〈按田餃子〉店主の三浦半島での暮らし方。自然豊かな土地で気づいた、食べることの面白さとは?
Hanako.tokyo / 2021年11月22日 18時0分
オリジナル水餃子が人気の〈按田餃子〉。店主の按田優子さんが三浦半島に住まいを構えた。海に入り、土に触る。自然豊かな土地で新しくはじめた生活の中で気づいた、食べることの面白さ。無理なく、楽しく、環境にも負荷をかけない暮らしぶりを見せていただいた。
冷蔵庫に頼らない食品の保存方法を考える。
東京・代々木上原と二子玉川で〈按田餃子〉を営む按田優子さん。並んででも食べたい看板メニューは、ハトムギ配合のもちもちの皮に包まれた水餃子。鶏肉にパクチーとキュウリ、豚肉に大根とザーサイ、豚肉と人参のカレー風味など具材のバリエーションも豊富で、お持ち帰りやオンラインショップも人気だ。料理研究家としても活動し、雑誌でもレシピを提案している按田さんが、東京と三浦半島の2拠点生活をはじめたという。
おいしい食材を求めてのことかと思えば、海が好きだから、というシンプルな理由。「毎日泳ぎたい、海の近くに住みたいと思っただけなんです」と笑う按田さん。海まで自転車で10分という理想の場所を見つけた。「週に3日、都心と行ったり来たりしているおかげで、食材の保存についてより考えるようになりました」もともとは3・11の地震がきっかけ。冷蔵庫に頼らない食生活を実践しているという。冷蔵庫のコンセントを抜いて過ごしたこともあるのだとか。そのとき、食品の保存は「塩」と「干す」ことだと気が付いたそう。
「野菜は塩水漬け、肉や魚は塩漬けにしておけば日持ちするので、家をあけるときも安心です。乾物は長期保存できる便利な食材。お米は秋に収穫して、それを1年間食べますよね?乾物も同じ。場所もとらず、賞味期限を気にすることなく少しずつ使えるので重宝しています」
1.漬物と乾物をフル活用。
大根の皮などの野菜くずも塩水漬けにすればおいしい。さやいんげんやオクラなど、さまざまな野菜を入れるのも実験のようで楽しい。
毎年、拾った梅で梅干しを漬けている。
漬物と乾物は、日本の保存食の代表。〈按田餃子〉でも作っている塩水漬けは、水量に対して6%の塩を入れ、水と同量の野菜を漬けて数日置き、乳酸発酵させたもの。水が白く濁ってきて、おいしい酸味が出てきたら成功。野菜をどんどん足していくことができ、次の日でも2週間後でも味は変わらないので、家をしばらく不在にしても安心。乾物は、海で拾った海藻を使って作ることも。「海藻は戻すと10倍ほどになるので1食分になります」
乾物は、豆類、海藻、きのこを常備。
2.冷蔵庫やラップは必要最低限。
カットしたレモンは、そのまま切り口を自然乾燥。乾けば果汁も出てこないので保存しやすい。
ふたり暮らしの按田さんの家の冷蔵庫は、驚くほどコンパクト。冷蔵庫に入れるのは最低限のものだけ、料理は食べきれる分だけ作れば保存容器もラップも必要ない。保存したいときは、食品が入っていたパッケージを再利用。「プラスチックフリーをしたくても、食品の包装などに使われているので完全にゼロにすることはできません。せめて、使い捨てるのではなく再利用することにしました。乾物が入っていた袋は、洗う必要もありません」
使い終わった袋をまとめて保管。
昆布が入っていた袋に塩豚を入れて。蓋碗を保存容器として利用するアイデアも。
この土地で採れたものを感謝しながらいただく。
東京よりも季節のうつろいを強く感じられる自然豊かな三浦半島に住み、献立の作り方も変わったという。「旬のものは手に入りますが、逆に都内と違って珍しい野菜なんかはまったく手に入らない。だから、献立はとてもシンプルになりました。飲食店もそんなにないですから、三食ほぼ質素な自炊です(笑)」数カ月前から家庭菜園をはじめたそう。芽が生えてきた生姜やじゃがいもを植えたり、ヘチマを買ったらついてきた種を植えたりと、実験のように楽しんでいる。
「野菜は作ってもいますが、先住のみなさんからいただくことも多いです。家のすぐ近くに畑を持つ大家さんが無農薬で野菜を育てていて。今もみかんが鈴なりになっている。自由に食べていいよって言ってくれるから、いつもいただいています」また、自然の中で食べられるものを見つけて、拾うのが好きという按田さんにとって近所の散歩コースは食材の宝庫!道端のシイの実は、炒ってから殻を剥いて食べる。ご飯といっしょに炊くと意外とおいしいのだそう。ほかにも、浜辺に落ちている栗やくるみ、岩場では流れ着いた海藻だって拾える。「わかめのように使えるんですよ」楽しそうな按田さんの話を聞くと、あれもこれもと欲張るより、自分の住む土地で採れるもの、その時々に食べられるものを賢く楽しむコツを身につけたいと心から思った。
3.野菜は近くで買う、作る、もらう。
近所には、農園や個人でやっている畑が多く、無人販売所があちらこちらに。畑の先輩が作る野菜は、どれも新鮮で立派。おすそわけ気分で販売しているので、どれも安いのもうれしい。「散歩の途中で立ち寄っています。気軽に旬の野菜や果物が買えるのが便利」
家から車で5分の距離にある貸し農園で野菜作り。まだ収穫できるものは少ないが、育つ過程を見ているだけでも楽しいのだそう。今は、冬野菜の大根や葉物野菜がすくすくと成長中。ご近所さんからもらう野菜と、無人野菜販売所で買える旬の野菜と果物があればスーパーいらず。また、拾った木の実や海藻を食べるのも按田さんの楽しみのひとつ。山のものと海のもの、両方の恵みがいただけるのも三浦半島という土地の醍醐味。
まだはじめたばかりで、種類は多くないんです」と言って案内してくれた畑には、トマトや大根、ルッコラ、ヘチマ、数種のハーブが成長中。摘みたてのミントで作ったミントウォーターは清涼感たっぷり。畑はできるだけ毎日足を運び、その日必要な分だけ収穫する。
山と海の恵みをわけてもらって大切に食べる
海で拾ったくるみと、道端で拾ったシイの実。くるみはお酒に漬けてリキュールに、シイの実は炊き込みご飯にすると栗ご飯のような味に。
「バターナッツがあるけど、いる?」と、畑で採れた野菜をくれる大家さん。いつもおしゃべりが尽きない。
4.自然と共に暮らす。
海はもちろん、たっぷりの自然に囲まれた三浦半島での暮らし。窓から見える電線を野生のリスが駆けていくのを見かけたり、家の裏で野生のうさぎを見たこともあるそう。ほぼ日課となっている海ごはんの時間は、考え事をするのにも最適。「この土地の資源を生かした、三浦半島らしいプロダクトを作りたいんです」と構想中の按田さん。この美しい風景も、食材も、自然からの贈り物。大切に使って、いつかお返しができるといい。
おにぎりの具は、自家製の紫蘇の実の塩漬け、梅干しとおかか、とろろ昆布。自家製のキュウリのぬか漬けを添えて。
この日は海藻が拾えず。「でもかわいい貝殻を拾いました」
Navigator…〈按田餃子〉店主・按田優子(あんだ・ゆうこ)
菓子・パンの製造、乾物料理店でのメニュー開発などを経て独立。写真家の鈴木陽介さんと共に、〈按田餃子〉を営む。著書は『食べつなぐレシピ』(家の光協会)ほか多数。
(Hanako1202号掲載/photo : Norio Kidera text : Motoko Sasaki edit : Kana Umehara)
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