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「相手は何でもいい。仮想でも恋をせよ」瀬戸内寂聴さんが伝えた言葉の真意とは?

ハルメク365 / 2024年8月31日 20時0分

「相手は何でもいい。仮想でも恋をせよ」瀬戸内寂聴さんが伝えた言葉の真意とは?

数多くの作品を通して生きる力を与えてくれた瀬戸内寂聴さん。親交のあった方々は、傍らにいて何を学び、何を教わったのでしょう。今回は、寂聴さんの文学塾「寂聴塾」塾生の一人で瀬戸内寂聴記念会事務局長・竹内紀子さんにお話を伺いました。

竹内紀子さんプロフィール

記念室を案内する竹内さん。寂聴さんからもらったベネチア土産のネックレスをつけて

たけうち・のりこ
1958(昭和33)年、徳島県生まれ。瀬戸内寂聴記念会事務局長。22歳のときに参加した「寂聴塾」で瀬戸内寂聴さんと出会い、中学校国語教諭を経て徳島県立文学書道館の学芸員に。同館常設の瀬戸内寂聴記念室の運営・毎年の寂聴展開催に携わる。2024年3月、退職。

2022年6月に寂聴塾の塾生や地元の朗読会、読書会メンバーを中心に、瀬戸内寂聴記念会を発足。機関誌『寂聴』を創刊し、寂聴文学を顕彰するイベントを行っている。

寂聴さんの作品こそが「遺言」

私と瀬戸内寂聴さんとのお付き合いは40年になります。

私にとって瀬戸内寂聴さんは、文学塾の先生であり、尊敬する上司であり、一番好きになった小説家です。大学生のときに『いずこより』という自伝小説を読んでから寂聴文学のファンになり、22歳のときに寂聴さんが主宰する「寂聴塾」に参加したことで寂聴さんに出会いました。

現在、非常勤の学芸員として働いている「徳島県立文学書道館」は、寂聴さんが蔵書と貴重な文学資料を寄付すると明言したことで建設が決まった施設です。私はここの開館に向けて学芸員の資格を取り、念願だった、寂聴さんの生き方や作品を紹介する仕事をしています。

寂聴さんの生き方を学ぶには、彼女の本を読むのが一番です。本には寂聴さんの本当の気持ちが書いてあり、作品に書いてあることが遺言。私は今も毎日のように読んでいます。

寂聴塾で提出した課題作文。「講義が始まる前に一人ずつ名前を呼んで、ひと言付け加えて直に返してくれました」。
塾には65名の生徒が集まり、新聞にも取材された


「仮想の恋の相手を持っておきなさい」

寂聴塾に入って間もなく、私は伊藤野枝(いとう・のえ。大正時代の日本の婦人解放運動家)の夫の辻潤(つじ・じゅん)が好きだということを書きました。

寂聴さんは、辻が好きと言う若者がいたことがうれしかったのでしょう。「寂庵に遊びにおいで」と誘ってくださり、それがきっかけで寂聴さんとの距離がぐっと縮まりました。

当時20代だった私は怖いもの知らずで、寂聴さんに何でも話していました。一笑に付されるような可能性の薄い恋の話でも、受け入れて真剣に耳を傾けてくれました。自分を尊重してくれていると感じ、うれしかったです。

寂聴さんは心が若々しく、いくつになっても乙女心を持っていました。でもその心は気付くと枯れて失ってしまうもの。そう知っていた寂聴さんはこう言いました。

「仮想の恋の相手を持っておきなさい。相手は何でもいい。それがあると心が動き、ときめくものを“わざと”でも常に持ちなさい」と。女性が女性でいる秘訣であり、寂聴さんは本当の恋の相手がいないときでも、恋人に書くような心を打ち明ける手紙を書くのが好きでした。

学芸員の仕事に就いてからは、寂聴さんは私の上司になり、緊張感を持って接するようになりました。寂聴さんは「狎(な)れるという言葉が嫌い」と言いました。その意味は、親しくあっても甘えてはならないということだと思います。

人は狎れると甘えが出てしまうもの。自分を戒めるためにも、そう周りに言っていたのだと思います。

節目ごとに撮影した写真。眺めていると、寂聴さんと過ごした楽しかった時間がよみがえる

人は人の影響を受けて成長します

寂聴さんに言われてとてもうれしかったのは「好きなことが才能。好きなことを伸ばしなさい」ということ。そして「いろいろなことに挑戦して、自分の力を開発し、開花させなさい」ということです。

宇野千代(うの・ちよ)さんから寂聴さんが聞いた話によると、人間は持って生まれた才能の5%くらいしか発揮せずに死んでしまうそうです。自分にも好きなことで開花する可能性があると思うと希望がわいてきます。

寂聴さん自身も言葉の通り、最晩年も2冊目の句集を作りたいと語り、俳句を作っていました。こうして遺してくれた寂聴さんの軌跡を次世代にも伝えていく中で自分なりの華を咲かせたいと思っています。

文学書道館の開館に奔走してくれたお礼にと、寂聴さんから袋(バッグ)と万年筆がプレゼントされた

瀬戸内寂聴さんプロフィール

せとうち・じゃくちょう
1922(大正11)年、徳島県生まれ。小説家、僧侶(天台宗大僧正)。東京女子大学卒業。57年に『女子大生・曲愛玲』で新潮同人雑誌賞を受賞し、本格的に作家活動を開始。女流文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞、泉鏡花文学賞など受賞歴多数。73年に得度。2006年、文化勲章受章。著書に『夏の終り』『美は乱調にあり』『源氏物語』(現代語訳)など多数。21年11月9日、99歳で逝去。
 

>>次回は、弁護士・大谷恭子さんに、心に残る瀬戸内寂聴さんの教えを語ってもらいます。

取材・文=大門恵子(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人

※この記事は、雑誌「ハルメク」2023年11月号を再編集しています。

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