【私と、SDGs】漫画家・今日マチ子さん「自分も他人も何かにくくらなくていい。」
Hanako.tokyo / 2022年8月3日 15時0分
環境、社会、経済……。SDGsの17の目標は多岐にわたりますが、その根底にあるのは「あらゆる人々、後から来る世代のために、今の社会や生活を変えよう」ということ。それは我慢することや楽しみを減らすのではなく、むしろ「なんでこっちのライフスタイルや社会にしなかったんだろう。早く言ってよ!」と言いたくなるようなモデルチェンジ。働く時間を減らしたり、家族との時間を増やしたり、大量消費ではなくモノを大切にする……。豊かな未来への原動力となるのは「優しさ」。「自分に優しく、人に優しく」をニュールールに、これからのSDGsについて考えました。今回は『私と、SDGs』をテーマに、漫画家・今日マチ子さんにお話を聞きました。
【MOVIE】『リトル・ガール』
サシャの夢は、スカートをはいて学校へ行くこと、バレエの発表会で他の女の子たちと同じ衣装を着て踊ること、お友達と一緒にバービー人形で遊ぶこと。「だって私は女の子だから」
男の子の体に生まれたトランスジェンダーの少女をめぐるドキュメンタリー。監督のセバスチャン・リフシッツはジェンダーをテーマにした作品を数多く手がける。Amazon Prime VideoやNetflixなどでも配信中。
自分も他人も何かにくくらなくていい。いろんな人がいる、それでいいと思う。
フランス北部の町に住む少女・サシャは、生まれたときの性別は「男の子」だったが、2歳を過ぎた頃から、「私は女の子」と繰り返し訴えるようになる。最初はとまどった両親も、彼女の気持ちを尊重し全力でサポートしていくことに。そしてサシャは小学生になる。他の女の子と同じようにスカートをはき、ピンクのかわいいリュックで登校したい、と願うものの学校はそれを認めなかった―。昨年公開され話題となったドキュメンタリー映画『リトル・ガール』。漫画家の今日マチ子さんは深く感銘を受け、あらためて、男とは何か、女とは何か、を考えさせられたという。
「この映画が画期的なのは、トランスジェンダーのアイデンティティは、思春期などを経て徐々に確立するのではなく、生まれたときから男女が入れ替わっている、違う容れ物に入ってしまった状態だと明らかにしたことだと思うんです。そして、そんな彼女をちゃんと理解し、支える家族がいる素晴らしさ。こういう問題は、自分のいちばん身近な人が味方になってくれないと、そこからどうにも進めなくなってしまう。お父さんもお母さんも兄弟たちも、みんなでサシャを助け、理解のない人々と闘っていく。なかでも、闘う相手が、同級生とかではなく、学校の先生やバレエ教室の先生といった教育者であることが驚きでした。
彼らは、男の子はこうあるべき、女の子はこうあるべき、という型にはめようとするばかりで、サシャがどんな女の子かを知ろうとしない。同調圧力の強い日本だとさもありなんですが、欧米は、特に、自由・平等・友愛のフランスなんかは受け入れてくれると思っていたけれど、思いのほか保守的なんだなって。サシャは、とにかく、ピンク色の服やキラキラしたものを好み、ブルー系を拒否するんです。
『私は女の子』だと周囲にわかってもらいたいし、自分でも納得したい、だからあえて『男の子じゃないもの』を選んでいるのかなと思うけれど、本能的に選別しているようにも見える。すると、じゃあ、私は?って。私は女性で性自認も女性。でも、ゆるふわ的な格好に興味がないし、ピンクが好きなわけでもなく。最近、プロフィールにセクシャリティを書く人がいるけれど、そういうのを見ると、自分がそれを表明していないことにモヤモヤする。そもそも自分はなんだろうと。トランスジェンダー的な先生の指導を受けたことがあるんです。“トランスジェンダー的”というのは、先生自身も性自認があいまいで、『男と女の間を行ったり来たりしてるの』と。
見た目は男性ですが、考え方は女性的だったり、パンツスタイルのときもあれば、ミニスカートに網タイツだったり。当時、そういったジェンダーの人と接するのは初めてで、最初はかなり混乱してしまったんです。でもそのうち、『先生は先生だ』と。世の中にはいろんな人がいる。すごくゆるい言い方ですが、そのくらいでいいと私は思う。そもそも、自分のこともわからないのに、他人を理解できると思うのは傲慢。だからこそ、混乱したり、拒否してしまったりしてしまう。理解しようとしすぎなくていいんじゃないかなって。大事なのは、『いろんな人がいるということを知り、許容すること』だと思うんです」
Profile…漫画家・今日マチ子(きょう・まちこ)
東京都生まれ。コロナ禍の日常を絵日記のように描いた『Distance わたしの#stayhome日記』が話題に。近著に『夜の大人、朝の子ども』『Essential わたしの#stayhome日記 2021-2022』がある。
(Hanako1210号掲載/photo : Kengo Shimizu text : Izumi Karashima)
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