文学好きの聖地!鎌倉文学館へ。「字は物を言う」編
Hanako.tokyo / 2021年7月7日 12時3分
ちいさな美術館を巡って、作品から思いを馳せるこちらの連載。第7回目の舞台は、鎌倉にゆかりのある文豪たちの直筆の原稿や手紙などが展示されている〈鎌倉文学館〉。そこには、太宰治が川端康成にあてた、それはもういじらしい長い長い手紙など、文学ファンにはたまらない空間が広がっていました。
私のときめきが詰まった博物館。
緩やかな山を登っていくと現れたのは、まるでタイムスリップしたかのようなレトロで重厚なお屋敷。太宰治、川端康成、澁澤龍彦、そして三島由紀夫。その名を聞くだけで胸が高鳴る私にとっての“アイドル”たちの痕跡が、ここに眠っている…。入口を前にして、既に私のテンションは最高潮に上がっていました。
「字は物を言う」
最近出会った先輩は、筆跡鑑定ができるらしい。早速、台本に書き込んだ私の字を見せに行くと、「自由奔放で大胆だね。強いから一人で生きていける」と言われた。「もっと細かいことは、別代金。けど特別に、友達割引で半額の3,000円にしてあげるよ」とのことだったので、もちろん続きは見てもらっていない。でも、無料鑑定の結果がなんだか、嬉しくはないけど身に覚えもある気がして、それから字を書くときは、なんとなくか弱そうにとか、無駄な自意識が働いてしまう。
さて、私の字がどんなものかというと、まず筆圧が強い。シャープペンシルだと私の筆圧に耐え切れず芯が折れてしまうので、右手の小指を真っ黒にしながら鉛筆を使って書くしかない。ついで特徴的なのは、文字が大きいことだろうか。小さな文字が書けないために、ノートは二行分のスペースを使って、一行をなんとかおさめる具合だ。特に「ありがとうございます」ならば「あ」と「す」が三行分ぐらいに大きくなるので、ノートの消費は激しい。手紙は内容の割に、なんとなく長く見える。
極めつけは、決して読みやすい字でないということだ。学生時代、前日風邪で授業を休んでいた友人に、ノートを貸そうかと言ったら、「夏子の字は読めないからいい」と一刀両断された。なんだかえらく傷ついたので、それから自分からノートを貸してあげようなんていう優しさは捨てた。こうやって“一人で生きていける”字が出来上がっていったのではないかと思う。
「癖が強すぎて何を書いてあるかが分からない“和風居酒屋”のメニューの字みたい」。いつだったかそんなことを言われたのも思い出した。
だから澁澤龍彦さんの直筆を見たときには、とにかく驚いた。あの、“澁澤龍彦”が、こんなにも丁寧で、少し拙くて、少年のような字を書くなんて。字を見た瞬間、初恋みたいに胸がギュッと締め付けられた。
どうやら、あの『快楽主義の哲学』も、この字で原稿用紙に書かれていたらしい(ちなみに『快楽主義の哲学』は、私の少ない人生の中で、最も辛かった時期に「したいように生きろ」と教えてくれた大事な本です)。
そうだ! 先輩のところに澁澤さんの字を持っていって、筆跡鑑定してもらいたい。「澁澤さんは友達じゃないから、6,000円ね」とでも言われるだろうか。
今回訪れたのは…〈鎌倉文学館〉
バルコニーから一望できる青々しい緑とキラキラ光る湘南の海。もしかしたら、私の大好きな三島由紀夫も、この高台からから夕日を眺めていたのかもしれない。そう思いながら読む『夏子の冒険』は格別のものでした。
私をときめかせたこの立派なお屋敷は、かつて旧前田候爵の別荘だったそう。
〈鎌倉文学館〉
神奈川県鎌倉市長谷1-5-3
0467-23-3911
月休(祝の場合は翌日開館)
9:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料500円(展覧会により異なる)
※普段、館内は撮影禁止です。
photo : Yumi Hosomi
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