【人生相談】「会話が下手な夫」と一緒にいても楽しくない……子育てが終わった後、夫婦はどうすべき?
ハルメク365 / 2024年10月28日 11時50分
「50代からの女性のための人生相談」は、読者のお悩みに専門家が回答するQ&A連載。今回は58歳女性の「会話が苦手な主人といても楽しくない」というお悩みに、仏教の教えをわかりやすく説いて「穏やかな心」へ導く住職・名取芳彦さんが回答します。
58歳女性の「会話が苦手な夫といても楽しくない」というお悩み
結婚生活20年、大学生の子どもが1人います。
そろそろ子育てを終えようとしていて、ふと周りを見ると、夫婦二人だけに。おしゃべりが苦手な主人と一緒にいても、休日が楽しくありません……。今後定年することを考えると……寂しくなります。
これから生きる上でのハッピーな考え方を教えてほしいです。
(58歳女性・MAさん)
名取さんの回答:無口なご主人にこそ積極的におねだりを
我が家の子どもたちが小学生だった頃、家内に「親の責任ってどこまでだと思う?」と聞いたことがあります。そのときは「成人するまででしょ」という答えでした。10年ほどして同じ質問をすると「結婚するまでよ」と責任のゴールが先送りされました。
私は「最終学校を卒業するまで」と漠然と考えていましたが、子どもの立場からすれば、私は父や母に「生んでくれただけで、責任は十分果たしてくれたよ」と言いたい気持ちでした。
親が思う「親の責任」と子どもの考える「親の責任」には、ずいぶん違いがあるものです。
MAさんは、大学生になったお子さんに対して「子育てを終えようとしている」とおっしゃっているので、最終学校の卒業までが親の責任としていらっしゃるかもしれませんね。
おしゃべりが苦手なご主人は、親の責任についてどう考えていらっしゃるのでしょう。正解はないでしょうが、「父よ、言いたいことはハッキリ言え。母よ、言いたいことをそのまま言うな」という格言(?)が好きな私は、ご主人の口からどんな言葉が紡ぎ出されるのか、個人的にとても楽しみです。
さて、当面の課題は、おしゃべりが苦手なご主人と一緒にいる時間が増えることのようですが、無口なご主人なら、MAさんのおっしゃることには文句や不平を言わず、たいがいのことは聞いてくれるでしょう。だとすれば、ラッキーです。
無口であるのをいいことに、行きたいところ、食べたいものをおねだりしてみてはいかがですか。
ちなみに「ねだる」は漢字で「強請る」。強請は「無理に頼むこと。無理にせがんで求めること」といった愉快な意味です。つまり、MAさんのやりたい放題です。
一緒にいればおしゃべりの訓練ができて共通項がつくれる
せっかくご夫婦になったのですから、どこへ行くのも、何を食べるのも“なるべくご主人と一緒に”という条件を付けた方がいいと思います。それが、ご主人にとっておしゃべりの訓練の場になります。
仏教では、相手との共通項に気付けば慈悲が発生すると考えます。エレベーターに知らない者同士が乗り合わせたら、心の距離を縮めるために「今日はいい天気になりましたね」など、共通項の天候や時事問題を話題にするのはご承知の通りです。
すでにご主人と20年間も同じ時間、同じ空間で過ごしていらっしゃるので、お二人には共通項が山ほどありますが、子育てが終わりに近付いてきた中で、ご主人と一緒に出掛け、食事をするのが、お二人の新たな共通項づくりになります。
MAさんの今回の相談に対して、「ご主人なんか放っておいて、自分の好きなことを見つけて仲間をつくり、どんどん楽しめばいい」という回答もアリですが、心穏やかに生きるために慈悲を説く坊主としてはおすすめしません。共通項がつくれないからです。
楽しみながら「ご主人おしゃべり化計画」を実行しても
おしゃべりが得意(?)なMAさんなら、ご主人に対して呼び水代わりにどんどん話し掛けて、ご主人に話をさせることもできるでしょう。
例えば「今日、朝起きてから今までにあなたが見た・聞いた・嗅いだ・食べた・触ったことで印象に残っているのは何?」と聞いて、「味噌汁がおいしいと思ったよ」とご主人が答えたとします。
そこで「おいしいと思ってから何を感じたの?」と聞き、ご主人が「別に……」などと答えたら「“この味噌汁は、女房が作ってくれたんだな”と思わなかった?」という具合です。
あるいは「一日一回くらい、私が喜びそうなことを言っても罰は当たらないと思うんだけど」と笑顔で伝えてみるのもいいかもしれません。
そんなことは面倒なのは百も承知です。しかし、何もせずに、これから迎えるであろうご主人との寂しい時間を考えれば、それくらいの努力は今からなさった方がいいでしょう。
楽でなくても、楽しむことはできます。
“これでもしゃべらないなら、こっちでどうだ”と楽しむくらいの気概で、お子さんにも手伝ってもらって、「ご主人おしゃべり化計画」を実行されてはいかがでしょう。それもMAさんがハッピーになる一つの方法です。それができないほど、人生は短くないでしょう。
ヘレンケラーは「幸せの一つの扉が閉じると、別の扉が開く。しかし、私たちは、閉ざされた扉をいつまでも見ているために、せっかく開かれた扉が目に入らないことが多いのです」という言葉を残しました。
子育てという扉が閉まろうとしている今、MAさんには、ご主人とハッピーに生きる扉が開き始めているのだと思います。たくさん共通項をつくって、ご主人を巻き込んだハッピーな時間をお過ごしください。
回答者プロフィール:名取芳彦さんなとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)など、著書多数。
構成=渡邊詩織(ハルメクWEB)
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