56歳女性「生きるのが面倒くさい…」中年期に直面する「ミッドライフクライシス」の乗り越え方
ハルメク365 / 2024年9月17日 22時50分
50代からの女性のための人生相談・6
「50代からの女性のための人生相談」は、専門家の方に読者のお悩みにお答えいただくQ&A連載です。今回は、56歳女性の「生きるのが面倒」というお悩みに、仏教の教えをわかりやすく説いて「穏やかな心」へ導く住職・名取芳彦さんが回答します。
56歳女性の「生きるのが面倒くさい」というお悩み
56歳、既婚者で子どもはいません。夫は3歳上で、54歳で早期リタイアしています。世帯収入は、私自身のささやかなアルバイト代がほとんどです。
40代あたりでは、まだやりたい事などありましたが、現在は仕事と家事の繰り返しの日々です。
夫の両親は他界しており、私の母は高齢の域ですが、まだとりあえず元気です。
平和で何よりなのですが、何も生きがいも感じることなく過ごす日々が恐ろしく空虚に思われ、人生が終わってくれないかと思いつつ、かと言って自殺とまではいかない状態です。
大好きだった音楽さえ心に響かなくなって久しいです。甘いのは承知しています。しんどいと言っても、私は仕事を続けるしかない。でも、生きるのが面倒くさいです。
(56歳女性・Y.Mさん)
名取芳彦さんの回答:「人生は面倒である」は一つの悟り
「生きるのが面倒くさい」とのことですが、私も同感です。生きるというのはまったく面倒です。しかし、「髪の毛を洗うのは面倒だから、今日はやめておこう」というレベルと違って、「生きるのは面倒だから、生きるのをやめてしまおう」とはなりません。
太宰治の短編に『トカトントン』があります。ある読者が作家へ送った手紙形式で書かれています。この中で、読者が何かをやっていると、あるとき、突然、トカトントンという金槌で釘を打つ音が聞こえくることがあると訴えます。その音を聞くと何の気力もなくなってしまうというのです。
「この不思議な現象を起こすあの音は、いったい何でしょう」と作家に問います。最後は作家からの短い返事が付されます(青空文庫で読めます)。
20代でこの作品を読んで以来、私にもトカトントンという音が聞こえるようになりました。おそらく何かの緊張の糸が切れると、トカトントンが聞こえる気がするだけでしょう。いろいろなことが「面倒だ。もういいや」と思えてしまうのです。
あなたもつい最近、トカトントンを聞いたのかもしれませんね。
生きるのが面倒。でも、死ぬのも面倒。それでいい
生きるというのは、何かをし続ける状態ですから、面倒といえばとても面倒です。
子どもの頃から「こんなことをして何になる?」という自暴自棄にも似た疑問が、私たちの心を何度もよぎります。そして、差し当たり「勉強はいい仕事につくため」「仕事は不自由のない生活をするために、必要なお金を稼ぐため」など、当面の答えを出して生き続けます。
あなたは今、それら人生の問題を分析した結果、「生きるというのは面倒である」という、否定しようのない達観に至ったのでしょう。
まったく、生きるのは面倒です。やることがたくさんあるのですから。
幸か不幸か、あなたはまだ「人生が終わってくれないかと思いつつ、かと言って自殺とまではいかない状態」とのこと。そんなあなたに、私は面倒をとことん極めてほしいと思います。
「生きるのは面倒だが、かといって死ぬのも面倒だ」とさえ思えるようになれば“面倒の達人”、“面倒道の免許皆伝”と言えるでしょう。
死ぬのも面倒だから、とりあえず生きていくか……でいいですよ。トカトントンの力が持続している間は、それでいいと思います。
数年ごとにトカトントン状態になる私の人生観の基本も、あなたと同じ「人生は面倒である」です。生きることに関して前向きで積極的答えが出ない(出せない)以上、「生きることは面倒」と認めた上で、「まあ、面倒だけど……」でいいと思うのです。
それが心穏やかに生きていくコツでもあり、小さいながらも一つの悟りです。
人生丸ごと回り道!何となく終わる人生も理想
私は60歳を過ぎて、次の言葉を座右の銘の一つにしています。
寄り道、道草、回り道、人生丸ごと、そんなもの
大好きだった音楽に興味がわかない時もあります。生きがいを見つけるのも面倒に感じることもあります。それもこれも、人生の中で少し寄り道をしている時、道草をくっている時、回り道をしている時だと割りきればいいのです。
そのうちに、「旦那にヤキモチを焼かせてみようか」とか「最低3日かかる料理を作ってみようか」など、もろもろのスイッチが入ったりします。そうこうしているうちに、何となく人生が終わっていくでしょう。まさに、人生丸ごと回り道です。
法律で罰せられるようなことはせずに、何となく終わっていく人生は、一つの理想的な在りようだと思います。
■回答者プロフィール■
名取芳彦さん
なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)など、著書多数。
構成=竹下沙弥香(ハルメクWEB)
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