づいてくる他車の存在を警告する“RCTA(リア・クロス・トラフィック・アラート)”の4種類です。
「なぁ〜んだ、他ブランドのモデルでもよく耳にする、例の機能か…」と拍子抜けした人や、「結局、パーツメーカーからの提案次第でしょ」と冷めた見方をする方がいるかもしれません(←いずれもワタシです)。でも、安全性向上にかかわるマツダのエンジニアの方たちと話をして、「ちょっと違うかも…」と認識を改めました。安全機能をまとめたユニットを“ポン付け”すれば、「一気に安全性が高まる!」わけではないのです。
先進安全技術が機能を十二分に発揮するためには、ベースとなるクルマの基本性能が充実していなければいけません。その基本性能とは、“良好な前方視界”、“適正なドライビングポジション”、“そのための自然なペダルレイアウト”、“意のままと感じる操縦安定性”などです。
こうした“運転環境”が土台にあり、その上にi-ACTIVSENSEが載り、最後に“パッシブセイフティ”が乗員の安全をできる限り守る…。それが、マツダが考える安全性能であり、またまた難しげな名前が出てきてナンですが“MAZDA PROACTIVE SAFETY”と呼ばれる安全哲学です。
では、安全運転の「基本の“キ”」たるドライビングポジションについて、クルマ側からは何ができるのか? 復習してみましょう。
ご存じのように、マツダは、右足を自然に伸ばした先にアクセルペダルがあるように、その位置に心を配っています。
ごく当たり前のことのようですが、右ハンドル車の場合、右側からタイヤハウスが張り出すので、どうしてもアクセルペダルが左側に押されがち。すると、アクセルとブレーキが必要以上に接近しがち。結果、ブレーキのつもりでアクセルペダルを踏んでしまう間違えが起こりがち…。
不適正なペダルレイアウトは、最近とみにニュースになる“高齢者ドライバーのペダルの踏み間違い事故”の、ひとつの原因といえるかもしれません。ただし! 確認事項があります。実は、ペダルの踏み間違い事故は、体の自由が制限される世代だけではなく、29歳以下のドライバーによるものも多い。いや、むしろ70歳以上の事故数を上まわっているのです! ペダル踏み間違い事故は、高齢者だけを対象に対策すれば済む問題ではないのですね。
ペダルに関して、自然なレイアウトに加え、マツダがこだわっていることがもうひとつあります。そう、床からペダルが生える“オルガン式のアクセルペダル”です。オルガン式ペダルは、足先の動きに自然に添いますので、“意のままと感じるハンドリング”を得る一助となります。
さらに! “アクセル←→ブレーキ”間のペダルの踏み替えが、吊り下げ式ペダルのそれよりも楽なのです。実は、吊り下げ式のアクセルペダルの場合、走っているうちに、つまりペダルを踏んでいるうちに、足先全体が前に進む傾向があります。結果的に、“アクセル←→ブレーキ”間の段差が大きくなる。一方、オルガン式では、基本的にカカトの位置が動かないので、素直にペダルの踏み替えができる…。意外な利点があるものです。
ブレーキのつもりでアクセルペダルを踏んでしまい、焦ってパニックになっている時。この踏み替え時のスムーズさの違いが、大きな差となって表れます。ちなみにマツダでは、アクセルペダルを吊り下げ式からオルガン式に変更したところ、(デミオ、アクセラ、アテンザによる)ペダル踏み間違い死傷事故の発生件数は、なんと86%も減少したといいます!
正しいドライビングポジションを取るために必要な、自然なペダルレイアウトやペダル形態は、クルマの開発初期からよく意識してこそ、実現できるのです。「Be a driver.」のためだけでなく、安全のための基本的な要件でもあるのですね。
では、こうした土台に載って、i-ACTIVSENSEはどのように機能するのでしょうか? マツダ車は、3種類の方法で周囲を監視します。長距離は“レーダーセンサー”、近距離は“超音波センサー(または近赤外線センサー)”、そして、対象物の識別には“単眼カメラ”を用います。
AT誤発進抑制制御では、前方の障害物をカメラと超音波センサーで把握し、異常なアクセル開度を検知、つまり、間違えてアクセルペダルを踏み込むと、警告が発せられ、エンジン出力が絞られます(ブレーキをかけないのは、例えば踏切の中に自車が取り残され、無理矢理、前方のバーを押しのけて脱出する、といったシチュエーションが考えられるから、だそうです)。
同じように、バックの際にも車両後方を超音波センサーが監視していて、運転者が誤ってアクセルペダルを踏んだと判断すると、エンジンのアウトプットを抑え、警告を発し、(バックの場合は)自動ブレーキがかかります。いずれも、これからの(超)高齢化社会の、必須機能になりそうですね。
このAT誤発進抑制制御ほか、冒頭に述べたように、衝突被害軽減ブレーキ、BSM、RCTAの4種類が、2017年度、マツダ5車種に横展開されます。
余談ながら、取材現場で聞いた話をひとつ。すっかりマツダのお家芸(!?)になった感のある“技術の横展開”ですが、コレは「マツダ車の特性が全モデルともよくそろえられているから、やりやすいのです」と、エンジニアの方が教えてくれました。いうまでもなく、車種ごとに、車重も、使っているパーツも異なりますが、極端ないい方をすると、特定のテストドライバーの感性に“走り”が集約されているので、マツダ車の動的な特性は共通したものになります。そのため、新機能のチューニングにもブレが生じない。効率的に移植できるのです。
今後は、ドライビングプレジャーに加え、セーフティの面でも、マツダ車に共通の性能が与えられることになります。安全性を向上しながらの「Be a driver.」というわけです。
(文/ダン・アオキ 写真/ダン・アオキ、マツダ)
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