仕事、結婚…生き方を選ぶ。 #3/フリーランス・塩谷舞さん『場所を変えれば心境も、働き方も変わる。』
Hanako.tokyo / 2020年11月19日 18時0分
働き方に結婚、出産や自分の体について…、日々は選択の連続。突きつけられる選択肢に迷ったり、間違ったり、軌道修正をしながらも、自分の道を歩み続ける、わたしたちの話。「どこで」「誰と」「何をして」働くのが自分にとって心地よいのか。理想を追い求め、動き続けている人々の話。今回は、フリーランス・塩谷舞さんにお話を伺いました。
東京での仕事を続けながらゆるやかにスライドする。
「どこで働くのがベストなのか」、誰もが今年一度はそのことについて考えただろう。環境を変えれば働き方しかは変わり、逆も然り。渡米して2年になる執筆家・塩谷舞さんに、移住で変化したことについて聞いてみた。「日本ではフリーランスとしてメディアで編集長を委託されたり、クライアントワークを中心に活動してきました。渡米後も、しばらくはそれらの仕事を継続していたんです。けれどふつふつと執筆への興味が強くなり、クライアントワークを徐々に減らして、最近やっと執筆活動だけで生活できるようになってきました。『(移住について)思い切ったね!』と言われることもあるのですが、実際は東京の仕事を継続しながらの移住だったので、『一歩踏み出した』というほど思い切ったわけではなく、踏み出したのは半歩ずつ。自分なりにかなり慎重にしっかり保険をかけていたんですよ(笑)」
国外に飛び出して、書きたいことが変化した。
上京して6年、東京での暮らしに少し閉塞感を感じるようになっていた頃、アーティストのパートナーの「ニューヨークに住みたい」という希望を受けて、移住を決断した。「私自身、そろそろ『東京ではないどこか』で働くのもいいかなと思っていたのですが、海外経験はゼロで英語もしゃべれなかったので、まさか渡米するとは。でもアーティストの彼のことを考えれば、良い選択だと思ったんです」
そうして住まいを移したことは、塩谷さんの仕事にも大きく影響した。「東京で暮らしていた時には、目の前のことしか見えていなかったと思います。日本語というハイコンテクストな言語を使い、だいたい同じ人種、だいたい同じ文化背景の人とばかり過ごしてきたので、文化背景の違う人々と出会ったことで、物事を俯瞰する視点が身につきました。“フリーランスの物書き”はすごく小回りが利く働き方。その利点を生かして、広い世界を見て感じたことを伝えていきたいと思っています」
苦労したことで見つけた自分の新たな強み。
国外に飛び出して、書きたいことが変化した。もちろん初めから順風満帆ではなかった。パートナーもフリーランスで、互いに不自由な英語を勉強しながらの移住生活の始まりだった。「一番大変だったのはビザですね。本当に、お金も時間もストレスもかかる!粘り強く頑張るしかなかったです。次に大変だったのは言語。ニューヨークは、外から野心のある人が集まってくる街。言語が拙い人をわざわざ歓迎してくれるわけでもなく、営業しようとしても相手にもしてもらえなかった。そんな状況を打破するために考えたのが、『ビジュアルで訴えかけること』でした。物書きなのに、意外な選択肢ですよね」それまで言葉にフォーカスしていたのと同じくらい、目に映るものに注意を払った。そして自分の琴線に触れたものをインスタグラムのフィードに載せていくと、思わぬ反響があったそうだ。
「言語ではなく、美意識を通して人と出会い、人と繋がることができました。そして『美しいもの』を意識しだしたことで、それまで見逃していた日本の道具や物作りの美しさにも気がついたんです。ニューヨークで出会った人々もそれに関心を持ってくれて、そこからさらに私の文章や夫の作品にも興味を持ってくれる人が現れ、良い循環が生まれました」
慣れない環境をサバイブするために見出した新たな手段によって、さらに仕事の幅が広がったという塩谷さん。最近ブルックリンの中心部からニュージャージーへと住まいを移した。「また何が変化するか楽しみ。いつかもっと自然豊かな場所に家族で移り、夫はゆっくり制作に集中して…という将来像も思い描いています」「どこで働くのか」から考え始めると、思いもよらぬ扉が開き、新しい働き方が見つかることがあるようだ。
迷った時の支え…『こといづ』 高木正勝
「里山で暮らす音楽家、高木正勝さんの綴る文章を読むと、良い文章を書こう、良い時間を過ごそう…なんて欲深くなっている時でも、まるで草や花や野菜の声を聞いているような気分になり、自分の中にある邪気をみるみるうちにリセットしてくれます」(木楽舎/1,800円)
My decision
・場所を変えれば心境も、働き方も変わることを知る。
・一歩と言わず半歩ずつでも、保険をかけながら進む。
・行き詰まったら、新たな手段を使ってみる
Biography
・2009:大学在学中に、フリーマガジン『SHAKE ART!』を創刊する。
・2012:上京。〈CINRA〉入社。ディレクターを経て、広報・PRに。
・2015:独立。Web制作や〈BAKE〉オウンドメディア編集長を務める。
・2017:自身のメディアmilieuを立ち上げる。執筆活動を本格化。
・2018:渡米。noteでの月額マガジンをスタート。
・2020:住まいをブルックリンからニュージャージーへ移す。
塩谷舞(しおたに・まい)
京都市立芸術大学卒業。大学時代より展覧会のキュレーションやメディア運営を行う。会社員を経て、2015年独立。オピニオンメディアmilieuを立ち上げる。現在ニュージャージー在住。
(Hanako1190号掲載/photo:MEGUMI, Tomo Ishiwatari, Andy Jackson, Keiko Nakajima, Naoto Date illustration:Manako Kuroneko text:Rie Hayashi, Mariko Uramoto, Makoto Tozuka, Miho Oashi, Rio Hirai edit:Rio Hirai)
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