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僧侶・前田宥全さん!自殺大国の日本で「自死・自殺に向き合っていく」

ハルメク365 / 2024年8月31日 22時50分

僧侶・前田宥全さん!自殺大国の日本で「自死・自殺に向き合っていく」

僧侶・前田宥全さん「自死・自殺に向き合っていく」

「自殺大国」といわれて久しい日本――。都内の小さな寺の住職である前田宥全さんは、そんな状況を何とかしたいと、仲間の僧侶と一緒に手紙による相談活動も行っています。相談者との直筆の手紙のやりとりは数十回に及ぶこともざらだといいます。

遺族の小さな男の子に、将来何を話してあげられるだろう?

私が自死(自殺)という、いのちの問題にかかわるようになったのは、ある自死遺族との出会いがきっかけでした。

あれは住職になって何年かたった頃、檀家さんから「息子が……」と連絡が入ったのです。当時の私と同い年の30代の息子さんが自死した、という知らせでした。すぐにお経をあげに駆けつけると、枕元には、ご両親と二人のお兄さん、それに奥さんとまだ3歳の息子さんが座っていました。

ご家族はみなさん力を落とし悲しげな表情でしたが、とても気丈に振る舞っていました。お通夜でもお葬式でも、号泣するどころか、涙を見せることもない。恥ずかしい話ですが、私は自死遺族と接するのはそのときが初めてで、「こういうものなのかな」と勝手に思っていました。

ところが、いよいよ火葬場で窯に棺(ひつぎ)が収められようとした、そのときです。

それまで毅然としていたお母さんが急に取り乱し、息子が骨になるのを拒んで棺に必死にしがみついて泣き叫び、他のご家族も声にならない声で泣き始めたのです。その周りを、3歳の息子さんがきゃっきゃと走り回っていました。きっと、たくさんの人が集まって、いつもとは違う雰囲気が楽しかったのでしょう。

その光景をただ見守ることしかできなくて、私は今まで何をしてきたのだろうと思いました。

 
人が自らいのちを絶つとはこういうことなのか、と。これだけの人が悲しみ、しかもその悲しみ方は普通とは違う、とそのとき初めて知ったのです。

このご家族に自分はいったい何ができるだろう? この男の子が大人になったとき、何を話してあげられるだろう? そう考えたとき、何も浮かびませんでした。私自身、このままでは気持ちが収まらないと思いましたし、せめて自分の檀家から、こういう方を出したくない――そんな気持ちが湧き上がってきたのです。

お坊さんとの往復書簡なら何度も読み返せる

それが2006年。ちょうど自殺問題に取り組むNPOライフリンクが、自殺対策基本法の成立に向け署名活動をしていた時期で、私も参加することにしました。

近所の寺にも協力してもらい、法要前のお説教の時間などにお願いし、結果的に750人分の署名をいただきました。そのとき、「実は私の親戚も」「私の友人も」と声をかけてこられる方の多さに、とても驚いた記憶があります。

いただいた署名にはたくさんの方の思いがつまっている気がして、簡単に郵送したくないと思い、衣を着てライフリンクに持参しました。そこで、当時ライフリンクの事務局長をしていた僧侶と出会い、意気投合。浄土真宗の彼と、曹洞宗の私、それにもう一人、日蓮宗の僧侶を誘い、2007年春、超宗派の「自殺対策に取り組む僧侶の会」(現「自死・自殺に向き合う僧侶の会」)を立ち上げたのです。

当時、自死で悩む人のための電話やメールの相談はすでにありました。そこで私たちが始めたのは、「お坊さんとの往復書簡」という手紙相談。手紙なら、手元に残して何度も読み返せるし、思いを込めて手書きすれば、文字から気持ちが伝わるのではないかと思ったのです。チラシではこんなふうに呼びかけました。
 
「どうしようもなくつらいときこそ、相談してください。近くの人に話しづらいなら、少し遠くの人に手紙を書いてみるのはいかがでしょう。『お坊さんとの往復書簡』は、悩んでいるあなたの味方です。死ぬこと、生きることに、接し続ける道を選んだ者がお返事します。たとえ時間がかかっても、必ずお返事いたします」

手紙相談を始めて丸6年。自ら死んでしまいたいと思い悩んでいる方や、大切な人を自死で亡くしてしまった方などから毎月60~80通の手紙が届き、多い月には100通を超えます。便箋20~30枚にびっしりつづられたものもあれば、「もうダメ。死ぬ」と1行だけのものも……。

どの手紙も重さは同じです。たとえ「死にたい」と書かれていても、本当に率先して死にたいと思っている人など一人もいないと思うのです。

心の底では「生きたい」。でも生きるのがつら過ぎるから、もう死ぬしか楽になる方法がないと思いつめている。そこで力をふりしぼって手紙を書いてくださったことを、とてもありがたく感じます。

「私はあなたを心配しています」

返事を書くのは、往復書簡のメンバーである30人の僧侶です。3人一組の班体制をとっています。届いた手紙は、まず事務局である私がスキャンし、3人にメールします。そのうち1人が担当者として文案を作り、あとの2人は気になる点を指摘します。ひとりよがりな返事にならないように、3人で文面を深めるようにしているのです。

心掛けているのは、誰にも打ち明けられない気持ちを手紙に託してくれた相手をしっかり受け止めること。そして「私はあなたを心配しています。だから一緒に考え、進んでいきたい」という構えで向き合うことです。

最終的に担当者が手書きし、自分の名を差出人として返信します。例えば、10代の娘さんが自死したことで自分を責め続けている女性に向けて、こんな返事を書き送りました。

「言葉に表し難いご経験を、お手紙にしてくださいましてありがとうございました。どうすることもできない後悔の念がひしひしと伝わってきました。(略)

ご仏壇に花やお水、お供物やお線香をあげ、お経を唱え、語りかけることは、娘さんへのとても大事なご供養の一つです。そして、このようにお手紙をお書きになることも、ご供養になっているのではないでしょうか。(略)

『娘にどうやって謝ったらよいか、どうやって償ったらよいか』というご質問について、私なりに考えてみました。今なさっていることを、ご供養を続けて差し上げること、そしてご自身の命を大事にしていくこと、それが娘さんへの償いでもあり、娘さんの命を“生かしきる”ということにもなると私は思います。ですが、それだけではきっと納得できないのですね。

できましたら、もう少し娘さん対するお気持ち、娘さんとの思い出などをお聞かせいただけないでしょうか。(略)

私はもっと理解させていただきたいと思っています。そうすることで、何か救いになるものを見つけることができるのではないかと思うのです。時間がかかっても一緒に考えて参りたいと思います。お気持ちが向きましたら、ぜひお手紙をください」

手紙を受け取ってから返信するまで、だいたい1週間から10日。返信を受け取った方からの手紙にしばしば書かれているのが「本当に返事がくると思いませんでした」という言葉です。「誰にも言えなかった思いを受け止めてもらってうれしい」と喜んでいただけると、こちらが反対に力をもらっている気がします。

背負った荷物は、いったん降ろしていいですよ

例えて言うなら、私たちの人生は、たくさんの重い荷物を背負って登山しているようなものです。しかも、いつ終わるのかあてのない登山で、途中で荷物を降ろして休んではいけないような暗黙のルールがある。今の日本社会はそうでしょう? 

そこで、「荷物をいったん降ろしていいですよ」と言ってもらい、ふと降ろしたときのすがすがしさ――。手紙で悩みを吐露することは、それに似ているのかもしれません。

手紙のやりとりは平均4~5回交わされ、20~30回になることもざらです。いちばん多い方とは100回以上も続いています。

どうして続けられるのか? 優等生的なことを言えば、「一人でも自殺者を減らしたいから」という答えになるのでしょうが、私はそうは言えないです。私はこうして人や社会とつながることで、自分が満たされているのだと思っています。

仏教では「自利利他円満(じりりたえんまん)の行」といって、人と人が時間を共有することで、互いに有益な体験になると説きます。また、関係性の中で生きる私たちは、自分だけが幸せであっても本当の心の安定は得られません。

実際、相談者と手紙をやりとりしながら向き合うことで、お互いに影響し合って、相談者の力になるだけでなく、相談に乗っている私も貴重な経験と生きる勇気をいただいています。

結局、私は自分がやりたいから手紙を書いて、その結果、一日いのちをつないでくださっている方がいる――それがすべてなのではないでしょうか。

次回の最終回では、生きづらい時代に少しでも心を軽くし、安心して悩めるためにできることをお話しします。

お話ししてくれた人

曹洞宗正山寺 住職
前田宥全さん

まえだ・ゆうせん
1970(昭和45)年、東京都生まれ。東北福祉大学卒業。永平寺での修行を経て1996年より現職。2001年から「あなたのお話 お聴きします」の活動を始める。07年に「自殺対策に取り組む僧侶の会」(現「自死・自殺に向き合う僧侶の会」)を立ち上げ、副代表に就任。NPO法人自殺対策支援センター「ライフリンク」の活動にも参画している。

※前田宥全さんによる無料相談「あなたのお話し お聴きします」は現在、完全予約制で、約1か月待ちです。
https://www.shosanji.jp/activity.html


取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)
この記事は雑誌「ハルメク」2013年9月号に掲載した記事を再編集しています。

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