【対談】作詞家・児玉雨子×アーティスト・ゆっきゅん「性別はあくまで自分を構成するパーツの一部分」
Hanako.tokyo / 2022年7月17日 12時0分
いまやジェンダーもセクシャリティも男と女だけじゃない。出生時の性と性自認、性的感情を抱く対象などで細分化され、性を表す言葉はどんどん増えている。ふと、自分の性はなに?と考えると、ちょっと混乱することも。作詞家の児玉雨子さんとアーティストのゆっきゅんさんは、まずは「自分らしくあるのが基本」と語ります。
児玉雨子(以下、雨子):近頃、「ジェンダーリビール」なるものが流行ってるらしいんですよ。
ゆっきゅん:なんですか、それ?
雨子:「性別発表」なんだって。生まれてくる子の性別を家族や友人に周知するイベント。例えば、風船を割って、ブルーの紙吹雪が出てくれば男、ピンクの紙吹雪が出てくれば女、とか。ケーキを切って、フィリングがブルーだと男、ピンクだと女、そういうやつ。
ゆっきゅん:うわ〜、なんだか心がザワついてしまう。
雨子:ね。アメリカ発祥で、中西部の保守層の伝統なのかなと思ったら、ほんの10年くらい前から盛んに行われるようになってきて、SNSを通じて広まったらしく。社会的性別の「ジェンダー」という言葉が、身体の性別に使われているのにも引っかかるんだよなぁ。
ゆっきゅん:赤ちゃんが生まれてくる喜びや、ワクワクする気持ちはわかる。でも、だからといって、なぜ、生まれる前に色を決める?
雨子:ゆっきゅんみたいに「DIVAが生まれます!」って発表してほしいよ(笑)。
ゆっきゅん:そうですね。私は生まれたときからDIVAなので。
雨子:最高〜!ゆっきゅんの肩書はなぜ「DIVA」なの?
ゆっきゅん:そもそも私は、ルアンちゃんという女の子と「電影と少年CQ」というユニットを組んでいて、アイドルさんの対バンイベントで出ることが多いんです。でも、自分1人でなにかをやるなら、「ソロアイドル」というあり方よりも、「あ、DIVAだな」と気づいてしまって。
雨子:いちばんカッコいいやつ。
ゆっきゅん:去年からそうなりました(笑)。しかも、「DIVAです」と言ってしまえば、性別にまつわる雑な質問もされなくなってきて、最近は気が楽ですね。
雨子:逆に私は、「女」というか、「若い女性ならでは」ってずっと言われてきたんです。別に「若い女性」として生きているわけじゃないし、同世代の新進気鋭の男性クリエイターは「若い男性ならでは」とは言われない。私のオリジナリティやアイデンティティはそれしかないのかと。しかも、「若い女性だからこう書いてほしい/書かないでほしい」という要望がプロデューサーやディレクター、リスナーからもあって。キャリア不足にしても、私の名前ではなく、ジェンダーが先に立つのが悲しくて、悔しくて。でも、最近は私も、どんどん楽になってきてるんです。自分の年齢が上がったのもありつつ、時代が変わってきたのかも。ゆっきゅんは、キラキラしたものが好きなのは子どもの頃から?
ゆっきゅん:そうです。好きな服を着るようになったのは進学で上京してきてからだけど、中身はずっと変わらず。小学生の頃から毎月『ちゃお』を買って、『りぼん』は毎週耳鼻科で、『なかよし』は友達の家で読んでいて。
雨子:私も小学生のときは『ちゃお』をめっちゃ読んでた。すべての問題をイケメンとのキスで解決する変な漫画を覚えてて(笑)。
ゆっきゅん:あった!同じのを読んでた(笑)。そんなだったから、小学校・中学校と嫌な思いをすることも多かった。とはいえ、メッセージや主張として全身ピンクでいるわけでもなく、私の服装は体制への抵抗でもない。私は私。でも好きに選んで服を着ることで、家や学校の隅で縮こまってる……。
雨子:未来のDIVAが。
ゆっきゅん:そう、1000人に1人でもいいので、「僕もこんなかわいい服着ていいのかな、自分の好きなものを好きって言っていいのかな」と思ってくれれば。
性別はあくまで自分を構成するパーツの一部分
雨子:自分って誰なんだろう?なんなんだろう?と思うとき、ジェンダーやセクシャリティなんてまったく関係ない、とは思わないんです。精神って、ホルモン周期のような身体のバイオリズムにも影響されるそうなので、それを踏まえた上で、性別はあくまで自分を構成する要素の一つ。パーツの一部分でしかないなって。でも昨今、世間の風潮は、ジェンダーやセクシャリティだけが肥大化してきていて。性別発表するような異性愛前提の保守層は、「男らしさ」「女らしさ」へのこだわりが強くなったり、一方では、セクシャリティを表す言葉も多く知られてきました。LGBTQだけじゃなく、クエスチョニング、インターセックス、アセクシャル、パンセクシャル、ポリアモリー……。
ゆっきゅん:最近新しく聞いたセクシャリティの名前もありました。恋愛感情とその他友情などの行為に区別をつけない「クワセクシャル」とか。
雨子:いままで言葉のなかったものに名前がつくこと自体は素晴らしいことなのですが、「男らしさ」「女らしさ」に加え、「トランスらしさ」「どちらでもない人らしさ」も求められてしまうかもしれない、という危惧もあるなあ。
ゆっきゅん:それで思い出した。『クィア・アイ』(クィアな5人が人生につまずいている応募者を変身させるリアリティショー)がなんか怖くて観られないんですよ。絶賛して「クィアの人たちってこうなんだ!」みたいなことを言う人が怖いというか。『クィア・アイ』はあくまでエンタメで、クィア=クィア・アイではないし、まあ、観てないんでなにも言っちゃいけないんですけど、「よくできたLGBTQエンタメ」とそれが大好きな方々がちょっと怖くて、いまは観られないんです。
雨子:恋愛リアリティショーだけで恋愛全般を語るようなもんだよね(笑)。一方、そんなふうに取りあげられるのも、クィアな人が「クィア」という言葉によって可視化されるようになったからだし。
ゆっきゅん:そう。そういう人たちは昔からいる。言葉ができたから現れたわけじゃないんです。
雨子:それがマジョリティにも周知されるきっかけになったのは、いいことだとは思う。ただ、ジェンダーやセクシャリティを語るとき、どんな新しい言葉や制度が出てこようと、方程式のようにすっきり語れるものじゃないな、とも思う。普通に扱ってほしい人も、丁重に扱ってほしい人もいる。言葉は、ものごとを切り分けて定義するから、それに当てはまらない人を新たに生んでしまうんです。
ゆっきゅん:ただ、その言葉が存在してくれることで、自分をはじめて認識できたり、救われる人がいて。そのために言葉は生まれていくと思う。でも、マジョリティがマイノリティにまつわる言葉をたくさん知って覚えたからといって、「だから大丈夫」とかはないぞ、ということもいつも思います。
「私は私」という茨の道を行くしかないと思った
雨子:少し前、宇多田ヒカルが、「ノンバイナリー」(男性や女性の枠組みをあてはめないセクシャリティ)という言葉を知って「腑に落ちた」と発言したのが話題になりましたよね。彼女も言葉によって救われたひとりだった。やっぱり、セクシャリティを考えることは、自分と向き合うことかも。
ゆっきゅん:20歳のときに、ふと、「自分とは?」と考えたんです。セクシャリティも含めて、それまでは考えたことがなくて。男の子ではあるが、自分は一体なんだろうと。調べてはみたけれど、しっくりくる言葉はなにも用意されていなくて。「自分は自分」という茨の道を行くしかない、と思ったんです。その都度向き合うしかないな、って覚悟がついた。
雨子:すごくよくわかる。しかも、「自分は自分」と思えるには、覚悟と強さが必要だし、一朝一夕で言えるようになるものでもない。
ゆっきゅん:長い年月をかけてそう思えるようになったし、「自分である」ことに関して引け目もないし、好きなものを好きと言える状態にある。だからこそ、私は「DIVAです」と言えるようになったんだなって。既存のジェンダーロールからの逸脱だけに注目されるのも違うんだよなあ、と思いつつ、気にしたり無視したりして自由に生きていくしかないなと。
雨子:いまは、ジェンダーのカテゴリーやそれを表す言葉が必要な、いわば過渡期。マジョリティですら、古いジェンダー規範から抜け出そうともがいている。でもいずれ、ゆっきゅんの「茨の道」だった「私は私」そして「あなたはあなた」の、バラ色ジェンダーフリー時代がやってきたらいいな、と願っています。男か女か、どんな性的指向かが先に立たない世の中へ。まだまだ現状は遠いですが、そっちへ進んでいるはずですから。
Profile
児玉雨子(こだま・あめこ)/作詞家・作家。1993年、神奈川県生まれ。アイドルグループやテレビアニメなどに作詞を提供。著書に小説『誰にも奪われたくない/凸撃』など。
ゆっきゅん/DIVA。1995年、岡山県生まれ。2016年、「電影と少年CQ」を結成。2021年より「DIVA Project」を始動。浜崎あゆみなどのJ-POP DIVAを広く深く偏愛。
(Hanako1210号掲載/photo : Kazuharu Igarashi illustration : Yui Watanabe text : Izumi Karashima)
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