【世界の街角】世界で最も美しい街といわれる、パリの街並の秘密
GOTRIP! / 2015年12月8日 7時14分
フランス・パリ。「花の都」として世界中の人々から賞賛されているパリですが、実はほんの150年くらい前までは決して美しい街ではなく、鼻が曲がるほど臭い街であった、という事実をご存知でしょうか。
実際、太陽王ルイ14世の死後、摂政を務めたオルレアン公の母親は、1718年8月25日の手紙に次のように書きのこしています。
「通りはとても臭くて我慢できないほどです。ひどく暑いため、大量の肉や魚が腐り、しかもその上、通りで立ち小便をする人が大勢いるので、とてもいまわしい臭いとなり、どうにも我慢できたものではありません。」
当時のパリは道の真中は必ず窪んで溝になっており、人々は日々この溝に排泄物や、汚水や生ごみなどを捨てていました。また、街路をトイレ代わりに使用するのはごく当たり前の行為であり、悪臭の大きな原因となっていました。
さらに、フランス革命が始まった年1789年にパリを訪れたロシア人のカラムジンは旅行記にこう記しています。
「一歩ごとに雰囲気はがらりと変わり、新しい贅沢品か最もひどい汚物に出くわす。このようなパリは最も素晴らしく最も嫌な都市であるとも、また最もかぐわしく最も悪臭のひどい都市とも、呼ばれなければならない。」
そんな巨大なスラム街のようなパリを刷新しようと立ち上がった英雄がいました。その男こそ、ナポレオン・ボナパルトの甥のルイ・ナポレオン、すなわち皇帝ナポレオン3世でした。
日本にペリーが来航した年である1853年、彼はオスマン男爵をパリ県知事に任命し、パリの街そのものを刷新するというフランス最大の都市整備事業に着手させました。
オスマン男爵は1853年から1870年まで17年にわたって大規模な都市改造を実行しました。
非衛生的なパリに光と風を入れることを主目的として、幅の広い大通りが設置されるとともに道路網の整備が行われました。
さらに街区の内側に中庭を設けて緑化を行い開放的で衛生的な街を整備していきます。
計画を実現するためにスクラップアンドビルドという形で容赦なく建物を強制的に取り壊し、新しい計画のとおりに建物や公園を建設していきました。
それに伴い、当時から騒乱の原因となっていたスラムが排除され、パリに治安の秩序と衛生的な環境がもたらされます。
しかしながらこの大改革について、当時の評価は賛否を巻き起こしています。
スイスの建築史家ジークフリード・ギーディオンはその著書『空間・時間・建築』のなかで、改造後のパリの街を「まるで衣装棚のように、画一的な大通りの裏側にあまりにもひどい乱雑さが隠されている」と批判しています。
さらにこの大改革の後、アレクサンドル・ギュスターヴ・エッフェルが設計し建設されたエッフェル塔も、建設前には多くの芸術家たちが連名で建設反対の陳情書を提出しています。
有名な反対派の文学者ギ・ド・モーパッサンは、エッフェル塔1階のレストランによく通ったそうですが、その理由として「ここがパリの中で、いまいましいエッフェル塔を見なくてすむ唯一の場所だから」と発言しています。
しかし、今ではその全てが美しいもの、として評価されているパリ。
今見えているものを、その時の価値観だけで判断することの難しさも、パリの美しい街並や建築物は現在に伝えているのかもしれません。
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