コシノミチコさん…母の墓石に刻まれた「人にもらうよりも人を喜ばせる方がずっといい」の教え
ハルメク365 / 2024年11月9日 21時0分
体の不調、お金や老後の生活の不安……悩みは尽きませんが、悩みに振り回されて日々の楽しみを忘れてしまうのは本末転倒です。悩みや不安と上手に付き合い、ピンチをチャンスへと変えたコシノミチコさんに強く、しなやかに生きるヒントを伺いました。
コシノミチコさんのプロフィール
こしの・みちこ
ファッションデザイナー。1943(昭和18)年、大阪府生まれ。高校・短大時代はソフトテニスの選手として全国大会で優勝するなど活躍。73年に単身渡英。75年にMICHIKO CO.を設立。80年代ストリートカルチャーの象徴として斬新なアイテムを次々と発表し、そのコレクションは英国王立ヴィクトリア&アルバート博物館に収められている。
コシノ三姉妹:母・小篠綾子さんの教えは“自分の道は自分で決めよ”
世界的なファッションデザイナーとして三者三様に活躍する「コシノ三姉妹」。
末っ子のコシノミチコさんがアトリエを構えるのがイギリス・ロンドンです。「こっちは駐車場が高いから、買い物も食事も絶対に自分で歩いて行って、じゃんじゃん地下鉄に乗る。歩くのはちっとも苦になりません」。そう笑って颯爽と街を闊歩します。
一人暮らしのミチコさんにとって、癒やしの存在である愛猫のMaccha
ミチコさんの母は、2011年のNHK連続テレビ小説「カーネーション」のモデルとなった日本の服飾デザイナーの草分け的存在、小篠綾子(こしの・あやこ)さん。
綾子さんが営む「コシノ洋装店」は大阪・岸和田にあり、住み込みの縫い子さんたちと休む間もなく洋服を作り、女手一つで長女・ヒロコさん、次女・ジュンコさん、そしてミチコさんを育てました。
「お母ちゃんは“自分の道は自分で決めよ”という人。娘にああしろこうしろと言うことはありませんでした」
運動が得意だったミチコさんは中学・高校とソフトテニスに打ち込み、短大卒業前に全日本学生選手権で優勝。
「もうこれ以上獲るものはないやと思い、優勝した日にスパッとテニスをやめたんです。卒業後は『お母ちゃんの仕事を手伝う』といって運転免許をとり、集金の仕事をしていました」。すでにデザイナーとして活躍していた姉たちの手伝いをすることもあったそうです。
知り合いが誰もいない場所でと単身渡英、がむしゃらに働いて
ミチコさんが目指すのは、街中で“あの人、カッコいいな”と、通り過ぎた人が振り返るようなファッション。「身に着ける人の自信を一緒になって作りたいと思っています」
転機は1973年。「このままでは小間使いで一生終わる」と考えたミチコさんは、単身海外へ渡る決断をします。なぜロンドンだったのかと問うと、「姉たちの伝手がなかったから」とミチコさん。
「パリやイタリアには姉の友達がいて、私が貧しい格好で街を歩いていたらいろいろ言われるでしょう。日本を出て次の人生を見つけるには知り合いが誰もいない街がよかったんです」
渡英後の生活は苦しかったと振り返ります。
「お母ちゃんから100万円を持たされたけど、当時は1ポンド750円。あっという間になくなって、食いつなぐためにホテルの清掃係から何でもやりました。あるとき、お母ちゃんが米や野菜をしょってロンドンに来てくれて、“助かった”と喜んだけど、お金は置いていかなかった。自分の力で生きなさいと、あえて娘を突き放したんです」
以来、ミチコさんはがむしゃらにファッションの道を進むようになりました。
習っていないから型にはまらず、とてつもない挑戦ができた
「最近は新しい生地がどんどん開発されているから、これまで絶対に作れなかったもの、まだ世の中にないものを、ここから生み出したい。“絶対に成功させるぞ”と挑戦しているときがすごく楽しいんです」
「ある日、デザイナーの募集があって面接に行くと、まわりは有名な美術学校を出て立派なファイルを持っている人ばかり。何も持っていない私は面接官に『もう一回来ていいですか』とお願いして、翌日ジュンコ姉ちゃんのビデオを持って行ったんです。『なかなかいいね、君の?』と聞くから、『ノー! 姉のだけど一緒に働いていたから、認めてくれ』と言い切ったの(笑)」
会社の工房を見学すると「お母ちゃんの仕事場と似ていて、仮縫いしている人たちの手つきを見たとき、私の方ができると思った」とミチコさん。余り布を持ち帰り、自ら染色、裁断して服を作ったところ、評判を呼んで展示会に出品することに。これがデザイナーとしての第一歩となりました。
「誰に習ったわけでもないけど、お母ちゃんや縫い子さんたちを見て暮らしていたから“服を作るのは普通やん”って感じでした。むしろ習っていないから型にはまらず、とてつもないことができたんだと思う」とミチコさん。
70年代に発表した軽くて暖かいコート、80年代に大ヒットした空気で膨らませる「インフレータブル」シリーズなど、ファッション性と実用性を併せ持つアイテムを次々と生み出していきました。
年季の入った足踏みミシンは今も活躍中
年齢はただの数字。この年だからなんてスローダウンは考えない
渡英して50年。今もバリバリ仕事をし、「年齢はただの数字。この年だからこうしようというのは何もないし、スローダウンする必要もないと思う」というミチコさん。50代からの女性にもっとおしゃれを楽しんでほしいと話します。
「例えば旅行。せっかくホテルに泊まってレストランに行くなら、ちょっと気張っておしゃれをしてほしい。今はしわにならないドレスや、きれいなカジュアルもありますよ。生きている時間は限られているから、どれだけ楽しめるかは創造力だと思う」
そんなミチコさんのモットーが「与うるは受くるより幸いなり」です。
「お母ちゃんがよく、人にもらうよりも人を喜ばせる方がずっといいと言っていて、墓石にもバシッとこの言葉を刻んでいるの。人にやってあげられることを喜びとする、それこそが幸せに生きていくコツだと思います」
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=Baba Nobuko(SIGNO)、メイク=松森あず沙、ヘア=MASASHI KONNO(ota office)
※この記事は、雑誌「ハルメク」2024年2月号を再編集しています。
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