【日本人が知らないニッポン】井伊直虎と地震の「意外な関係」
GOTRIP! / 2017年2月15日 19時30分
『おんな城主直虎』の主人公、井伊直虎は16世紀中葉の人物です。
そもそも井伊谷を拠点にしていた井伊氏は、浜名湖周辺の零細豪族のひとつに過ぎませんでした。ですが江戸時代には、幕府中枢の役割を担うまでの大家になりました。もちろんそれには直虎の奮闘も大きく貢献していますが、つまるところ「大地震が発生したから」という理由に集約されます。
地震がなければ、井伊氏の飛躍もなかったと言っていいでしょう。
・井伊谷と南海トラフ地震
井伊谷は、本坂通の気賀宿に隣接した位置にあります。
本坂通は東海道の裏道とも言うべき交通網で、浜名湖を北に迂回するルートをたどります。つまり「海沿いの東海道」と「山側の本坂通」の2路線が存在するということですが、ではどうして本坂通というものが確立したのかというと、東海道が通行不能になることがしばしばあったからです。
浜名湖は、15世紀末まで海と独立した淡水湖でした。ところが西暦1498年に南海トラフ地震が発生し、その際の津波で太平洋と湖の間の陸地が消滅します。浜名湖は一夜にして、海と接続した汽水湖になりました。
浜名湖の南側を通る東海道は、この時点で海路を経た交通網になってしまったのです。このあたりは今切口と呼ばれ、現代では浜名大橋が架かっています。ですが昔は、船で渡るしかあります。身軽な旅人ならまだしも、何千何万という数の軍隊を船で運ぶというのは大変な労力が必要です。
それならば、浜名湖迂回ルートである本坂通を進んだほうが効率がいいという事情がありました。
・井伊氏の苦難
ただし、本坂通の発展は新たな戦いの始まりを意味します。
井伊氏の拠点は意図せずに「交通の要所」ということになってしまいました。周辺の大勢力から見れば、井伊谷は何が何でも制圧しておかなければなりません。中山道の只中に居城があった真田昌幸も、西進を目指していた徳川家康と何度も戦っています。
駿府の太守だった今川義元は、尾張侵攻の際には井伊氏の軍団を連れています。直虎の父親・井伊直盛は大河ドラマでは杉本哲太さんが演じていますが、この直盛は桶狭間の戦いで今川軍の先鋒に立たされ、戦死しています。
街道沿いの小領主というのは、こうした危険性と常に隣り合わせです。ですがそれと引き換えに、戦乱を乗り切った時は政権から優遇されるという利点もあります。
・幕府の中核へ
井伊氏の初代当主・井伊共保は「井戸から生まれた」と言われています。
ある年の元日、地元の神社の神主さんが井戸で子供を拾いました。その子供こそがのちの共保で、井戸伝説はここから派生します。この井戸は今も井伊谷の農地の只中にあり、連日多くの観光客を集めています。
井伊氏は強運に恵まれていた、という見方もできます。そもそも地震がなければ重要拠点の領主として名を馳せることはなく、また男子後継者を失った際の「中継ぎ投手」が極めて優秀だったという点も欠かせません。
直虎の治世下でも、井伊氏は「武田信玄の西進」という試練を経験しています。これを受けて、直虎と同じ「おんな城主」のおつやの方(織田信長の叔母)は武田に寝返っています。ですが直虎は武田になびかず、風前の灯火と思われていた徳川家康の陣営に所属し続けました。
結果、井伊氏は江戸期には「徳川の譜代」と見なされ大きな権力を与えられたのです。
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