【京都】海を渡って〈籠神社〉へ。宮津・天橋立のたもとで元伊勢として名を馳せる。
Hanako.tokyo / 2022年1月8日 13時55分
日本には日々の喧騒から離れて静かに心を取り戻す場所が守られている。敷地内を心地よい風が抜け、鳥の声が聞こえる神社やお寺だ。昔の人もそっと自分をかえりみたり、大事な人の健康を願った。私たちも時間に余裕ができたら大自然に抱かれた社寺へも、参拝を目的に訪れてみてはどうだろう。緊張した日々を過ごしたこの一年、2022年への希望と共に新たなる一歩を踏み出すために。今回は、京都〈籠神社〉を訪れました。
南岸の〈天橋立ビューランド〉から眺める天橋立。籠神社は対岸に位置する。
日本三景のひとつ、天橋立(あまのはしだて)は京都北部の宮津湾に浮かぶ白砂青松(はくしゃせいしょう)の架け橋。その付け根に位置する籠神社(このじんじゃ)へは海を渡る観光船で向かうことを勧めたい。短いとはいえ船旅で海風を切って向かえば、少し清められた気持ちになるから不思議。
鳥居から一直線に続く拝殿。幕の十六八重菊花紋は伊勢神宮と同じで、縁の深さを伝えている。巫女さんの鮮やかな髪飾りが可愛らしい。
屋根に守られた狛犬は鎌倉時代に作られた石造りで、魔除けの力があると伝わる。どことなく愛らしい表情で、模した土鈴もある。
清々しい気分で参拝を終えたら、迷わず拝殿の脇へ進んでほしい。そこからじっくり眺めることができる本殿こそ、籠神社が伊勢のふるさとと呼ばれる理由を教えてくれる。その歴史は古く神代まで遡る。
拝殿から望む本殿。
拝殿の脇からは本殿の姿をじっくり眺めることができる。屋根の上には10本の勝男木が載り、両端で交差する内削ぎの千木、五色の座玉も伊勢神宮の御正殿と同じ。
現在、83代目が宮司を務める海部(あまべ)氏の祖先である彦火明命(ひこほあかりのみこと)が若狭湾に浮かぶ冠島に降臨し、奥宮の地・眞名井原(まないはら)の磐座(いわくら)に豊受大神(とようけおおかみ)を祀ったことに始まるという。その縁で天照大神(あまてらすおおかみ)を遷(うつ)し、4年の間、吉佐宮(よさのみや)の名で天照大神と豊受大神を一緒に祀った。のちに天照大神は伊勢の内宮(ないくう)へ遷り、食を司る豊受大神も請われて外宮(げくう)へ。
天照大神が遷った元伊勢は全国に数多いものの、豊受大神と一緒だったのはこの地だけ。内宮の元宮であり、外宮の元宮でもあることから元伊勢の名で広く知られているのだ。養老3(719)年には名を籠神社に改め、現在地へ。彦火明命を主祭神に、天照大神と豊受大神らを相殿神に祀る。
本殿は伊勢の神宮と同様の神明造り。江戸時代までは遷宮も行われており、現存する本殿は江戸末期のものだ。欄干の上には青、黄、赤、白、黒の五色の座玉(すえたま)。これも伊勢と同じで、縁の深さを物語る。伊勢では座玉を目にすることはできないだけに、貴重な眺めでもある。
御祭神それぞれの加護が込められた端正なお守り。
1.お守りはどれも上品で美しい。農業や衣食住の神である豊受大神の加護が込められた、諸業繁栄の勾玉守1,000円。2.主祭神の彦火明命に祈る、事業繁栄の鏡守1,000円。3.物事が良い方向に導かれるよう導きの守護を祈願する、導守800円。4•5.授与されるのは満月の日だけの産霊守(満月)と、新月の日だけの産霊守(新月)各1,200円。それぞれ裏には日と月の文字。日を間違えると授与できないため、HPでしっかり確認を。
もうひとつここにしかないものが、新月と満月の日だけに授与されるお守り。古(いにしえ)より、新月と満月には天地や万物を生成し、発展させる力があるとされてきた。その日に籠神社と眞名井神社を参拝することを「むすひ詣り」といい、新月の日には黒の、満月の日には白のお守りが授与される。合わせれば希望ある明日を切り開く意味を込めた“明”の文字が現れる。新年に心強い支えとなるに違いない。
古代の信仰が今に残る奥宮 眞名井神社。
古代の人々は石や木など、自然に神が宿ると考え祈りを捧げてきた。眞名井神社に2つある磐座も縄文時代から祭祀が行われてきた痕跡がある。神代から匏宮(よさのみや)と呼ばれ、天照大神が遷ってからは吉佐宮の宮号に。その後「天の眞名井の水」にちなみ眞名井神社と名付けられた。
汲んで持ち帰ることもできる「天の眞名井の水」で喉と心を潤す。
続いては歩いて15分ほどの場所にある奥宮 眞名井神社へ。まず出迎えてくれるのは境内に湧く「天の眞名井の水」。海部氏3代目の祖先、天村雲命(あめのむらくものみこと)が神々の使う霊水を黄金の鉢に入れて持ち帰り、高千穂宮、続いて眞名井原、そして倭姫命(やまとひめのみこと)により伊勢の上御井(かみのみいの)神社に移されたと伝わる御神水だ。
古くは縄文時代から人々が祈りを捧げた磐座が鎮座する境内は、昼間でも静けさが満ちる場所。2つある磐座の一方には御祭神の豊受大神を祀り、もう一方には天照大神と伊射奈岐大神(いざなぎのおおかみ)、伊射奈美大神(いざなみのおおかみ)を祀る。千数百年の時を超えて神へ祈れば、今が脈々と受け継がれる歴史の一部であると実感するはずだ。参拝の道中に様々な楽しみが待っているのは、景勝地にある神社ならでは。
天橋立のある南岸から籠神社がある北岸へは、船のほかに徒歩や自転車で渡るのもいい。モノレールやリフトで昇る南北にある展望台から天橋立を眺めたり、南岸の文殊堂の名で知られる智恩寺の門前にある「智恵の餅」を味わったり。心に余韻を残す時間を満喫したい。
天橋立で結ぶ両岸を船で渡るプチ旅。
南岸の天橋立から北岸の一の宮までを結ぶ観光船。天橋立を朝10時に出発する船は、ひとつ手前の乗り場からやってくるため、船が通れるよう廻旋橋が90度回転するのを見ることができる。船上でのカモメのエサやりも人気のオプション。たっぷりすぎる迫力だ。
リフトやケーブルカーで眺める絶景。
南岸と北岸の両側に天橋立を眺める展望台がある。写真は〈天橋立ビューランド〉へ向かう南側。穏やかな天気なら自然を身近に感じるリフトも気持ちがいい。展望台からは頭を下に天橋立を逆さに見ることで、龍が駆け上るように見える、股のぞきを楽しみたい。
味わいたいのは、対岸の門前の名物。
籠神社には残念ながら門前菓子がないため、対岸の智恩寺門前に4軒並ぶ茶屋の「智恵の餅」をおやつに。滑らかな餅と皮ごとすりつぶした挽き餡は、気取らず甘すぎず、小腹を満たしてくれる。写真は〈ちとせ茶屋〉の智恵の餅300円。京都府宮津市文珠472-1
〈籠神社〉
籠神社の名は、主祭神の彦火明命が竹で編んだ籠船に乗り海神の宮に行った故事にちなんで、籠宮と呼んだためと伝わる。丹後国一宮。海部氏の家系図は国宝。
京都府宮津市大垣430
0772-27-0006
7:00~16:30(電話受付、授与所8:30~)
(Hanako1204号掲載/photo : Yoshiko Watanabe text : Mako Yamato)
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