『あのこは貴族』岨手由貴子監督に聞く、 “女性”の話。自身のライフスタイル、今描きたい女性像とは?
Hanako.tokyo / 2021年12月16日 16時51分
女性の生き方、人種差別、環境破壊……などSDGsに関係する作品をセレクト。これらを入り口に、気になるテーマについてより深く調べてみて!正反対の境遇で生きてきた2人のゆるやかな連帯を捉えた『あのこは貴族』。作品に込めた想いや自身のライフスタイル、今描きたい女性像についてインタビューしました。
対立しそうな者同士が歩み寄り繋がる様子を描く。
生まれ育った環境が大きく違ったとしても、私たちはきっとわかり合える。日々積もっていく不満や苦しさを、みんなで分け合って進んでいけばいい……。そんな希望を感じさせてくれた映画『あのこは貴族』の岨手由貴子監督と、念願の初対面(画面上ではあるけれど)を果たし、制作中に意識した点や自身の生き方・働き方について聞いた。
―今作は、年齢や性別にかかわらず、観た人それぞれの心に小さな変化を与える作品だったと思います。届いた反響の中で特に印象的だったものはありますか?
「少し意外だったのは、男性からの共感が多かったこと。『自分もホモソーシャルなノリが苦手だ』という声や『自分も女性が生きづらい社会を作ることに加担していたのかもしれない』という声など、いろんな感想をいただきました」
―原作では男性と女性の対立がもう少し強かった気もするのですが、映画では富裕層の青年・幸一郎が抱える生きづらさに対して共感できる部分もありました。
「そこは意識的に原作と改変したところでもあります。彼のように古くからの固定観念に縛られた男性が生まれる理由を辿ってみると、日本社会の問題や、旧来的な構造への批判を際立たせる必要があると思って。彼一人が痛手を負うことで観客がスッキリするような終わり方にはしたくなかったんです」
―おっしゃるとおり、問題が全部解決して終わるのではなく、登場人物の幸せを遠くから祈りたくなるようなラストも心に残ります。
「自分らしい人生のスタートラインに立つことすらできていなかった人たちの物語なので、そこに辿り着けただけでもある意味ハッピーエンドなのかなと思います」
“普通の女性”の豊かな人生を切り取りたい。
こんなシスターフッドがずっと見たかった!現代女性に勇気を与える作品。
―監督自身のライフスタイルについても教えてください。2017年に金沢に移住されましたが、やはり働き方の面で変化はありましたか?
「これはあくまでも私のケースですが、金沢へ来てから時間的・経済的な余裕が生まれました。東京にいた頃は子どもが待機児童になってしまい困っていたのですが、今は安心して子どもを預けられる環境が整ったことで、効率よく仕事に集中することができています」
―映画業界での活躍を目指す若い女性にとって、そういう選択をした先輩がいることは大きな希望になりますね。
「そうなれたらうれしいですね。この業界はまだまだ男性社会で、出産を機に現場を離れてしまう女性スタッフも多く……。もし仕事との両立で困っている人がいたらぜひ相談に乗りたいと思っています」
―今後、どんな作品を作ってみたいと考えていますか?
「私と同世代くらいの女性が主人公の作品を作りたいです。私自身も38歳になって若い頃には見えなかった世界に気づけるようになりましたし、周りのママ友たちを見ていてもみんな面白い個性を持っているので。そういう女性たちを、デフォルメされた“おばちゃん”ではない描き方をしたいと思っていて」
―私も一視聴者として、普通の女性の日常を捉えた作品がもっと増えたらいいのに……と感じます。
「パワフルな女性が活躍するというジャンルではなく、“ただの女性”の物語がもっと成立するべきですよね。だって、世の中の女性って、大きな事件が起こらなくてもみんな人生を豊かに楽しんでいるじゃないですか。仕事ができる人である必要もないし、大恋愛をしていなくたっていい。10代も20代も30代も、それぞれのライフステージに違う楽しさがあるから、その魅力を伝えていけたらなって思います」
『あのこは貴族』
同じ都会に暮らしながら、まったく異なる生活を送っている華子と美紀。2人の人生が思いもよらず交錯したことで、それぞれに変化が生まれ、自分の人生を切り開こうとする姿を描く。Blu-ray 5,500円、DVD 4,180円(発売・販売元:バンダイナムコアーツ)©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
岨手由貴子(そで・ゆきこ)
1983年、長野県生まれ。大学在学中に監督養成学校で映画を学び、2015年に『グッド・ストライプス』でデビュー。同作で新藤兼人賞金賞を受賞した。
(Hanako1202号掲載/text : Momoka Oba edit : Kahoko Nishimura)
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