【人生相談】後悔の日々…夫の死を乗り越える方法は?僧侶が回答
ハルメク365 / 2024年10月23日 18時50分
50代からの女性のための人生相談・31
「50代からの女性のための人生相談」は、専門家がハルメク読者のお悩みに答えるQ&A連載です。今回は57歳女性の「夫の死を乗り越える方法」についてのお悩みに、仏教の教えをわかりやすく説いて「穏やかな心」へ導く住職・名取芳彦さんが回答します。
57歳女性の「夫の死を乗り越える方法」についてのお悩み
昨年、主人が亡くなりました。10歳年上でしたが、休みの日には二人でカフェに行ったり、一緒に趣味の音楽のサークルに行ったりして楽しんでいました。
がんで何度も手術をしていたのですが、私は正社員で毎日働いていたので、もっとゆっくり主人と過ごしたいと思い会社を辞めることにしました。主人も平日にいろいろな所に行けると喜んでいましたが、私の退職を待たずに亡くなりました。
亡くなってから、もっと優しくしたら良かったのに、もっと何かしてあげれば良かったのに、ちゃんと愛していると言ってあげれば良かったのに……と後悔しています。
主人はいつも「愛してるよ」「結婚して良かった」と言ってくれていましたが、最期に主人はどう思っていたのか、ちゃんと聞けばよかった、ちゃんと伝えておけばよかったと、思っています。
今は毎日、仏壇に般若心経をあげて「愛してる」と言っています。でも、もう、主人はこの世にいません。この気持ちはどうすればいいのでしょうか?
(57歳女性・ゆきぴーさん)
名取芳彦さんの回答:一人で生きる覚悟をすることが大切
ご主人との時間を作るために退職することにしたのに、その時間がなかった切なさは、察するに余りあります。
正社員としての責任ある退職準備をしながらご主人の看病と看取りをされたのですから、時間のやりくりや心の切り換えなど大変だったでしょう。最期の時間をご主人に注ぎ尽くせなかったことも、心残りだったことでしょう。
退職後にカフェや音楽サークル、旅行など、いろいろなところに行こうと思い描いた未来を置き去りにして、一人進むしかない――。つらいことですが、なるべく早く、それを覚悟できるといいですね。
覚悟しても、たぶん2年ほどは「去年の桜は一緒に見たのに」「去年の花火は一緒に歓声をあげたのに」「一昨年は二人で紅葉を楽しんだのに」「一昨年はいっしょに年越しそばを食べたのに」と思い出すことでしょう。それでいいと思います。
ジグソーパズルで言えば、ご主人と過ごした共通の時間や空間すべてが、今のゆきぴーさんを作っている大切なピースなのです。
心穏やかになりたいなら「こだわりから離れた方がいい」
やる瀬ない気持ちを、ご主人にわかってもらいたい、ご主人が最期にどう思っていたのか知りたい、伝えたいことがある、という思いを込めて『般若心経』をお唱えになっているのは、とても良いことだと思います。
しかし『般若心経』は、心穏やかになりたいなら「こだわりから離れた方がいい」と説いているお経です。
こだわるのは、その場から動かないということです。周囲の状況は否応なしに変化していきます。それが「諸行無常の法則」なので仕方ありません。
すべては変化してしまうのに、自分だけその場に留まっていれば心は穏やかでいられなくなる、というのが仏教が出した結論です(でも、心が乱れるのを承知でこだわる道を選ぶとしても、それはそれでいいと思います)。
ゆきぴーさんが毎日唱える『般若心経』を聞いて、ご主人は「一緒の時間を過ごしたかったけれど、状況が変わった、仕方がないさ。もういいよ。僕はこだわっていないから」と思っていらっしゃることでしょう。
優しくしてあげたかった、なんとかしてあげたかった、愛していると言ってあげれば良かったなど、ゆきぴーさんがご主人に伝えたかったことは、仏壇のお位牌や遺影に語りかけるのではなく、仏壇の正面奥にいらっしゃる仏さまに「私の、この思いを主人に届けてください」とお願いすることをおすすめします。
直接語りかけてもご主人から答えは返ってきませんが、仏さまならあなたの思いを確実に届けてくれます。届けてくれる存在を仏さまとして私たちは祀っているのです。
死を乗り越えた人=「亡くなった」の言葉から語れる人
供養の現場にいる経験上、亡き人のことを思った後に「でも、死んでしまった」とつぶやいて終わるような時期は、亡くなったという事実を心の底から納得できていないことが多いものです。
「まさか」という坂は「(あなたの)おかげ」という感謝の影を追っていくことで越えやすくなります。坂を越えた人は、死の事実を受けいれた「あなたは死んじゃったけどね……」の言葉からスタートするようになります。
「亡くなった」という言葉が、最後にくるか最初にくるかによって、亡き人のことを良い意味で諦められたかどうか、がわかるのです。
来年三回忌を迎える頃、ゆきぴーさんが仏壇やお墓の前で、「あなたは先に死んじゃったけどね、私ね……」と切り出せるようになっていることを心からお祈りしています。合掌。
なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)など、著書多数。
構成=竹下沙弥香(ハルメクWEB)
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