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注目のメンタルケア「オープンダイアローグ」とは?精神科医・森川すいめいさんが語る

ハルメク365 / 2024年8月27日 22時50分

注目のメンタルケア「オープンダイアローグ」とは?精神科医・森川すいめいさんが語る

精神科医の森川すいめいさんが「生きやすくなるためのヒント」をお伝えする連載最終回。心の病は人と人の間にこそあるというフィンランドの精神医療の取り組み「オープンダイアローグ」が重視する「対話」から、生きやすさのヒントを探っていきます。

精神医療の取り組み「オープンダイアローグ」とは?

オープンダイアローグ」とは?


これまでの2回では、日本の自殺希少地域における自殺予防因子の話をしました。自殺希少地域に暮らす人たちは、悩みを持った人の話をよく聞くことをしますし、悩みに対して周囲の人たちは何とかしようと互いによく考えています。

また、「人間は多様である」「相手は変えられない」と理解している方が多いように思います。自殺希少地域では、そうしたことの連続により結果的に自殺で亡くなる人が少ないのだと感じます。

フィンランドでは同様のことを精神医療の取り組みとして行ってきました。今回はそこから、生きやすさについて考えたいと思います。

フィンランド西ラップランドで行われている「オープンダイアローグ」では、「対話」を重視します。みなさんは、「対話」というとどういったものを考えますか? 

人と人が話をすること、つまり「会話」には「モノローグな会話」と「ダイアローグな会話」の2種類があります。「モノローグ」は「独白」という意味なので、対話ではありません。

対して、「ダイアローグ」とはずばり「対話」のことで、「『聞く』と『話す』を丁寧に分けて重ねる」という意味が込められています。

「オープンダイアローグ」の作法

「オープンダイアローグ」のやり方と対話のルール

さあ対話しましょう、と言ってもすぐに対話的になるのは難しいかもしれません。対話のための作法をいくつか知っていると良いでしょう。

話を最後まで聞く

 まず聞くときは、「でも」「いや、そうじゃなくて」などと反射的に否定などはせずに、人の話を最後まで聞き切ること。そうでないと話を遮られた側は、「言えていない」「聞いてもらえていない」と感じ、「言っても無駄」「傷つきたくない」と、会話自体を避けることになりがちです。

「私は」と自分の意見を述べ、相手の意見を決めつける言い方はしない

すべてを聞き切ったら、あなたの話す番です。その番になったら、「私はこう思う、こう考える」と自分を主語にした話し方をしましょう。このとき重要なのは、「あなたはこう感じたでしょう?」と人の意見を決めつけた物言いをするのではなく、「あなたはこう感じたと思うんだけど、それは合っている?」と聞くこと。客観的事実のような話し方ではなく、主観的に話します。

相手はどんなに親しくても他人です。どこまでいっても相手はわからない存在と認識して、他者性を尊重して会話をします。

夫婦間・家族間・友人間でも「対話」の作法は同じ

これは夫婦間、家族間、友人間、どんな関係性でも同じことです。お互いに「聞いてもらえた」「わかってもらえた」という経験を積んでいくと対話の大事さが理解できます。言い合いになっても「私が先にしゃべるね」と言って「聞く」と「話す」を分ける練習をすれば、いずれお互いが本当に言いたいことを伝えられるようになっていきます。

関係する人を集める

問題に関わる人たちを集めて話をします。対話を進める中で、新たな人が話題に登場してきたら、その人も次回の場に呼ぶといいでしょう。「本人のいないところで本人の話をしない」ということがとても大切にされています。

オープンダイアローグにおける目標とは?

オープンダイアローグにおける治療方針

「対話」を重要なものと位置づけたオープンダイアローグですが、その原型はフィンランドで1960年代に始まった精神医療「ニード・アダプテッド・トリートメント」です。これは初診の患者と会うときに、患者本人だけでなく家族も招き入れ、本人や家族にニーズを聞くものでした。

心の不調につながるいきさつにじっくり耳を傾けて、どんな助けが必要かを中心に聞くものです。この試みは入院患者数を大幅に減らすことができ、結果的にフィンランドの精神医療の国策になり、オープンダイアローグへとつながっていきました。

オープンダイアローグでは、「人と人の関係の中で病は発症する」と考えています。ですから、対話を通してソーシャルネットワーク(人と人の関係性)を見ることを大事にします。

生きづらさの理由はどこにあるのか? 精神疾患の発症の背景は? と患者の人間関係を見て専門家は動きます。患者に話を聞くとき、少なくとも2人の専門家が患者のもとに行き、対話が起こるように会話を進めます。

この対話を促進する専門家は、「話す」と「聞く」を分ける援助を繰り返します。

症状は軽減できても人間関係まで解決できないときは

オープンダイアローグにおける治療方針

一般的な診療は医療者と患者が一対一で行います。しかし、話を聞く場所(病院など)と、心に病を持つ原因となった場所(日常の人間関係のある場)が異なれば効果には限界が出てきます。

原因の場から離れたところで症状が落ち着き、医師と患者が話せるようになったとしても、いざ日常の人間関係の場に戻ると話ができないことはよくあります。

これは、症状は軽減できているのに、人間関係の問題までは解消できていない状態です。病は人と人の間で起きているとすれば、日常の人間関係から患者を切り離してしまっては根本的な問題解決は難しいものです。

そこでオープンダイアローグでは、本人が抱えている問題に関連する家族や知人に一堂に集まってもらって、対話の場に本人の人間関係を持ち込みます。そして進行役を中心に一人ずつ対話を行っていきます。一人が話し終えたら、進行役が次の人に話を振ってまた聞きます。そうして対話を続けていくと、悩む本人や周りの人から思いがけない言葉が出てきたりして、悩みの原因を取り除くためのヒントが徐々に見えてくることがあります。

そうするとその話を起点に、その場にいる人たちから他の話やさまざまな提案が出てきます。その場にいる人たちはそれらをもとに、自分が進みたい方向を選択して次第に問題解消に向かっていきます。

私たちのクリニックでもオープンダイアローグを取り入れた医療を行っています。支援者に依頼されて、引きこもっている独居の方と会いました。初めは対話もままなりませんでしたが、ケアマネジャーなど関連する人を増やして対話の輪を大きくしながら関わりを続けました。

すると話題にご家族が登場するようになって実際に会うことになったり、徐々に変化が表れてきました。さらに対話を続けて1年くらいすると、家の外で近所の方と話をされるようになりました。対話を続けてきたことが、何か意味を持ったように感じます。

薬で解消しない問題が「対話」で軽減できることも

精神医療の取り組み「オープンダイアローグ」とは?

「病気」に薬を処方すると、症状だけはすばやく解消できることもあります。一方、オープンダイアローグで行う対話は、困りごと自体を今すぐ完全に解消できるとは限りません。現在抱えている問題への糸口がわからずモヤモヤが続くこともあります。

それでも困りごとの背景……言い換えれば生きづらさの原因となっている人間関係の中で答えを探ることで、困りごとを軽減できることでしょう。そのことは、今後の人生にとってもきっと助けになります。

対話ができれば、相手が抱えている生きづらさを共有して何か力になれるかもしれません。または自分が悩んでいたら、同じように誰かが助けになってくれるかもしれません。

ですから、まずは「聞く」と「話す」を分けることから始めてみてください。やがてあちらこちらで対話が起これば、もっと世界は生きやすくなっていくはずです。

森川すいめいさんのプロフィール

もりかわ・すいめい 1973(昭和48)年、東京都生まれ。精神科医。鍼灸師。オープンダイアローグ国際トレーナー。精神科の往診や外来診療を行う。ホームレス状態にある人を支援する認定NPO法人「世界の医療団」理事。「著書に、『漂流老人ホームレス社会』(朝日文庫)、『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(青土社刊)、『感じるオープンダイアローグ』(講談社現代新書)などがある。


取材・文=井口桂介(ハルメク編集部) ※この記事は、雑誌「ハルメク」2018年5月号を再編集しています。
 

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