「妊娠・出産でキャリアが途絶え、周りと比べても焦ってしまう。」4人の賢者が答える、未来のための相談室。
Hanako.tokyo / 2022年7月26日 16時58分
全ての人が尊重される未来の実現のためには、わたしたちの悩みの解決も大切な一歩なはず。すぐには解決しなくても、どう考えればいいのかだけでも、教えて賢者たち!
Q.「妊娠・出産でキャリアが途絶え、周りの友人と比べても焦ってしまう。」
コロナ下での妊娠・出産を機に、長年勤めた会社をやむなく退職しました。自分としてはまたキャリアを復活させたいです。夫は「出来る限り育児に協力したい」と言うものの、激務で休日出勤も多く、気持ちとは裏腹にワンオペ状態です。小さい子供を育てながらの再就職はハードルがとても高いです。できれば正社員が理想ですが、時短勤務で雇ってもらえるところはかなり少なそうで、年齢的にもとても焦ってしまいます。(mari/34歳)
A.1 鈴木涼美「休んでいた数年は本当にたかが数年と思える気がします。」
私は今年39歳で、若くして子供を産んだ友人や、職種の都合で一旦仕事を辞めて出産/育児をしていた友人が、徐々に子供が手離れし、バリバリと仕事や遊びに復帰している時期です。休んでいたり田舎に引っ込んでいたりした時期が嘘のように、昔と同じように切磋琢磨しています。若い頃は正直、育児に追われる友人を見ると「偉いなぁまだまだ仕事も遊びも楽しい時期なのに諦めて」と思っていましたが、40歳前後になり、自分や周囲の子供のいない友人たちが、子供がいない人生を視野に入れざるを得ない状況になってみると、「子供のために一旦キャリアを中断したあの子はなんて賢かったんだ!」と心から思います。
周囲がバリバリに楽しんで仕事をしている時に自分の都合で動けない焦りはものすごく想像できます。でも、バリバリに見える人たちも意外と何十年もフルスロットルでキャリアを駆け登っている訳ではなく、停滞したり飽きたり嫌になったりしながら、今年も何も変化がなかったな、、、という年末を過ごしているものです。本格的に復帰するまで数年かかるかもしれませんが、過ぎて復帰してしまうと、その間バリバリやっていた友人にむしろものすごく羨ましがられることもあり、そうなってみると休んでいた数年は本当にたかが数年と思える気がします。
A.2 イシヅカユウ「どうかいい策をみんなで考えていきましょう。」
まず、これは相談者様の問題ではなくて、現代の社会が抱えている大きな問題だと思います。相談者様がこんな風に思い悩まなければならないことにすごく憤りを感じますし、ちゃんとした解決策を思い付くことができない自分が本当に情けないです。それと、誌面を通して少しでも多くの人に届くように言いたいのですが、子供にワンオペはマジで無理!私の妹夫婦には子供が3人いますが、実家近くで母と祖母と協力して子育てをしていて、さらに私がいても結構大変です。
子供だけに集中していればいいわけではなく、日々のことや自分のことだってする必要があるのです。私も甥っ子達は大好きですが、東京にいる時よりも疲れが溜まることもある程なのです。一人で子供を見るのって凄いし尊敬!じゃあないんです。現状それに対する打開策がなさすぎるので、どうかいい策をみんなで考えていきましょう。
A.3 太田啓子「まずはなんとか就職を。」
おつらいですね。焦るのはもっともです。厚生労働省の「マザーズハローワーク事業」など使える行政の制度はなるべく使いましょう。これはあなた個人の問題ではなく、性別役割分業意識がいまだ根強く、まともな賃金を得られる職には往々にして長時間労働や転勤がセットでついてくる社会で多くの女性が割をくう、構造的な問題。夫の働き方や親族にどれくらい頼れるかなど、自分ではどうしようもない事情に子持ち女性のキャリアは嫌になるほど左右されます。まずはなんとか就職を。そして、社会の不平等さに目を向けるきっかけを得たことをお仕事や市民運動でもぜひ生かしてください。次世代にこんなモヤモヤを引き継がせたくないですね。
A.4 吉村泰典「社会・企業・男性の意識が変わらないといけない。」
ベビーシッターや家事代行を雇うことで女性のキャリアを途絶えさせない家庭も海外では多く見られますが、日本ではまだそう多くありませんね。経済的なハードルもあると思いますが、「母親が子供の面倒を見ないなんてかわいそう」といった周囲の意識にも問題があるでしょう。僕は妻が単身赴任の間、娘と二人で暮らしていましたが、子育ては教授として生徒を育てるのとは比べ物にならないくらい難しかった。
それはつまり、育児から得られる学びがとても多いということで、子育てというよりも“自分育て”だったとも言えるでしょう。そのことを男性たちも知るべきだと思います。セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(「性と生殖に関する健康と権利」)を女性が持つためには、社会・企業・男性の意識が変わらないといけない。企業が変わろうとして制度を制定し始め、男性が育休を取る機会も増えました。ただ社会がそれに追いついていないのが現状です。ヒラリー・クリントンも「ガラスの天井がある」と言いましたが、それを今、女性たちが少しずつ切り崩している渦中にあるのだと思います。
Answerers
吉村泰典(よしむら・やすのり)/産婦人科医師・慶應義塾大学名誉教授・ウィメンズ・ヘルス・アクション代表。生殖医療の第一人者として、不妊症、分娩など数多くの患者の治療を担当。ウィメンズ・ヘルス・アクションのメディア「わたしたちのヘルシー」(https://watashitachino-healthy.com/)にて、心と体の話を始めるきっかけを発信している。
太田啓子(おおた・けいこ)/弁護士。神奈川県弁護士会所属。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして、主に離婚、セクシャルハラスメント、性被害などの案件を手がける。近著に『これからの男の子たちへ「 男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)など。
イシヅカユウ/モデル・俳優。1991年生まれ。2021年に、文月悠光の詩を原案とした短編映画『片袖の魚』で主演としてスクリーンデビューを果たす。雑誌やCM、ショーなどさまざまな媒体で活躍中。体が男性として生まれながら女性のアイデンティティを持つMtFであると公表している。
鈴木涼美(すずき・すずみ)/社会学者・作家。1983年生まれ。慶應義塾大学在学中にAVデビューしたのち、東京大学大学院を修了し、日本経済新聞社記者を経て作家に。書評から恋愛エッセイまで幅広く執筆。近著に『ニッポンのおじさん』(角川書店)、『娼婦の本棚』(中央公論新社)など。
(Hanako1210号掲載/illustration : Suzu Saito text & edit : Rio Hirai, Uno Kawabata (FIUME Inc.))
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