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心臓病患者を救う!世界で初めて実用化された日本の「画期的治療法」

ハルメク365 / 2024年10月9日 21時0分

心臓病患者を救う!世界で初めて実用化された日本の「画期的治療法」

心臓病の中でも特に治療が難しい重症の「心不全」。この治療法として注目を集めているのが、再生医療を用いた「心筋シート治療」です。世界で初めて実用化された画期的な治療法の開発の経緯や仕組みについて、さらに詳しく医師の澤芳樹さんにお聞きしました。

教えてくれた人:澤芳樹(さわ・よしき)さん

教えてくれた人:澤芳樹(さわ・よしき)さん

1955(昭和30)年、大阪府生まれ。大阪大学大学院医学系研究科特任教授、大阪警察病院院長。心臓外科医。80年、大阪大学医学部卒業。同大学医学部心臓血管外科主任教授などを経て、2021年から現職。心不全の新たな治療法として世界で初めて心筋再生医療を実用化。日本胸部外科学会理事長なども務める。

iPS細胞に着目して課題を克服

 iPS細胞に着目して課題を克服

ラボで研究員と情報交換。「みんな本当によくやってくれる。すごいチームです」

心臓外科医の澤芳樹さんらが1990年代後半から研究を始め、2007年には世界初の人への応用に成功した「心筋シート治療」。この画期的な治療法は大いに注目を集めました。

ただし課題もありました。筋芽細胞の採取と心筋シートの貼り付けで2回の手術が必要なこと、人によって効果にばらつきがあることなどです。

そこで澤さんらが次にトライしたのが、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使って心筋細胞そのものを作ることでした。

iPS細胞は体のさまざまな組織に成長できる万能細胞。京都大学の山中伸弥(やまなか・しんや)さんが作製に成功し、2012年にノーベル賞を受賞しました。澤さんらは山中さんと共同研究を開始。iPS細胞から安全性の高い心筋細胞をシート状に大量培養することに成功しました。

iPS細胞を利用した心筋シートで弱った心臓を回復

それにしてもシートを貼り付けるだけで、なぜ心臓の機能が改善するのでしょうか。

「一人の患者さんに 約1億個の心筋細胞を移植するのですが、それらが心臓に元からある心筋細胞と“情報交換”を始めるのです。

心筋梗塞などで瀕死の状態になっている心筋細胞が“助けてくれ”とSOSを出すと、シートの心筋細胞が細胞を助ける物質をいろいろと出すんですよ。すると新しい血管ができて瀕死の心筋細胞に酸素と栄養が届き、蘇る。そうして心臓全体の機能が改善するのです。細胞は賢く、したたかですよ。生命が生き延びようとする仕組みをそのまま利用しているのが、再生医療なのです」と澤さんは熱く語ります。

iPS細胞を使った心筋細胞シートのつくり方

 iPS細胞を利用した心筋シートで弱った心臓を回復

1.    京都大学iPS細胞研究所から、さまざまな細胞に分化しうるiPS細胞を提供してもらう

 iPS細胞を利用した心筋シートで弱った心臓を回復

2.    iPS細胞を心筋細胞に分化させて培養。リスク管理のため、未分化のiPS細胞を除去する

 iPS細胞を利用した心筋シートで弱った心臓を回復

3.    iPS細胞由来の心筋細胞を直径3.5cmのシート状に。培養皿の中で心筋細胞のシートが拍動する

 iPS細胞を利用した心筋シートで弱った心臓を回復

4.    iPS細胞由来の心筋細胞シートを心臓の患部に貼り付けると、5分ほどで自然にくっつく

早ければ2025年、健康保険が利く治療に

iPS細胞由来の心筋細胞シートの場合、手術は1回でOK。

ただしiPS細胞は患者自身の細胞ではないので、拒絶反応を抑えるため3か月間免疫抑制剤を飲みます。重症心不全患者への臨床試験は2023年に終了。2024年には健康保険が利く治療法として承認申請し、2025年の実用化を目指します。

「世界中の患者さんにも」と海外展開も準備中です。

 早ければ来年、健康保険が利く治療に

パソコンには手塚治虫の漫画、外科医憧れの『ブラック・ジャック』のシールが

多忙を極める中で、澤さんがほっと一息つける至福の時は、仕事前に院長室で飼っているメダカを眺めているときだそう。

「小学生の頃は生き物の図鑑ばかり読んでいました。体が弱くて学校をよく休みましたが、中学でバスケットボール部に入って体力もつき、人生が変わった。医者になろうと思ったのは祖父といとこが若くして亡くなったから。人はなんでこんなに簡単に死ぬのか、と自問しました」

あれから50年。心臓外科医として救えない命も多く見てきました。「だからこそ心臓病では死なせない。そういう世界をつくって1日でも早く患者さんに届けたい。近づいている手応えはあります」(澤さん)

以上、全4回にわたって「命を諦めない」ための、名医2人が教えるがんと心臓病の最新治療をお伝えしました。

取材・文=佐田節子、撮影=中川まり子、イラストレーション=落合恵、構成=大矢詠美(ハルメク編集部)

※この記事は、雑誌「ハルメク」2023年12月号を再編集しています

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