自分の好きな音楽で場所を探す新しいカタチ。地図アプリ「Placy」が目指す、まちを守るための指標とは。
Hanako.tokyo / 2021年4月14日 12時0分
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第22回は、Hanako編集部が地図アプリ「Placy(プレイシー)」を取材。創業者である〈株式会社Placy〉代表取締役・鈴木綜真さんに話を伺いました。
音楽と場所を紐づける新しい地図アプリ
「Placy」とは、音楽配信サービスと連動し、自分と同じ曲を好む人が訪れた場所を地図上で表示してくれるというサービス。
「以前から他人がつけた点数や評価で行き先を決める口コミサイトに疑問があり、もっとお店の雰囲気が伝わるような、感性的に場所が探せる機能がほしかったんです。また場所を検索するとき、“池袋 喫茶店 おしゃれ”と、自分が訪れたい場所をキーワードに変換して入れますよね。でも実際、言語で表現されていない空間や場所は変換しづらくて。曲名やアーティスト名を入力すると趣味にあった場所が表示される、新しい検索方法があってもいいのではないかと思い『Placy』を立ち上げました」(鈴木さん)。
現在は全国に展開し、登録されている店舗数は約20万箇所。注目すべき機能は、有名アーティストが想い入れのある場所とエピソード、それに紐づく音楽を紹介する「プレイスリスト」である。
「なぜその場所にその音楽を選んだのか、明確な理由がある人もいればない人もいておもしろい。普通なら自分が行った場所なんて教えたくないと思うんですよ。ただコロナ禍もあり、お店を助けようとたくさんの方々が協力してくれました」(鈴木さん)。
そのほか、行政や音楽レーベルと一緒にエリアのプレイリストの作成も行なっている。
「最近では渋谷区と組み、区内の店舗に『お店を表す音楽を教えてください』と声がけ。選ばれた音楽をもとにプレイリストつきのガイドマップを作成しました。いままでは“渋谷のラーメン屋10選”などカテゴリ別だったのが、音楽でまちを編集することで、店舗をジャケ買いするという新しい発想がうまれる。この取り組みは好評で、岡山市内の店舗紹介マップのときは、初めて訪れた人でも奥地にある穴場スポットまで連れていけると喜んでいただきました」(鈴木さん)。
ちなみに、一般ユーザーが登録することも可能。ただし、チェーン店ばかりになってしまわないよう、「『Placy』を利用している人がそのお店が出てきてうれしいかどうか」慎重に判断してから登録の可否が決まるそう。
地道に活動を続けて、いつかは「街の感性・雰囲気をあらわせる指標」がつくりたい
〈株式会社Placy〉代表取締役・鈴木綜真さん。
そもそも事業を始める背景には、学生時代に研究していた「空間解析」がある。
「都市空間の中にあるさまざまな要素をデータ化して、その場所の特徴を調べるということをしていました。ただ進めていくなかで、病院の数などのデータだけでは、都市の雰囲気までは説明できないのでは…と。このままでは味のない、合理的・効率的な都市になってしまう。そこで、人がなんとなく感じているような場所のにおいや雰囲気、音をデータ化して取り込めば、その場所の魅力が伝えていけると思ったんです」(鈴木さん)。
ちなみに、鈴木さんが想う理想的な都市は?
「すぐにあげるのはむずかしいですが、個人的には西日暮里が好きです。ぽつんと立っていたら、タクシーの運転手さんが『一緒にタバコ吸わない?』とフランクに声かけてきたり、想像できないことがよく起きる(笑)。オフィスだらけで、どこも同じようなまちになってしまうとそういうことも起きなくなってしまうから、もったいないなあと思います」(鈴木さん)。
まちの均質化を防ぐため、鈴木さんは空間の文化・感性的な価値の指標化を目指している。
「世の中の人たちが“いい”と思っているものは、数字や言語にしないと汲み取られていきません。活動を短期的にみれば空間のブランディングや誘客・送客だと思いますが、長期的であれば街の感性や雰囲気が表せる指標をつくらなければいけない。ただ僕たちのようなスタートアップではなかなかむずかしいですし時間もかかるので、いまは大手企業と力を合わせて空間のブランディングや誘客・送客を続けていこうと思います。そして、新しい指標でまちのブランディングをし、たくさんの人に来てもらうなかで、『この指標は意味があるよね』ということをしっかり見せる。地道ですが、できたときの成果は大きいと思います。そのためにも音楽だけではダメなので、今後は本や映画、アートなど多くのカルチャーコンテンツと場所を紐付けてその場所の魅力を発信し、しっかり文化や感性を表していきたい。ゆくゆくは国際的な指標を目指しています」(鈴木さん)。
「Placy」に参加する店舗側の想いとは
アプリではアーティスト、ユーザーのほか、店のオーナーも音楽が登録可能。写真や文章ではない、新しい方法で宣伝ができると好評だとか。そこで、今回は特別に「Placy」を利用している2店舗にも話を伺いました。
〈PAPIER TIGRE〉日本 ブランドディレクター・中山千明さん。取材当日は鈴木さんも足を運んだ。
ブランドのグラフィックをいかしたメイドインジャパンの布製品。
地産地消、再生紙を使用したノートはお店の人気商品。
自然光がたっぷり入る、ガラス窓に覆われたお店は、古い建物をリノベーションして完成した。
〈PAPIER TIGRE(パピエ ティグル)〉は、フランス・パリ発のステーショナリーを中心としたプロダクトブランド。「Placy」では、店内でも流しているBrothertigerの『This Must Be the Place (Naive Melody) 』を登録。
「店内のBGMはフランステイストや明るいテンポの音楽で、お客様が喜んでくれるような空間づくりを意識。『Spotify』を利用し、何組かのアーティストをシャッフルで流しています。『Placy』の第一印象は、ずばりおもしろそうだなと。アプリを通して、お店に直接行かなくても雰囲気がわかってくれたらいいなと思い参加しました。新しい取り組みは、広がることでさらに新しい発見があると思います。まちが元気になるきっかけになるので、ぜひ頑張ってほしいですね」(中山さん)。
〈PAPIER TIGRE〉が未来のために取り組んでいることは?
「ブランドスタート時から、メイン商品のステーショナリーはパリで製造するなど地産地消を意識し、ノートは再生紙を使用するなど環境保護にも取り組んでいます。また、日本直営店ではブランケットやソックス、バッグなど日本で企画された布系アイテムがそろっているのでぜひ遊びに来てほしいです」(中山さん)。
〈HANABAR〉 オーナー・油井大樹さん。ご自身も大の音楽好き。
店内に飾られている華やかなドライフラワーにうっとり。
自粛中に販売を始めた「お花のマフィン」(左)は大人気。「お花のカクテル」(右)と一緒にテイクアウトして。
ダイニングバー〈HANABAR(ハナバー)〉では、店内でも流しているOwenの『Borne on the FM Waves of the Heart』を登録。のオーナー・油井さんは、音楽に特別な想いがあり参加した。
「料理のおいしさや接客、内装は目に入ってくるけど、音楽ってないがしろにされがち。末端にまで意識がいき届いているお店は素敵だなと思うので、〈HANABAR〉では音楽を重要視しています。選ぶ基準は、日本語ではなく英語で耳障りがよく、会話の邪魔にならないこと。さらに、素敵な空間になるような曲をチョイスしています。『Placy』で登録した『Borne on the FM Waves of the Heart』は、ドライフラワーに囲まれた空間で、映画や物語の世界に浸ってほしいという想いで選びました」(油井さん)。
「Placy」のように、〈HANABAR〉でも将来を意識した取り組みを行なっている。
「お店で出す料理はどのスタッフが作っても味が変わらず、食材のロスがないレシピに。また、自身がそうであるように、人の能力は完全ではないと思っているため、みんなで協力しあえる環境づくりを意識しています。自然が多い田舎で育ち、人一倍環境に対する意識が強かったのと、学生時代に福祉を学んでいたため、考える土台があったのかもしれません。『Placy』の取り組みはおもしろいですし、なにか協力できることがあればと思い参加しました。アプリを通して、お店に来てくれるお客様が増えたらうれしいなと思います」(油井さん)。
選択肢が増えたいまこそ、「Placy」を使ってほしい
「いままでは場所を選ぶとき、“オフィスから近いか”、“値段は安いか”など機能的な面を重視していたと思います。ですが近年コロナ禍になり、オンラインが発達したことで、自由に、好きな場所で何でもできるようになった。コロナが落ち着いたら、人々の移動は増えると思います。自分が好きかどうかで選べるからこそ、『Placy』を参考にしてくれたらうれしいですね。そしてアプリを通して、まちやお店を守っていけたらと思います」(鈴木さん)。
「Placy」
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