【日本人が知らないニッポン】陶器は宝石に勝る トーハクで『茶の湯展』開催中
GOTRIP! / 2017年5月12日 11時30分
現在、東京国立博物館で『茶の湯展』が開催されています。
これは、我が国日本が誇る歴史的な茶道具が勢揃いした一大特別展。学校の教科書に掲載されている品も展示され、連日多くの来場客を集めています。
日本史を語る上で、陶器の存在は欠かせません。そもそも陶器とはあくまでも「宝石の代用品」に過ぎず、近世以前の西洋人から見れば「土の塵」に過ぎないもの。道端の土が、なぜ宝物なのか。そういう指摘は、実際にありました。
ここで、今一度考察してみましょう。なぜ陶器は珍重されているのでしょうか?
・陶器は金銀と交換された
「日本人にとっての陶器は、我々にとっての貴金属や宝石と同等である」
そう書いたのは、16世紀の日本にやって来た宣教師ルイス・フロイス。長年日本の文化や風習に接してきたフロイスは、日本人の陶器に対する情熱をしっかり感じ取っていました。
ですが、それを理解することは最後までなかったようです。そもそも欧米諸国が海洋進出に乗り出した理由は、貴金属や宝石、香辛料などを他国から分捕るためです。「分捕る」というのは言い過ぎだという意見もあるかもしれませんが、スペイン人のフランシスコ・ピサロが南米インカ帝国の金細工を丸ごと略奪したことはよく知られています。
この当時の西洋人が日本に期待していたのは、金銀銅の産出です。とくに山陰地方にある石見銀山は、世界の銀相場を大きく変えるほどの産出量を誇りました。「黄金の国ジパング」の伝説はそれ以前にもありましたが、日本が鉱山に恵まれているということは真実だったのです。
ところが、当の日本人は金銀を最上位格の宝物とは見なしませんでした。
・名器ひとつは城ひとつ
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康を始めとした戦国大名、そして足利将軍家も狂ったように熱を上げていたのは、茶器のコレクションです。
とくに陶器には法外な値がつけられました。掌に乗るようなサイズの茶入れが、城ひとつと交換できます。各領内で産出された貴金属は、名器と言われる茶碗の購入に消えていきます。
一方で日本人は、宝石にほとんど関心を示しません。16世紀は今のミャンマーに該当する地域との交易路が開拓され、ルビーが出回るようになりました。ヴァスコ・ダ・ガマの船団の日誌係も、ミャンマーのルビー相場について詳しく書いています。西洋人が何に関心を示していたのかをよく物語る記録です。
ですが、戦国時代の日本ではルビーが流行することはついにありませんでした。あの織田信長ですらも、興味を示したのは器の蒐集です。彼らにとって茶の湯は哲学であり、茶器は最高の芸術作品でした。時代が進むと、何の装飾も華美さもない黒い茶碗に思想を見出す運動も発生します。
その代表格が、千利休。彼の思想はあまりに奥が深く、未熟者の筆者の手には大いに余ってしまいます。ですが権力者から「貧相なもの」と見なされていた要素を茶の湯に取り入れることにより、ある種の平等思想を確立したのではないかと筆者は考えています。恐ろしく狭い茶室などは、まさにその一例です。
茶道と陶器は、「思想」という名の付加価値で光り輝いていました。
・博物館で分かる政府の「信用度」
筆者は海外旅行へ行く時、その国の特徴を知るためにまず「どのような工芸品があるか」をチェックします。続いて、その国の首都にある最も大きな博物館へ行くことにしています。
博物館の中が良好に整備され、常備展のほかにも様々な特別展を行っているとしたらその施設は「合格点」と言えます。逆に常設展はおろか、貴重な文物の維持すら怪しい博物館も存在します。今のシリアやイラクなどはまさにそうです。
そういうところは現地政府が弱体化しているか、文物保護にまったく関心を払わない無責任な政治体制の国と判断して間違いはありません。シリアの歴史学者や考古学者は、数千年来の文化財の危機を目の当たりにして涙を飲んでいます。
我々の祖国の文化財は幸いにして、このような状況とは無縁です。平和な環境の下、偉大な先達が残したこの世にふたつとない財宝を共有することができます。
見聞を広めることに、大金を投じる必要はありません。そして「本物を見極める目」はお金では決して買うことができません。
茶の湯展は、東京国立博物館平成館で6月4日まで開催されます。
Post: GoTrip! http://gotrip.jp/ 旅に行きたくなるメディア
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
信長・秀吉・家康が手にした「大名物」から国宝まで茶道具の最高峰が丸の内でお披露目
文春オンライン / 2024年9月20日 6時0分
-
古代オリエント博物館 2024年度 秋の特別展「悠久のペルシア-技・美・伝統-」
PR TIMES / 2024年9月11日 15時45分
-
「蒲生氏郷企画展 会津宰相と文化」を鶴ヶ城天守閣郷土博物館にて9月14日(土)から開催
@Press / 2024年9月11日 10時0分
-
熊本大など、室町幕府滅亡約1年前に織田信長が細川藤孝に送った書状を発見
マイナビニュース / 2024年9月10日 16時26分
-
織田信長が愛した「曜変天目茶碗」再現 横浜高島屋で陶芸家・瀬戸さん個展
カナロコ by 神奈川新聞 / 2024年8月29日 11時50分
ランキング
-
1年齢のわりに老けて見える人は「化粧水」を間違えている…潤うどころか肌をヨボヨボにする「危険成分」の名前
プレジデントオンライン / 2024年9月22日 17時15分
-
2夏疲れは「ひざ裏」を伸ばすだけ「5秒ストレッチ」で解消【医師が解説】
ハルメク365 / 2024年9月22日 22時50分
-
3騒音や悪臭トラブル…やっかいな隣人への対処法。「役所に相談をしますよ」と直接交渉は危険、ひろゆきが考える“ズルい”言いまわし
日刊SPA! / 2024年9月22日 8時46分
-
4現在使用しているエアコンのメーカーランキング! 2位「ダイキン」、1位は?
オールアバウト / 2024年9月22日 17時15分
-
5お財布も「ETCカード」も忘れて「高速」乗ったらどうなる!? つい「うっかり」が大ごとに? 二度と経験したくない「一部始終」とは
くるまのニュース / 2024年9月23日 7時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください