草笛光子さんの素敵に年齢を重ねる秘訣「パッと逝けるように筋力・体力を鍛えています」
ハルメク365 / 2024年8月11日 22時50分
90歳の今も俳優として第一線で活躍する・草笛光子(くさぶえ・みつこ)さん。草笛さんのハツラツとした姿と言葉から、きれいに生きるヒントを学ぶ特集です。2018年3月のインタビューから、第5回は素敵に年齢を重ねる秘訣をお届けします。
90代になっても仕事の第一線で走り続ける
70代を前に染めることをやめたという美しい白髪に、毎日、日焼け止めを欠かさない白い肌。軽やかな身のこなしでインタビューの場所に現れた草笛光子さんの美しいこと! それでいて、開口一番「お待たせいたしました。この年になると、道路工事(メイク)が多いものですから」といたずらっぽく笑う、キュートなお茶目さがあります。
「2017年秋に、84歳になりました。この頃は、仕事のどこの現場へ行っても最高齢。若い役者さんからは、『おっ母』『おばば様』なんて呼ばれています。それで調子に乗って、偉そうにするわけにもいきませんし、頼れる年上の人がいなくなってきた怖さというか、責任感が重くのしかかってくることもありますね。
でも長く生きてしまったのはしょうがないですから、最高齢という席に、なるべく慣れようとしているところです」
70代、80代と年を重ねてなお、現役バリバリで仕事をしている草笛さん。舞台「ロスト・イン・ヨンカーズ」(2013年)では、80歳にして紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。NHK大河ドラマ「真田丸」(2016年)では真田家をまとめる「ばば様」の熱演が話題に。ライフワークといえる舞台「6週間のダンスレッスン」も再演されるなど、スケジュールがぎっしりっです。2018年4月には、映画「ばぁちゃんロード」で主役を演じました。
映画で草笛さんが演じたのは、脚をけがして、施設で暮らすキヨ。結婚を間近に控えた孫娘と二人でバージンロードを歩くため、懸命にリハビリに励む中で、閉ざした心が少しずつ変化していく物語です。老年の孤独、人に求められる喜び、そして世代を超えた家族の絆が、じんと胸に迫ってきます。
「私には孫がいませんが、私自身がおばあちゃん子でした。母は16歳で私を産んだので、『子どもが子どもを産んだようなもの』と、3人の祖父母が競って私を育ててくれたんです。老人に育てられた子は『三文安い』って言うでしょ。私は3人に甘やかされたから九文安い。だから今も、ぼんやりしてるのね」
「この先どう老いるか」悩んでもわからないことは考えない
映画の中で、キヨは家族に迷惑をかけまいと、自ら施設に入居します。この選択を、草笛さんはどう思われたのでしょう。
「私の母は2009年に92歳で亡くなったのですが、晩年、認知症を患って、『もう帰る』と言っては家から勝手に出て行ってしまうので困りました。母を追いかけて、連れ戻したこともあったし、『ああ、私もいつかこうなるかも』という思いはずっとあります。
母は最後、弟と妹が決めた施設に入りました。私には子どもも旦那もいないし、もし今倒れて介護を受けることになったら、どうしようかと考えると、ぞっとしますね。
ただ、この先どう老いるかは、悩んでもわからないことだし、悩み過ぎると病を呼び込んでしまいそうだから、まだあまり考えないようにしています」
パッと逝けるように筋力・体力を鍛えています
「昔は着たことがなかった赤、ピンク、オレンジなど、この髪色になってから、いろいろな色が使えるようになってうれしいですね」と語る草笛さん
そう語る一方で、「私が日々トレーニングをしているのは、人に迷惑をかけないため、パッと逝くためなんです」と草笛さん。
10年ほど前から、週1回、自宅で2時間ほどのパーソナルトレーニングを受け、筋トレや“体の軸”を整える運動をしている他、日課として朝晩のストレッチや腹筋運動も欠かしません。
「私のトレーナーや年下の男友達が言うには、日々『倒れまい、倒れまい』と、筋力・体力を鍛えておくと、あるところでパタッと逝けるんですって。もし筋力・体力が衰えて、早めに私が倒れちゃうと、長く寝込むことになって、みんなが迷惑するでしょう。
私の場合、入院でもしようものなら、『おいしいものを持ってきて』とか、うるさいことばっかり言うでしょうから(笑)。だからパッと逝けるように、日々訓練しているわけです」
ウィットを効かせながらも、真剣なまなざしでこう話す草笛さん。訓練の甲斐あって、いつもはつらつとして見えますが、2016年は脊椎の圧迫骨折を経験しました。
「骨折に気付いたのは舞台の稽古中。コルセットをして何とかやり抜き、1年ほどで回復しました。私はトレーニング中、いつも体と対話しているんです。今回も『治りたい』という体の声を聞いて、ケアしたことがよかったのかなと思います」
体との対話に加え、草笛さんが日々の習慣にしているのが、自分の心との対話です。
「私は、いつも亡くなった母に語りかけているんです。『お母さん、どっちがいいと思う?』とか『今日はあれでよかったよね』とか。それが自分の心との対話であり、反省でもあるわけです。
『きれいに生きましょう』というのが、母と誓った約束。きれいというのは、外見のことじゃないですよ。何があっても、人を押しのけたり、傷つけたり、汚い生き方はしないということ。
きれいじゃないなと思ったら、すぐブレーキをかけます。この先、自分がどう老いるかわからないけれど、最後まできれいな生き方を貫きたいですね」
草笛光子さんのプロフィール
くさぶえ・みつこ 1933(昭和8)年、神奈川県生まれ。50年松竹歌劇団に入団。53年に映画デビュー。日本ミュージカル界の草分け的存在で「ラ・マンチャの男」「シカゴ」などの日本初演に参加。その演技が認められ、芸術祭賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、毎日芸術賞など受賞多数。99年に紫綬褒章、2005年に旭日小綬章を受章。映画、テレビドラマでも精力的に活躍。著書に『草笛光子のクローゼット』(主婦と生活社刊)など。
草笛光子さん!90歳を迎えての主演映画「九十歳。何がめでたい」
©2024『九⼗歳。何がめでたい』製作委員会Ⓒ佐藤愛⼦/⼩学館
直⽊賞をはじめ数々の賞を受賞し、2023年11⽉5⽇に100歳を迎える作家・佐藤愛⼦のベストセラーエッセイ集『九⼗歳。何がめでたい』の実写映画化が決定!2023年10⽉22⽇に“90歳”を迎え、益々活躍の幅を広げる草笛光⼦さんが実在の主⼈公・作家 佐藤愛⼦を演じます。(2024年6月21日(金)全国公開)
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=浅井佳代子、ヘアメイク=尚司芳和、スタイリング=清水けい子(SIGNO)、衣装協力=Theory luxe※この記事は、雑誌「ハルメク」2018年4月号を再編集しています。
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