世界遺産の橋に平和への祈りを込めて、エキゾチックなボスニア・ヘルツェゴビナの古都モスタルを歩く
GOTRIP! / 2017年6月6日 11時30分
バルカン半島の国、ボスニア・ヘルツェゴビナの古都モスタル。クロアチアのドブロヴニクからバスでおよそ3時間で行けることから、ドブロヴニクからの日帰り旅行先として人気を集めています。
オスマン朝支配の影響が残るオリエンタルな街並みは、隣国クロアチアのアドリア海沿岸の街とはまったくの別世界。ここモスタルでは、地理的、歴史的背景から、古くからイスラム教徒とカトリック教徒が共存してきたのです。
街のシンボルである橋「スターリ・モスト」は、「モスタル旧市街の古い橋の地区」として世界遺産に登録されています。
橋が建設されたのは、モスタルがオスマン帝国の支配下にあった1566年のこと。橋の西側にはカトリック教徒の住民が、東側にはイスラム教徒の住民が暮らし、互いに異なる民族でありながらも平和的に共生していました。
ところが、1991年に勃発したユーゴスラビア紛争にともなう旧ユーゴスラビア解体の動きのなかで、ボスニア・ヘルツェゴビナでも血で血を洗う紛争が繰り広げられることとなります。
第二次世界大戦後のヨーロッパで最悪の紛争となったボスニア紛争下の1993年、スターリ・モストはカトリック民兵によって破壊されてしまいます。
その後、ユネスコの協力を得て2004年に再建され、その翌年に世界遺産に登録されました。橋の付近には「DON’T FORGET ’93」と書かれた碑が。
現在、スターリ・モストは、決して繰り返してはならない悲劇的な歴史の象徴であると同時に、平和のシンボルとして大切にされています。
建造物が世界遺産に登録されるにあたっては、「オリジナルであること」が重視されるため、一度破壊され、近年再建された建造物が世界遺産に登録されるのは珍しいこと。そんな背景からも、スターリ・モストは、歴史的価値だけでなく、負の歴史の象徴、そして異民族の和解・共生の象徴としての意義が評価されているといえるでしょう。
平和が戻った今では、ここが激しい紛争の舞台になったとは思えないほど、風光明媚でのどかな風景が広がるモスタルの街。
緑の山々や、エメラルドグリーンに輝くネレトヴァ川と見事に調和した石造りの町並みは、ため息が出るほどの美しさです。
しかし、ここで悲劇が起こったは決して遠い昔の話ではありません。実際に、紛争の被害を受けたまま修復されていない建物や、銃弾痕のある建物など、よく見ると街のあちこちに過去の爪痕が残っているのです。
橋を渡るときは、平和への祈りを込めて、一歩一歩を大切に踏みしめたいものです。
スターリ・モストを中心とする旧市街には、山をバックにオスマン朝時代の影響が残るエキゾチックな街並みが広がります。石畳の通りの両側には、街の特産である銅細工の店や、手作りアクセサリーの店、トルコ風の雑貨を売る店など、さまざまなショップがぎっしり。
まるでトルコのバザールのようで、珍しいお土産品の数々を見ながら歩くだけでも楽しめます。
イスラム教の礼拝の時間になると、モスクからアザーン(礼拝の呼びかけ)が聞こえてきます。日本人が一般にイメージするヨーロッパとは、まるで違う世界。「こんなヨーロッパもあったんだ!」と、今まで知らなかったヨーロッパの多様性に驚くはずです。
街に複数あるモスクのなかでも、必見なのがコスキ・メフメット・パシナ・ジャーミヤ。
1618年に建てられたモスクで、こぢんまりとした造りながらも、内部のドームに施された幾何学模様の装飾や、可憐にきらめくステンドグラスが印象的。ヨーロッパでモスクに入るなんて、なんだか新鮮な体験です。
平和と共生のシンボルとなった世界遺産の橋、スターリ・モストを抱く古都モスタル。
忘れてはいけない歴史の教えを語り継ぐ場であると同時に、西ヨーロッパの国々とはひと味もふた味も違うヨーロッパ体験ができる街なのです。
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