【私と、SDGs】エディター&ライター・辛島いづみさん「なにを信じ、なにを大切にするのか。それを考え続けることが「暮し」。」
Hanako.tokyo / 2022年8月13日 15時0分
環境、社会、経済……。SDGsの17の目標は多岐にわたりますが、その根底にあるのは「あらゆる人々、後から来る世代のために、今の社会や生活を変えよう」ということ。それは我慢することや楽しみを減らすのではなく、むしろ「なんでこっちのライフスタイルや社会にしなかったんだろう。早く言ってよ!」と言いたくなるようなモデルチェンジ。働く時間を減らしたり、家族との時間を増やしたり、大量消費ではなくモノを大切にする……。豊かな未来への原動力となるのは「優しさ」。「自分に優しく、人に優しく」をニュールールに、これからのSDGsについて考えました。今回は『私と、SDGs』をテーマに、エディター&ライター・辛島いづみさんにお話を聞きました。
【PEOPLE】『暮しの手帖』創刊編集長・花森安治(はなもり・やすじ)
「ほんとうの美しさは、真実の暮しから」。花森が記した文章をまとめた選集『花森安治選集』は全3巻(各3,960円/暮しの手帖社)。反戦の詩「見よ ぼくら一銭五厘の旗」は名文。
『暮しの手帖』創刊編集長。編集・執筆だけでなく雑誌をデザインし、表紙画も毎号手がけていた。妥協を許さない頑固さと自由な精神の持ち主で、家父長制に異を唱える明治生まれのフェミニスト。
なにを信じ、なにを大切にするのか。それを考え続けることが「暮し」。
「これはあなたの手帖です」で始まる発刊の言葉は、「この中のどれか一つ二つは/すぐ今日あなたの暮しに役立ち/せめてどれかもう一つ二つは/すぐに役に立たないように見えても/やがてこころの底ふかく沈んで/いつしかあなたの暮し方を変えてしまう」と続く。花森安治を知っているだろうか。などと、物知り顔で書き始めたけれど、彼は1978年に66歳でこの世を去っている。でも、彼の「思い」は言葉として残り、現在も雑誌という形で生き続けている。
そう、彼は戦後間もない頃、大橋鎭子(おおはししずこ)とともに『暮しの手帖』をたちあげた編集者である。花森は、1911(明治44)年に神戸で生まれた。東京帝国大学文学部入学後、化粧品会社の広告やPR雑誌の編集などを手がけ、編集やデザインを学ぶ。やがて、戦争の時代に突入。日中戦争時は徴兵されて満州へ赴き、太平洋戦争時には大政翼賛会で国策宣伝の仕事を担った。そして、戦後まもない1948(昭和23)年、『暮しの手帖』を創刊した(注:創刊時は『美しい暮しの手帖』)。
彼がここで掲げた「暮し」には、戦後の貧しさの中、日々の「生活」にあけくれる人々に、かつて日本人が大切にしてきたはずの「暮し」を取り戻そうという願いとともに、戦争へと駆り立てたものへの大いなる批判が込められていた。つまり、人間はどう生きるべきなのか、なにを信じ、なにを大切にするのか、それを考え続けることが「暮し」なのだと。彼自身、髪を伸ばしてパーマをかけ、女装していたこともその一環だったと思うし、『暮しの手帖』の名物企画「商品テスト」や、花森自身が日本各地をまわり、時には差別されるような弱い立場にいる人々の「暮し」を詳細に取材した「ある日本人の暮し」シリーズもそう。
「本当のこと」を伝えることに彼は執念を燃やしていた。それはおそらく、戦争に加担してしまったことへの反省もあったのだろう。花森が没して44年。私たちはいま、「持続可能な社会」についてようやく考え始め、目指すべき17の項目を掲げている。しかし、花森が生きていたなら、「なにをいまさら」と髪を振り乱し鬼の形相で憤慨しただろう。貧困・飢餓をなくそう、公平・公正な社会を目指そう、差別をなくそう、戦争をなくそう、地球を守ろう。「ぼくがあれだけ言ったのに」と。
花森が晩年、いちばん憂慮していたのは、どんどん物質主義へとかたむいていく世相だった。戦後のもののない時代から一転、大量消費社会へ突入。使い捨てのものが増え、自然破壊が進み、公害が社会問題となり、東西冷戦で再び戦争の足音が聞こえてきた。花森は「君もおまえも聞いてくれ」と題したエッセイでこう記している。
「このへんで、ぼくら、もう頭を切りかえないと、とんでもない手おくれになってしまいそうなのだ」と。そして、「ぼくより、ずっと若い人たち。おそらく、君たちは、世界中がこんなことをしていたら、地球といっしょに、亡んでゆくかもしれないのだ。その日に、立ち会わなければならないのだ。そういう目に、君たちを会わせる、その責任は、はっきりぼくらにある」(『文藝春秋』1972年3月号)。これが書かれたのはちょうど50年前。「責任」はいまを生きる私たちにある。
Profile…辛島いづみ(からしま・いづみ)
『BRUTUS』『GINZA』『週刊文春WOMAN』などさまざまな雑誌に関わっている。また、スチャダラパーとともにインディーズ雑誌『余談』を作っている。
(Hanako1210号掲載/photo : Kengo Shimizu)
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