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古木に価値を見出して。古民家のアップサイクルを実現する〈山翠舎〉

Hanako.tokyo / 2022年7月17日 12時0分

古木に価値を見出して。古民家のアップサイクルを実現する〈山翠舎〉

ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第65回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんが、建築会社〈山翠舎(さんすいしゃ)〉の代表取締役社長・山上浩明さんに話を伺いました。

古民家風の飲食店や宿泊施設などを見かけることが多くなりました。木の温もりが感じられて、落ち着きますよね。

そんなときに知ったのが、1930年創業の〈山翠舎〉。通常は廃棄処分される「古木(こぼく)」を再活用し、古民家のリサイクルを実現している企業です。どういう思いで事業を展開しているのか。〈山翠舎〉の代表取締役社長である山上浩明さんを取材しました。

古木を使って、新しい価値を作っていく

〈T-HOUSE New Balance〉の店内。 photo:Takuya Nagata 



ーーまず、〈山翠舎〉はどのような事業を展開されているか教えてください。

「〈山翠舎〉は『温古創新(おんこそうしん)』をミッションとしています。古民家や古木という古いものを使って、新しい価値を作っていくという意味です。

具体的には、大きく分けて2つの事業があります。一つは、古木を使った設計施工の事業。戦前に建てられ、先祖から代々受け継がれてきた木造住宅は古民家と呼ばれますが、その解体から生まれるのが『古木』です。

〈山翠舎〉は、空き家の古民家を丁寧に解体し、貴重な部材を管理・保管。それらを使って、飲食店や商業施設、オフィスなどを施工しています。

例えば、東京・日本橋にある〈T-HOUSE New Balance〉は築122年の蔵の骨組みを移築し、新築の建物で丸ごと覆っています」。

元々は居住と貸店舗としてあった建築。古民家の良さを残しながら古木をふんだんに使いながら再生しました。

のれんの生地は麻100%で「白双布」と呼ばれています。ソフトで強く丈夫な生地になるように、経糸・緯糸で糸の太さを変えて、密に織り上げています。

当時の歪んだガラスを通して差し込む優しい日差し。慣れ親しんだ本もいつもと違って見えるかもしれません。

当時の歪んだガラスを通して差し込む優しい日差し。慣れ親しんだ本もいつもと違って見えるかもしれません。

施設内の椅子は新品の既製品ではなく、1つずつこだわりを持って選んだ「G-Plan」や「NATHAN」などのアンティークチェアを使用。施設内の椅子はすべて購入も可能。

雰囲気を壊さないために新しく作った壁にも土壁を採用しています。日本橋"T-HOUSE New Balance"の内装に使われている蔵を移築した際の土(土壁)を再利用しています。

「古木は一本一本の形状が異なり、昔の木組みや手斧の跡も残るなど味わい深さがある一方、一般の建築資材と比べて直線が取れなかったり、加工しづらかったりするんですね。そこで山翠舎では、日本の伝統的な建築技法をもつ職人の力を生かしています。『継手(つぎて)』という2つの部材をつなげて長さを増すための工法や、『仕口(しくち)』という2つの部材を直角または角度を持たせて組み合わせる工法を大切にして、それらの技術の保全・継承にもつなげています」。

長野市で運営しているシェアオフィス〈FEAT.space 長野スタートアップスタジオ〉のイベントでの様子。

「もう一つは、自社事業。先ほどご説明した設計施工の事業は、お客様からのオーダーがあって『つくる』事業ですが、自社事業では古材販売やシェアオフィスの運営、古木オリジナル家具販売、サブリース事業など『とどける』事業を幅広く展開しています」。

山上浩明さん。



ーー古民家を古木という資源として再活用する事業は、SDGsの「住み続けられるまちづくりを」「つくる責任、つかう責任」「陸の豊かさを守ろう」などさまざまな課題解決に寄与しそうです。

「我々は2006年から古木を活用した事業を開始してきました。2017年に信州ブランドアワード受賞、19年には環境に配慮した企業として長野県SDGs推進企業に第1期登録もされたほか、20年には古民家の解体から古木にまつわる一連のシステムを『古民家・古木サーキュラーエコノミー』として体系化したことでGOOD DESIGN賞も受賞しています。

とはいえ、もともとSDGsありきではありません。2006年に、世の中にまだ注目されていなかった古民家の木が捨てられていく現状が『もったいない』と感じたところから始まっています。それらの木々を『古木』と名前をつけ、それぞれのストーリーを見つけて、それを売っていく。循環させるために始めた仕組みづくりが、結果としてSDGsに近しくなったということですね。

今はできるだけ黒子でいたいと思うんです。例えば、雰囲気が良いお店があり、入ったら古木があって、温かみのある空間で落ち着き、いい時間を過ごすことができた。実は環境に良いものだと知る。調べたら、お店にあるのはオリジナルの家具で、ネットから購入できます」。



ーー最初に「古木」に注目されたのも、山上さんご自身の発想なのですか。

「はい。日本では古くから古材の加工・施工がされてきましたが、〈山翠舎〉でも、古木を使った内装工事の実績がありました。その古木を使った工事が強みになるのではないかと思いました。着想は父で、正月に話し合ってできたアイディアです。そのときのことを今でも覚えています。

私はもともとIT業界から建設業界に入ったので、解決するべき業界内の課題をたくさん感じました。例えば、日本には木がたくさんあるのに、木材を海外からたくさん輸入していたんですね。図面に『古材』と書いてあるから、わざわざ高い木材を船を使って輸入する。なんか、おかしいなと感じていたことでもありました。

一方で、山間にぽつんとある古い家や昔ながらの木造の家が、時代にそぐわないからとどんどんと壊されていく。これは、もったいないと思いました。古民家の建て替えやリフォームをしようとすると、解体をした方がいいという業者も多いんです。その方が手間がかかりませんから。でも、再利用していけば新しいビジネスになるのではないかなと考えたんです」。



ーー飲食店の初期コスト削減サービス(OASIS)や、シェアオフィス運営など、ますますビジネスが広がっていきそうですね。

「今年からは古民家再生のリーディングカンパニーとして、長野市と小諸市で古民家の自社運用も始めました。特に小諸市では行政と連携し、古民家を使ったサテライトオフィス事業のプロデュースも進めています。

さらに、職人技が必要な古民家の活用には多額の費用がかかるため、今後はリスクを減らした資金調達を可能にするファイナンスサービスも予定しています。

我々のノウハウや事業のポイントをコピーレフトの発想で展開していき、全国で古い建物が活かされるのが当たり前の世界をつくっていきたいです。これからも古民家と古木のバリューアップを通じた持続可能な企業経営と社会づくりで、関わるみんなが幸せになる『全方よし』の仕組みを目指していきます」。

〈山翠舎〉

https://www.sansui-sha.co.jp/?hsLang=ja

過去の連載はこちら


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