連載100回記念!鎌倉〈BREAD IT BE〉の森田シェフにインタビュー【前編】
Hanako.tokyo / 2021年8月19日 12時0分
2017年6月から始まった連載『花井悠希の朝パン日誌』。4年の月日が流れ、ついに大台に突入しました!さあ、100回目はどう迎えようか…行き着いた答えは、“パン職人さんに1から10まで聞きたい!”。どのようにしてパンと出会い、向き合い、付き合ってきたのか。長年、パンと対峙されて来たからこその想いを改めて言葉にしてもらうことで、違う視点からパンをもっと感じられる気がしたのです。
そんなわがままを聞いてくださったのが、鎌倉にあるパン屋〈BREAD IT BE〉の森田良太シェフ。“ビートルズをクラシックで”をテーマに活動を始めた〈1966カルテット〉の一員として、この店名は聞き逃せませんが、惹かれるのはそこだけではありません。一口目からおいしい衝撃が走るパンたちからは並々ならぬこだわりを感じ、お店の内観やグッズにはビートルズのほか、様々なアーティストのエッセンスが散りばめられている。きっとそのこだわりはパンだけに収まらないはず!ということで、こだわりを目一杯聞かせてもらいたいなと思い、お店にお邪魔してきました。
「グッズを作りたい!」から始まった店名のワケ
森田良太シェフ。
森田さんは〈株式会社フォンス〉のベーカリー統括責任者として、長年〈THE CITY BAKERY〉、〈ベーカリー&レストラン 沢村〉のレシピ開発をされている方。その森田さんが一店舗まるっと任せられたのが〈BREAD IT BE〉です。店内にはビートルズのレコードが壁に飾られ、マイケル・ジャクソンにストーンズ、ピンク・フロイドのアートワークなども。そして何より気になるのは「et it be」と同じ字体で輝く〈BREAD IT BE〉のロゴ。店名にはどのような想いが込められているのだろう?まずはその質問からスタートです。
「横文字の店名にしたくて。というのも、グッズを作りたいというのが最初から構想にあったので、作るなら横文字の方がかっこいいな…と10個ほど考えました。その中で、意味合いとしてもいいなと思った〈BREAD IT BE(パンであれ)〉に」。
ーーここはずばり聞いておきたいところ!ビートルズのファンなのでしょうか?1番好きな曲は何ですか?
「ビートルズはもちろん好きでずっと聴いています。曲を絞るのは難しいですが…。とはいえ、音楽全般好きですね。お店でパンを作るときにも好きな曲を流したり、音楽はずっと身近にあります」。
早々にやってしまいました。私もよくビートルズでどの曲が1番好きですか?って聞かれて、絞れなくて答えに困っているのに。真っ先に自分も同じ質問をしていて驚きます(学習しない人)。
「あ、でもビートルズの中で1番聞いていたのは『リボルバー』の頃ですかね。ジョージ・ハリスンの作る音楽が好きです」。
おお!ジョージ好きさんでしたかー!ジョージ話が弾んで少し緊張していた心が、このあたりで少しほぐれてきました。2020年にオープンした〈BREAD IT BE〉。〈ベーカリー&レストラン 沢村〉、〈THE CITY BAKERY〉とたくさんのパン作りに関わってきた森田さんだからこそ、ここで表現したかったこと、やりたかったことは何なのか。1番聞いてみたかったことに迫ります。
自家製粉用の石臼。
「規模が大きくなりスタッフが増えるにつれて、より高度な技や感覚じゃないと伝えられない細かな部分のレシピは、自分の目の届く範囲じゃないとなかなかできないなと感じていて。今回、石臼をお店に初めて入れたのですが、石臼で挽く小麦というのは日々ぶれたりするのでコントロールするのも大人数には伝えきれません。なるべく少人数で出来る規模のお店を、と〈BREAD IT BE〉を作りました。これまでも一切妥協なくレシピ作りをしてきましたが、自分が1から10まで作るのと、新しく入ってきた人たちが作るのでは多少ぶれたりするので。許容範囲をどこにするかは日々葛藤でした。でもレシピがちゃんとしていれば、経験の差があってもある程度のものは出せるんです。このお店はその許容範囲の点数を狭めた感じです」。
ーー森田さん以外にスタッフの方は4人。旧知の仲間でこだわりを妥協しないパン作りをしています。そうして作られる“BREAD IT BEらしいパン”とは、言葉にするとどういうものなのでしょうか?
「レシピ自体は他店と大幅に変えているわけではありません。ただ、もう少し突き詰めた表現にしています。水の量を増やせば扱いづらくなる分、もっちりするし、しっとり感が増します。そういう極限のところまでチャレンジしています。石臼の自家製粉などの材料もそう。製粉会社のものなどは規格がしっかりしているけど、自分たちで挽くとなると湿気ていたり、夏場と冬場で乾燥の度合いが違ったり、細かさも微妙に変わってくるため、ケアできるようにしないといけません。デメリットもあるけど、やはり挽きたてじゃないと出せない味がある。製法など作りづらくなったり難しさが増す分、おいしさも増してくるので。そういう点を追求したパンです」。
ーーそれらが1番感じられるパンというと?
「『BIBバゲット』ですね。石臼挽きの自家製粉が4割入っているのと、国産小麦だけを使い全部で5種類の小麦を混ぜています。あとは、神奈川県秦野産の小麦を使った『秦野産小麦自家製粉コンプレ』も50%は自家製粉で作っています」。
一口目から強烈に香る小麦の香りと甘みにノックアウトされてしまう「BIBバゲット」。水分たっぷり、気泡もたっぷりでふっくらと立ち上がる生地、エッジが香ばしい苦味を放つクラスト。どの瞬間にも小麦が強烈に冴え渡り塩気がまとめあげます。バゲットとバターのタッグが大好きな私でもバターの出る幕がありませんでした。
一方「秦野産小麦自家製粉コンプレ」はしっとりと柔らかな口当たりの生地を介して小麦の甘みが膨れ上がります。優しい甘さが心と体のささくれだった部分を治癒してくれそう(※個人の感想です)。
「BIBバゲット」
「秦野産小麦自家製粉コンプレ」
ーー季節のパンなども多く取り揃えていらっしゃいますが、パンのレシピというのは何度も色々な組み合わせを試作していく中で見つけていくのでしょうか?それとも、日常の中で閃きに近い形でアイデアが思い浮かぶのでしょうか?
「どちらかというと後者ですね。あまり何回も作りません。レシピを思いついたら考えて大体1、2回くらいで作ります。逆に5、6回もやってあまり納得がいかなかったらやめちゃいます。具材がいっぱい入っているものは、ベースの生地に合いそうな物をバーっと思い浮かべて足し算していきます。コーヒーベースの生地なら、チョコレートが合うな、ラムレーズンやオレンジも合うな、ナッツも合うな…と足していって、ぶつかるかな?というものを引き算する。でも大体ベースとなるものに合わせるのは、他の具材同士も合うんです。自分が好きなアーティストのコンピレーションアルバムには、いろんな自分の好きなテイストのアーティストが集まってくるのに近いというか。類は友を呼ぶというか」。
ーー小麦は時期によって扱いや状態が変わってくると聞いたので、綿密な設計図をもとに繰り返し試作を重ねているのかと思いました。
「新しい粉とかを使用するときは1番最初にバゲットをその粉だけで作るんです。そうすると、水をどれくらい吸うのか、もちっとするのか、バリっとした食感なのか特徴がわかりやすいので。それぞれの粉の特徴を把握して覚えておけば、あとは組み合わせていけます」。
ーーくぅぅ!かっこいい!!さらりとおっしゃいましたが、これは長年の経験と感覚の賜物ですね。
動機は不純?パン屋さんになったきっかけ
ーー料理は作るのも食べるのも好きだと言う森田さんは、実は元々料理人。横浜の中華街の名店でキャリアをスタートされました。パン屋さんの道に進むきっかけは何だったのでしょうか?
「最初は不純な動機で(笑)。元々、中華料理をやっていて、自分の中で30歳までには独立したいという気持ちがずっとありました。その頃、日本はパンブームで、パン屋が“ブーランジェリー”という名前で出始めて、おしゃれなパン屋さんが東京や横浜に増えてきたんです。代官山に〈アルトファゴス〉というパン屋があったり、〈ルヴァン〉ができたり、〈徳多朗〉さん、〈ナイーフ〉とかがでてきた頃。いまから20年ほど前のことです。
地元の埼玉にはおしゃれなパン屋さんはなかったので、仕事にしようとは思っていなくて。横浜に引っ越してきてお店を巡っているうちに、作られているものは食べたことのないものばかりだったし、バゲットってこんなにおいしいのかとパン屋に対する目線が変わって、かっこいいなと思うように。惹かれていくと同時に、パン屋なら30歳までは独立できるだろうという浅はかな考えもあり、パンの道に入ったら、とんでもなかった(笑)。パン屋ほど初期投資がかかる飲食店はないです」。
そういって笑う森田さんがなんだか楽しそうで、私までうれしくなる。ありがとう、20年前のパンブームよ。このブームがなかったら私がこのお店に出会うことも、このパンを味わうこともできなかったんですもの。不純なんてとんでもない!これこそ、運命って呼ばせてください(誰)!
ーーそれでは、子供の頃からパン好きというわけではなかったのでしょうか?
「父がパン派だったので、朝ご飯は必ずパンでした」。
パン好きなのはそこから始まっているらしい…。朝ごパンの話が出てきたところで、次回は森田シェフの朝におすすめのパンやドリンク、個人的に好きなパンなどもインタビュー!そして、お店に行ったら1つは必ずゲットしたいグッズのこだわりも熱く話してくださったのでお届けします。お楽しみに!
〈BREAD IT BE〉
神奈川県鎌倉市小町2-16-35
0467-33-4680
9:00〜18:00(売り切れ次第、閉店)
水、第2木曜休
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